Amarok - Quentadharken

Quentadharken

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アマロック、といってもMike Oldfieldの一曲六十分のアルバムでもなければ、ポーランドプログレバンドでもなく、MP3プレイヤーでもない、スペインのトラッドプログレバンド、Amarokの六枚目2004年作「クエンタダルケン」。最近七枚目が出たが、まだ手に入れていない。

音を説明するのは難しい。地中海とかバスク地方とかケルト、トルコさらには中東、アラブといった各地方の音楽の要素を持っているようで、ワールドミュージックに詳しくない私には、どこらへんがどの地方の音楽っぽいかというのがよくわからない。

ただ、さまざまな民族音楽を基盤にしたうえに、ELPエマーソン・レイク&パーマー)、ジェネシス的なキーボードがかぶさるというかなり個性的な音作りになっていて、非常に面白い。初期作品はもっとアコースティックサウンドよりだったが、前作あたりからエレクトリックバンド化したらしい。

一曲目「シェ」はフルートやオーボエがリードするいかにもな(たぶん中東系)トラッド音楽なのだけれど、アナログキーボードが巧妙に絡んでいる。何度か転調を繰り返し、さまざまな民族音楽調の変化を経た後、情熱的な女性ヴォーカルが現れるところはかなりの聞き所。

続く二曲目「最後の探検」がいきなりキース・エマーソンばりのキーボードがけたたましく鳴り響き、ドプログレサウンド。前曲がまがりなりにもAcousticなトラッドサウンドだったところにヴィンテージキーボードの音色が来るものだからこれにはかなり面食らった。しかし、女性ヴォーカルの迫力や、エレキギターも絡んだサウンドはこのバンドの神髄を見せつけるようだ。

三曲目「喜悦」はアコースティックな小曲。ハープ(?)にフルートが絡む。鳴っている楽器の種類が全然わからん。

四曲目「亜寒帯の地」は九分の大曲。グロッケンシュピールらしき打楽器とサックスが絡むエレクトリックなサウンド。キーボード、エレキギターによるソロなどを挾み、フルートがリードするアコースティックなパートに展開する。たぶんオーボエも演奏に加わってる。リズム隊が入り、後半は女性ヴォーカルのスキャット。バックでエレキギターがぎゅいぎゅい鳴っているのがこのバンドらしいところか。

五曲目「螺旋」も複数のパートを持つ七分の大曲。序盤は中近東っぽい弦楽器(これは何の楽器なのか)の爪弾きにはじまり、ヴォーカルが何語だかわからない歌を歌い始める。激しいパートが終わるとコーラスの入った静かな歌のパートに展開。その後メロトロンの鳴り響くハードなパートが始まりギターのソロに突入し、スペイシーなSEと不気味な叫び声の絡んだ不可思議なアンサンブルが奏でられ終わる。

六曲目「イルミナード」(ライナーや帯にはこう書いてあるが、Alumbradoがイルミナードとは読めない気がする。)はピアノメインの小品。

七曲目から十一曲目までの「闇を打ち負かす歌」は五つのパートに分かれたトータル二十分の本作最大の組曲。キーボードやエレキギターも加わったサウンドながらトラッドな音色も効いている独特のトラッドプログレサウンドが展開される。一曲目はエレクトリック色が強めだがアコースティックなピアノやグロッケンなども挿入され、哀しげなメロディが印象的な導入部となっている。前半の中近東的なアプローチに比べ、多少ファンタジックな要素が強めか。二曲目は前曲に続いての緩やかな演奏にヴォーカルが入る。ギターも絡んでくるが基本は静かに聴かせるパートだ。三曲目はキーボードが重ねられプログレ色が強まる。ヴォーカルもより力強くテンポもアップしている。後半はミステリアスな演奏とヴォーカルに引き継がれる。四曲目は小鳥のさえずりのようなフルートに導かれてヴォーカル。中盤からはちょっとしたユーモアも感じられるトラッド風の演奏。ここの管楽器はオーボエで良いのだろうか。後半にはプログレ色ばりばりのキーボードがソロをやるんだけれど、サックスやオーボエといった楽器もソロを取っていて、キーボードだけが浮き上がらないように曲に組み込まれている。組曲ラストはヴォーカルの後に、グロッケンやキーボードのバッキングのうえを独特の音色のアコースティック楽器がアンサンブルを奏でる。ヴォーカルがハミングし、歌詞のないコーラスが歌われ、静かに終わる。

私の持っているベル・アンティークから出ている国内盤CDにはこの後「石の迷宮2004」というボーナストラックが付いている。かなりテンションの高いヴォーカルと演奏を聴かせてくれる聴き応えのある一曲。

エレクトリック楽器とアコースティック楽器の絡ませ方が上手いのか、両者が自然に楽曲に溶け込んでいるのが面白い。クリスタルボイスではなく、アクの強い情熱的なヴォーカルがかなり力強く曲を引っ張っている。

トラッドプログレの名盤として(言及しているのが数えるほどしかいないが)評価が高い一作なので、プログレ民族音楽が絡むものに興味のある人には是非お勧め。しかし、ワールドミュージック好きはこのバンドのプログレ色の強さをどう思うかはちょっとわからない。ケルティックプログレの名バンドアイオナが現代的に洗練されたスタイリッシュなトラッドプログレだとすると、アマロックはかなり土臭いというかパッションあふれる中近東的なサウンドなので、ある意味対照的な位置にあると思う。

なお、このCDはいま日本のベル・アンティークと、フランスのインディーズプログレレーベルムゼアからと二つ出ている。私は日本盤を持っているが、ムゼアから出ている方はボーナストラックが三つくらい追加されているのでそっちの方が良いかも知れない。

ちなみに、輸入盤をamazonで買うと高すぎるのでHMVで買う方がいい。Amarok

AMAROK discography, MP3 and reviews

ちなみにワールドミュージック、というか民族音楽要素の強いものには[トラッド]タグをつけたが、「トラッド」は必ずしも民族音楽とイコールではないようで、むしろヨーロッパの民謡などを指すこともあるらしい。また、「エスニック」がほぼ中近東を指す言葉としても使われるらしく、いろいろややこしい。とりあえず民族音楽の要素を持つ音楽については勝手ながら便宜的に全部[トラッド]とタグ付けするつもりなので注意。