2007年に読んだ本

振り返ってみると今年は小説を全然読まなかった。笙野頼子関連で歴史の本を読み始めた続きで、前半は古代史を読んだり、修正主義への違和感から近現代史をおさらいし始めたりした。そしてなぜか後半で突如ポピュラーサイエンスにはまって今に至る。これだけポピュラーサイエンスの本を読んだのは、中学生のときにブルーバックスを読みあさったとき以来だなあ。
というわけで、今年の五冊。これは、今年読んだ本で、今年出た本ではないです。

森博達「日本書紀の謎を解く」中公新書

日本書紀の謎を解く―述作者は誰か (中公新書)

日本書紀の謎を解く―述作者は誰か (中公新書)

書紀の述作者を特定するという犯人探しゲームの過程を追いながら、古代日本語の専門的議論を理解できるという知的エンターテインメント。面白いです。

生田武志「ルポ最底辺」ちくま新書

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

「<野宿者襲撃>論」の著者による釜ヶ崎ルポ。家を失ってしまうと言う最悪の状況下にある人々をとりまくこの国の社会を描き出している。野宿者の死と隣り合わせの生活もさることながら、行路病院や生活保護を掠め取って業者が利益を得るという野宿者ビジネスの記述もまた衝撃的。支援者のいない野宿者には生活保護が出ず、保護費をピンハネする業者がついた野宿者には生活保護の申請が通るという矛盾。

岩田正美「現代の貧困」ちくま新書

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)

上記と併せて。現代において「貧困」がきわめてアクチュアルな問題であることを明らかにする一冊。これを読むと日本の社会保障がひどく歪んだ形になっていることがよくわかる。日本では社会保障が会社や家族といった共同体に依存する形で構築されていて、そこから外れてしまうと一気にエアポケットにはまって抜け出られなくなってしまう。そうした人が野宿者などに転落していく。下記のページではそうした共同体などからの排除、「社会的排除」についても指摘されている。このことは本書では、そういった分断された人たちを包摂し、社会の安定のためにも保障を行うべきだという「社会的統合」の問題として、また生田武志も野宿者たちが生きる希望をもつための方策としても強く意識していた。
NHKスペシャル「ワーキングプアIII 解決への道」の感想

マット・リドレー「やわらかな遺伝子」紀伊國屋書店

やわらかな遺伝子

やわらかな遺伝子

人間の個性とは生まれか、育ちか、という古典的問題に最新の遺伝学的知見を基にした回答を提示する一冊。大変面白い。人間は生まれながらにして無地の石版であり、そこには何でも書き込めるというブランク・スレート説でもなく、生まれによってだいたい決まるというような遺伝子決定論にも偏らず、遺伝子は環境を通じて発現の仕方が変わる柔軟なシステムであることを強調する。人間観が結構変わる。

アンドリュー・パーカー「眼の誕生」草思社

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

カンブリア紀の爆発ものの決定版、か。古生物学上の大きな謎だったカンブリア紀の進化の大爆発についてのきわめて興味深い解答を提示すると同時に、生物にとっての視覚というテーマや、進化についての面白い知見が満載されている。

とりあえず五冊。

そして今年はようやく笙野頼子の「だいにっほん」連作が完結した。この第一作をめぐっての感想のやりとりで、id:Panzaさんやid:Thornさんたちとやりとりするようになったので感慨深い。この超問題作についてはそのうち何か書くつもり。
笙野頼子の今年についてはPanzaさんがまとめてくださっています。
笙野頼子ばかりどっと読む
個人的には田中和生やナカマタセンセイなどのどうしようもなさが印象づけられた年だったな。
実録・「おんたこ」とは何か - Close to the Wall
批判や難癖の付け方のレベルの低さは愕然とするほど。ナカマタセンセイが「実名厨」だったのがわかったのが面白かったな。

笙野以外の小説では、これか。
クリストファー・プリースト「双生児」

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

技法と形式、それと内容の合わせ技ぶりはいつも通り。実験的技法を用いた、「反戦小説」。この本は読者に都合の良い終わりを迎えさせない。小説が終わったところから始まる作品。