- アーティスト: ピエール・ムーランズ・ゴング
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2006/10/25
- メディア: CD
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たぶんこの作品を聴くのは、Mike Oldfieldつながりで、という人が多いのではないだろうか。タイトル曲にマイクが参加していて、彼の客演した作品のなかでも特に評価が高いのがこれだからだ。もともと、ムーランは初期マイクの集大成「Incantations」邦題「呪文」にドラム、ヴィブラフォンで参加しており、オーケストラを率いたツアーでも同行している(そのときの映像はDVD「Exposed」で見ることができる)。
この作品のもっとも大きな特徴は、そのピエール・ムーランおよび弟ベノワ・ムーランたちが操るパーカッション類の音だ。残響をコントロールできる鉄琴(みたいなものか)ヴィブラフォンと、マリンバ(木琴)などの鍵盤状の打楽器を駆使したサウンドは非常に斬新なもの。これらのメロディを奏でることのできる打楽器、というパーカッションとも、キーボード類とも異なるアプローチが今までに聴いたことのないような雰囲気を作っている。
一曲目こそヴォーカル曲で、それほど妙ではないが、二曲目のクロスカレンツでは冒頭から印象的なドラムパターンに、マリンバが絡む独特のサウンドを展開している。音数の非常に多い鍵盤打楽器ならではのリズミカルでありながらメロディアスなフレーズは一聴の価値ありかと。そこからの展開はフュージョンらしくヴァイオリンソロなどが続く(ここでのソロはディディエ・ロックウッドというジャズヴァイオリニストのかなり有名な人らしい)。
次に続くのが12分に及ぶ大作のタイトル曲「Downwind(追い風)」。この曲の印象を一言で言うと、マイクの「呪文」を、パート3とパート4を中心に12分に圧縮してみた、という感じだ。もちろんフュージョンが基礎なのでそこらへんの印象はだいぶ異なるが、呪文パート4でのいつまで続くのかわからないようなヴァイブの反復部分を思わせるような、ミニマムフレーズの反復はここでも取り入れられていて、そこにマイクのギターが被さる展開はいかにもマイク調だ。キーボードの音色も非常にそれっぽい。中間部では、ムーランのダイナミックで緊張感あふれるドラムソロが聴け、これがかなり格好いい。ここではマイクの兄テリー・オールドフィールドのフルートも顔を出し、マイク一派の強い影響が見られる。この曲はムーランズ・ゴングのなかでも結構異色のものだろう。
しかし、なんといってもマリンバ、ヴァイブの鍵盤打楽器の音色はとても美しい。氷の世界を思わせるような硬質でエコーがかかったヴァイブの音色、ヴァイブに比べて柔らかく暖かい感じのするマリンバ。
続く「Jin-Go-Lo-Ba」はパーカッションを導入したロックの代名詞ともいえるサンタナへのオマージュ。サンタナバージョンを聴いたことはないが、冒頭から勢いよくヴァイブの連打が入るところが非常に格好いい。ラテンな曲調にヴァイブの取り合わせがとても面白い一曲。
終盤二曲は神秘的で穏やかなヴァイブの響きが印象的な、気持ちよく眠れそうな曲が続く。
マイクつながりで聴いてみたのが大正解で、私にはかなり斬新で面白い作品だった。鍵盤打楽器の、打楽器にしてメロディも奏でられるという特性を生かしたサウンドはとても面白い。そして何よりその音色! この美しく硬質な、神秘的でファンタジックな音色が凄く気に入ってしまった。とにかくこのバンドもアルバム全部聴いてみるつもり。