KiLA - Luna Park

Luna Park

Luna Park


トラッドプログレ三つ目はKilaアイルランドのミクスチャートラッドバンドキーラの2004年作。アイリッシュというかケルトミュージックを基礎に、アフロ、ファンク、カリブ、ジプシー、プログレを混ぜ合わせたといわれるミクスチャートラッドを展開するバンドで、非常にユニークで質の高い音楽を作っている。

バンド編成は基本的にアコースティックで、ベースがエレクトリックなくらいだ。しかし、生み出される楽曲のグルーヴはかなり激しく、多用されるパーカッションとうねるベースのリズムの上に、イリアンパイプとフィドルによるジグかリールかというアイリッシュダンスミュージックが乗ることで、熱狂的なノリが生み出されている。

個人的にはかなり衝撃的なバンドだ。まあ、うだうだ説明をするより、以下の映像を見てもらった方がいい。私はさすらいさんのブログでこの映像を見て以来、何週間か一日一回以上必ず見ていたくらいはまった。

冒頭切り込んでくるベースからかなり良い感じだ。そしてベースとでっかいタンバリンみたいなボーランやアコギのリズムが乗ってきたところで切り込んでくるイリアンパイプとフィドル(トラッドではバイオリンをこう呼ぶらしい)のユニゾン。これが最高の格好良さ。そして不思議な発音の歌。ボーランはじめ、あまり見ない楽器がいくつかある。特に、風の音を鳴らしているのはいったい何なのだろう。後半のアレンジがスタジオ版とは違い、よりノリを重視したものになっているのは流石。スタジオ版では終盤は結構静かに進行する。終盤の静かに盛り上がっていって、いったんブレイクした後メインテーマがリプライズして終了するラストはすばらしい。

しかし、何度聴いても名曲だ。

これは「ルナ・パーク」一曲目の「闇を吹き飛ばせ」のライブ映像。実はこの映像は日本盤「ルナ・パーク」に同梱されているDVDと同じ物なので、他の映像を見たいなら前掲のamazonからではなく、HMVから買うべき(これの日本盤を出しているレーベルはamazonで扱っていないので)。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1898829

で、「ルナ・パーク」二曲目から。二曲目は前曲よりはアコースティックよりのサウンド。しかし、充分リズミカルで速いテンポの曲調に、ホイッスル(フルートではない、かな)のトラッドなメロディが炸裂する叙情的な曲。

三曲目は一転穏やかな曲調でフルートがリードするトラッドな一曲。後半にはサックスも入る。ハイテンションダンスナンバーもすばらしいのだけれど、こうした叙情的な曲でも魅力的だ。

四曲目は一曲目路線だが、よりコンパクトで歌メインのつくりで、これもグルーヴあふれるリズムセクションが格好いい。

五曲目は九分の長さ。前半は非常に静かなトラッド風で、ホイッスルが淡々と悲しげなメロディを奏でている。三分を過ぎたあたりで展開が変わり、全体的にスピーディになる。聴きどころは六分を超えたあたりのアコギの激しい演奏にある。音圧が増し、演奏が混沌の度を上げていくのとともに、アコギもハードになっていく。頂点に達したところでクールダウン。ピアノの演奏とともに。静かにフェードアウトしていく。一曲目の情熱的でダンサブルな大曲に比べると対照的な曲調だ。静かな狂気を思わせる夜のイメージ。

六曲目はアダルトな雰囲気の歌物。フィドルの旋律が印象的。

七曲目はホイッスル系の笛のユニゾンがリードするトラッド色の強い曲。メロディが非常に魅力的で、このバンドはトラッド系の曲においてもかなり質が高いことを見せつける。

八曲目はトラッド色強めだがアップテンポでにぎやかなアイリッシュダンスミュージック。このバンドの曲は、どの曲もどこか夜のイメージがあって面白い。この曲も例外でない。

九曲目は二分ほどのアカペラ。コーラスも少しはいる。クライマックスを前にした小品。

十曲目タイトル曲は十分超の大作。序盤は笛やアコギによる演奏で、イリアンパイプが入ってくると落ち着いた曲展開が始まる。四分を超えたあたりでフルートのメロディが全体をリードし、イリアンパイプや他の楽器のアンサンブルが加わる。ある程度ハイテンションなアンサンブルが続くと、各楽器がバッキングに移行し、主たるメロディが消え、各楽器がそれぞれのフレーズを繰り返しながら曲調が変化していく。いくつかの楽器はカオスな効果音みたいな奇矯な音を出しつつ、クライマックスへ向かう。カオスな演奏が音量を増し、終了。
非常に静かな緊張感にあふれる曲で、一曲目のアッパーな雰囲気とはまるで対照的だ。明快なメロディは姿を隠し、各楽器のテンションの高い演奏が渾然一体となってぶつかってくる。

ラストはピアノの小曲で幕を閉じる。前半はアッパーな曲が多く、後半になるにつれて、静の面を強調するようになっていく。


名曲の「闇を吹き飛ばせ」だけでも買いの一枚だと思うが、他の曲もおしなべて密度、質が高く、名盤との評価もうなずけるアルバムだ。ダンスミュージック的曲の格好良さは格別で、トラッド曲のメロディの叙情性もすばらしく、トラッド系でありながらロックっぽいところもあるので、アコースティックなトラッドというのはちょっと、という人にも是非聴いてみて欲しい音楽。

アイリッシュトラッドを取り入れた音楽としては個人的にかなり評価が高いバンドだ。