Camel - Nude

Nude

Nude

イギリスのプログレバンド、キャメルの81年発表の「ヌード」。邦題には「Mr.Oの帰還」のサブタイトルが付いていて、これは終戦二十数年後に南島で発見された日本兵小野田寛郎のこと。その事件にインスパイアされた作られたコンセプトアルバムが本作。

この時代になるとキャメルは全盛期のメンバーが半分いなくなり、オリジナルメンバーはアンドリュー・ラティマーとアンディ・ワードの二人となる。キーボードはこのあたりからほとんどアルバムごとにちょこちょこ違っているが、ここではダンカン・マッケイ、ベースには「Breathless」でリチャード・シンクレアが抜けてから、ずっとラティマーとともにキャメルを支えているコリン・バース。他にはメル・コリンズがゲストながら引き続き参加。

一般にキャメルの全盛期は70年代の「Breathless」あたりまでと言われていて、そこでリチャード・シンクレアとメル・コリンズが脱退してからはあまり良い評判を聞かない。このアルバムを聴いたのは、70年代のものを全て聴いて、90年代以降の復活キャメルも一通り聴いてからだった。80年代の一回解散したときのアルバム「Stationery Traveler」も聴いたのだけれど、デジタル色が強すぎてどうにも好きになれないアルバムだったので、この「ヌード」もあまり食指が伸びなかった。

が、聴いてみるとこれがかなりの佳作。傑作、とは言わないが聞き逃すには惜しい作品だ。

90年代の復活キャメルを聴いたことのある人は、それに非常に近い作風だと言えば理解してもらえるだろう。簡単に言えば、丸みのある優しさを持つ、アダルトな雰囲気で、ロックなギターインストなどもあるけれども、先鋭的な感じはない。初期に比べてスリリングさは減っているし、雰囲気作りのインストが多めだったりはするのだけれど、物語を感じさせるドラマティックな構成は非常に印象的。90年代以降のキャメルのアルバムの基本スタイルである、ラティマー作曲、パートナーであるスーザン・フーバーが作詞、というラティマー・フーバー体制がこのアルバムに端を発しているので、復活キャメルと似ているのは当然だが。

ポップな歌ものやCamelらしいギターインストなどもあるが、中間にはさまれるインストでのワールドミュージックの導入なども面白い試みだ(というかこれも時代の流行だったのだろうが)。

特に聴き応えのある曲は三曲。

1の「City Life」はwake upと優しく呼びかけるラティマーの声から始まる、完成されたシティポップス。これはじわじわくる名曲。優しい雰囲気のある穏やかなポップスにラティマーのヴォーカルがはまっている。
この作品あたりにあると80年代的なシンセワークがせり出してきて、どうにも微妙な感じがあるのだけれど、この曲に関してはプラスに働いている。しかし、メル・コリンズのサックスが一番良いところを持って行っているなあ。ラティマーのギターは最後の方でやっと出てくる。

そして5の快速ギターインスト「Beached」。邦題は「島への上陸」上陸作戦の緊張感あふれるシーンを音にした感じか。冒頭の切り込んでくるギターもいいが、それに続く変拍子(かな)キーボードリフがまたツボに来る。爽快感あふれるギターのドライヴがすばらしい。特にこの曲は前曲のフェードしていくエンディングに被さるようにスタートするその構成も良い。

Camel - Beached - Live - 1997


で、11「Captured」。私はよく知らないが、前田日明といえばキャプチュード、キャプチュードといえば前田日明、というほどつながりの深い、前田の入場曲にして技の名前にもなったインスト。イントロの静かなキーボードバッキングにヘヴィなドラムが鳴りだし、キーボードリフの上をサックスがソロを取る導入の格好良さは格別のものがある。やっぱりここでも良いところを持っていくのはメル・コリンズのサックスだった。

ラストの曲のメロディも、いかにも物語の終わりを思わせて、結構感動的なものがある。


私なんかは「Single Factor」以外の全てのスタジオアルバムを持っているくらいにはファンなので、贔屓目だが、ファンの人ならば聞いてみて欲しい80年代の佳作。

キャメル全般についてはさすらいさんのキャメルディスコグラフィー特集を参照してください。私もキャメル全作レビューとかやってみたいとは思うが、一作聴いていないのが。
http://d.hatena.ne.jp/camelletgo/20070101/p1