七尾旅人 - ひきがたり・ものがたりVol.1 蜂雀

ひきがたり・ものがたりVol.1 蜂雀

ひきがたり・ものがたりVol.1 蜂雀

七尾旅人2003年リリースのアルバム。レコード会社のサイトを見ると、これはサードアルバムらしい。勝手にミニアルバムだと思っていたが、一応正式なフルアルバムとカウントされているようだ。というわけで「911Fantasia」は4thアルバムになる。

今作は1stシングル(ミニアルバムだとこの前書いたが、シングルだったらしい)「オモヒデ〜」以来のアコースティックギターを中心に、シンプルな編成で音の間を生かした作りになっていて、個人的には非常に気に入っている。アコースティックサウンドとはいっても、リラックスできるものというよりは、音の響きひとつひとつがきわめて緊張感に満ち、七尾の語りのような歌の表現力も研ぎ澄まされ、異様に密度の高いものになっている。vol1と銘打った割には以降音沙汰がないが、vol2は次作に吸収されたのかも知れない。

ちなみに、アコースティックなアルバムだけ取り上げているのは、1stアルバムがいま見つからないのと、2ndは曲数が多すぎて扱いづらいからだったりする。

1.線路沿い花吹雪
名曲。メロディ、詞の言葉遣い、アコギの音色、どれも素晴らしく、七尾旅人の曲の中でもトップクラスの名曲。1stシングルと続けて聴くと、歌い方により幅が出てきたような気がする。

2.月の輪
七尾の歌の表現力が特に印象的。上手い、というのではなく、表現力という他ない歌。「銃口を下に向けてくれないか」の「銃口を」の部分なんかで、背筋にひやりとしたものが走る。家を踏みつぶしてしまったゴーレム? の話。どこかメルヘンチックなのに緊迫した雰囲気が強調されている。

3.ぎやまん
このアルバムで特に好きな曲。妖しい女性を歌った歌なんだけれど、演奏はなんと三味線とアコギのデュオ。こんな編成は他に聴いたことがない。三味線がむちゃくちゃ妖しい雰囲気を出していて素晴らしい。和風な雰囲気。七尾の歌い方も緊張感にあふれていてすごい。彼の歌が、詞に歌われている女性の歌のように聞こえてくる。

「絹ぼんぼりの火が落つる 硫黄の湯気が忍び込む 私の閨までいらっしゃいな」

ここの詞とメロディが秀逸。妖しすぎる。三味線とアコギの斬新な取り合わせも含めて、異色の傑作。

4.冷えた高み
落ち着いた曲。バックでなるシンセっぽい音が硬質なガラスを思わせる音色。あんまり目立つ曲ではない。

5.まほろ
空気公団のヴォーカルとの男女デュエット。手紙のやりとりを意識した詞。10分を超える曲で、後半のハイライトといえる。どちらのヴォーカルも魅力的な声をしている。というか、二人とも声域があんまりかわらん感じがするが。後半雰囲気がぐっと寂しげに展開。

6.おやすみタイニーズ
前曲ラストの赤ん坊をあやすような音に続いて、子供に語りかけるような歌。ベースとシンセが入ってアレンジが少し厚みを増している。流れるようなメロディが良い。

7.七日間
アコースティックなイントロ。途中からリズム隊が入って来る。やはり歌メロが秀逸。妙な曲展開で静かなパートに移行し、緩やかに終わる。


アコースティックサウンド中心とはいっても、1stシングルでの歌中心のシンプルな作りからは大幅に拡充された多彩な楽曲を聴かせてくれる。アコギソングの王道的な叙情性をもった1や、三味線を加えた実験的な異色曲に、女性ヴォーカルとのデュエットなど、様々なアプローチも見られ、完成度が高い。エレクトロニカ中心のものより聴きやすいとは思う。

なにより、七尾旅人の特徴的な表現力重視の歌が存分に聴ける。傑作。

レコード会社のサイト。試聴可
http://www.wonderground.jp/artist/tavito.html