Renaissance - Scheherazade And Other Stories

Scheherazade & Other S

Scheherazade & Other S

ブリティッシュプログレの名バンドルネッサンスの四枚目。1975リリース。

延々プログレについて書いてきたけど、クラシックな70年代バンドの大御所は初めて書くなあ。だいたいここらへんのバンドについてはめぼしいところは聴いてしまっているので、現代プログレ漁りに偏ってしまう。それにこのクラスのバンドとなると充実したファンサイトがあるものなので、あえてレビュー書く動機が薄くなりがち。

しかし、やはりクラシックプログレの名バンドの大名作、聴いてみれば非常に素晴らしいアルバムだ。ルネッサンスはだいたい聴いたが、このアルバムだけは収録曲の半分をライブとかで先に聴いてしまっていたので、スタジオ盤を後回しにしていたが、そのことを後悔してしまう。

元々ルネッサンスというバンドはヤードバーズのキース・レルフが作ったバンドで妹のジェーンをヴォーカルに据えたりして二枚ほどアルバムを出したところでキース・レルフが感電事故で死亡し解散。その後、二枚目に参加したマイケル・ダンフォード(ギター)を中心にメンバーを刷新して編成されたのが、類い希な才能のヴォーカル、アニー・ハズラムを擁する新生ルネッサンス、というのはまあどこでも書いていること。

音楽性はクラシック、フォーク要素を加えたロックで、スタジオ盤では即興の要素の薄いアンサンブル志向のバンド。また、オーケストラを多用していて、オーケストラとバンドサウンドの融合にもっとも成功したバンドとも言えるだろう。

そして、やはりルネッサンスの魅力はアニー・ハズラムのヴォーカルだ。とにかく、プログレ系では最高峰の歌い手だろうし、ロック全般で考えても傑出した声の持ち主だと思う。クリスタルボイスなどと呼ばれる、荘厳なスケール感あふれる広がりのある声はすばらしい。それはもちろん、歌のメロディ自体の出来の良さがあってのことでもある。アニー・ハズラムのソロは多少退屈を感じるので。

で、このアルバムは四作目にしてルネッサンス最大の大曲Song Of Scheherazadeを収録した最高傑作とも呼ばれている。じっさい、新生ルネッサンスの1stから5th(6thでもいい)まではどれも傑作なので、後は好みの問題だが、今作はルネッサンスのひとつの頂点であることは間違いないだろう。

収録曲は四曲。クラシカルなピアノに導かれて始まるTrip To The Fair、ルネッサンスでたぶん一番短い曲で意外な作風のアップテンポなロックナンバーThe Vultures Fly High、ブラックモアズ・ナイトでもカバーされたルネッサンスを代表する名バラードOcean Gypsy、そしてルネッサンス最大の大曲Song Of Scheherazade。まるで隙のない構成だ。どの曲も名曲レベルで、聞き逃しにできない質の高さ。

以下各曲。

1.Trip To The Fair
ダークな色調のピアノによるイントロ。ドラムとベースが入り、アップテンポなインストのうえで、不気味な女性の声や笑い声が流れ、非常に妖しい雰囲気を醸し出す。インストが静かにフェードアウトするなか、ヴィブラフォンが鳴りだし、アニーのヴォーカルが静かに滑り出す。広がりのある、伸びのある声。シンセが軽快なフレーズを鳴らして楽しげな雰囲気。ヴォーカルが伸び上がっていくのとともにバンドサウンドが盛り上がり、ヴィブラフォンのソロ、ピアノのソロを回していく。ユーモラスでファンタジックな空気がある。シンセの音色が戻って、ヴォーカルパートへ。エンディングもヴィブラフォン、シンセが印象的。
クラシカルなピアノのイントロからファンタジックな歌パートへの展開が意外なプログレ曲。やはりアニーのヴォーカルが肝だが、ヴィブラフォンが意外にも多く活躍しているのが目立つ。

2.The Vultures Fly High
これは格好いい。ベースによるイントロが目立っていて、バンドアンサンブルでのイニシアチブを見せつけるようだ。ストレートなロック作ともいえ、ルネッサンスにあっては珍しい曲調だが、非常に決まっている。こういう曲をやらせても質の高さは相変わらず。
ライブコンピレーションの「BBC Sessions」ではよりリズム隊の迫力が増した演奏を聴くことができる。そちらもおすすめ。

3.Ocean Gypsy
くだくだしく言うまでもない名曲。ブラックモアズ・ナイトではアコースティックカバーだったが、こっちはバンドサウンドでの演奏。良いところでベースが盛り上がるフレーズを弾くのが格好いい。

4.Song Of Scheherazade
Fanfare
The Betrayal
The Sultan
Love Theme
The Young Prince and Princess as told by Scheherazade
Festival Preparations
Fugue for the Sultan
The Festival
Finale

9パートに分かれた25分にも及ぶレコード片面を占有していた大作シェラザード夜話。オーケストラを巧みに用いていて、荘厳さと躍動感にあふれ、ドラマティックな全体構成のすばらしさもあり、大作の多いプログレ史上でも屈指の大曲。プログレの一つの極にある一曲だと思います。

冒頭、ファンファーレのようなオーケストラによるイントロから、バンドサウンドが参入し、オーケストラとバンドとが一丸となってアンサンブルを奏でる勇壮なオープニング。演奏が落ち着き、ピアノとコーラスをバックに、男性ヴォーカルがリードする歌パートが始まる。なかなか良い声。男性ヴォーカルが入るのはここが「Sultan」というパートだからだろうか。バックのオーケストラの演奏も聴き物。ストリングスだけではなく打楽器なども多用されていて面白い。
静かなピアノによるパートを挾み、フルートやホーン、ストリングスらによる優美な旋律が奏でられ、優美な雰囲気。そのまま、アニーのヴォーカルパートへ。哀しげで情感あふれるバラード。もっとも美しい部分。Youtubeにそのパートだけを抜粋したものがあった。
The Young Prince and Princess as told by Scheherazade

ヴォーカルが終わり、静かなパートが続くと、ピアノをメインにしたバンドアンサンブルがスタートする。オーケストラが全面に出た高揚感あふれるパート。フルートや鍵盤打楽器も活躍。フルート、ピアノによる静かなパートへ移行、その後をピアノがリードし、だんだん再度オーケストラが徐々に参入してくる。そして、冒頭での勇壮なバンドアンサンブルがリプライズ。大きく盛り上がった後、クライマックスのヴォーカルパートへと突入する。
The Festivalと題された鍵盤打楽器が効果的に使われている最後のヴォーカルパート。ここでのメロディが秀逸で、さらに一息で五行ほどの歌詞を歌いきる部分がすごい。最後はシェラザードの名を歌い上げてエンディング。

この曲ばかりはオーケストラ付きのスタジオ盤で聴くのがベストだろうと思われる。「BBC Sessions」はバンドのみでのライブなので、この曲が物足りないことったら。

バンドサウンド的には、あまり語られないイエス大好きベーシストジョン・キャンプとドラムが印象に残る。特にベースはイエス好きというだけあって、スクワイアばりのゴリゴリベースとアンサンブルの前面に出る音量で、明らかにイニシアチブを取っている。バンドにエレキギターがいないこともあってか、アンサンブルにおいてベースの活躍の場が非常に多いのが、ルネッサンスの特徴だ。エレキギター不在は逆にオーケストラサウンドが曲に溶け込むのにも有利に働いているように思う。普通のバンドだと、ギターやキーボードが前面に出てしまい、オーケストラがただの豪華なバッキングと化してしまうきらいがあるのだけれど、ルネッサンスはオーケストラを不可欠な要素として組み込んでいる。まあ、だからシェラザード夜話のバンドのみのライブに無理が出るんだけれど。

しかし、とにかく今作はプログレ史上でも屈指の名盤だ。

http://www.boreas.dti.ne.jp/~koduckin/sound/renaissance.htm