Marillion - Afraid Of Sunlight

アフレイド・オブ・サンライト

アフレイド・オブ・サンライト

マリリオンはプログレが下火になった80年代に登場し、フロントマン、フィッシュの声やパフォーマンスなどからジェネシスフォロワー的な見方をされることの多いバンドだ。ネオプログレやポンプロックと呼ばれる一派の代表的なバンドで、初期こそジェネシス色が強かったものの、四枚ほどアルバムを出した後にそれまでカリスマ的存在でバンドの顔だったフィッシュが脱退、かわりにプロデビューしていたもののそれまで無名だったスティーブ・ホガースをヴォーカルとして迎え、いわゆるホガース期が始まる。それからはジェネシスフォロワー的なイメージを払拭し、むしろプログレからも離れた音楽性だったが、ホガース期三枚目のトータルコンセプトアルバム「Brave」がヒットし、高い評価を得、90年代プログレの重要な作品と見なされている。ちなみに、ベースのピート・トレワヴァスは、フラワー・キングスのロイネ・ストルト、スポックス・ビアードのニール・モーズにドリーム・シアターのマイク・ポートノイらと一緒にトランスアトランティックというドプログレなバンドをやっていた。

で、今作は「Brave」の次の作品で1995年リリース。私はどうもポンプロック系のバンド、PendragonとかIQとかがどうもあまり好きになれず、シンセがふわふわした音像に違和感があって、マリリオンも敬遠していた。が、Progarchiveの試聴で今作の一曲目「Gazpacho」を聴いて、独特の世界観に妙に惹かれるものがあったので、中古市場にあふれていて簡単に入手できた今作を聴いてみたところ、これが非常に素晴らしい作品だった。

今作は、Amazonではボクサーの栄光と堕落を描いた、と紹介されているけれど、もうちょっと普遍化して、英雄の光と影、というコンセプトが全体を通して共通するテーマとして、各曲それぞれ独立しながらもゆるやかにつながっているというタイプのコンセプトアルバムだ。前作「Brave」は通して一つのストーリーだったのとそこらへんが違っている。

このアルバムで特に素晴らしいのは「Beautiful」とタイトル曲「Afraid of Sunlight」どちらも名曲で歌詞もメロディも秀逸だ。特に私は「Afraid of Sunlight」が好きだ。まあ、それは後で書く。

1.Gazpacho
冒頭に観客の歓声のSEが挿入されている。独特の浮遊感のあるメロディと、ミドルテンポの曲調、わりと明るめな雰囲気を漂わせながらも、歌詞は栄光の座にあったボクサーが、落ちぶれはじめ、そのストレスから家庭内暴力に走る様を微妙な表現で描いている。「彼女のスカーフのそのシミは、ほんとうにただのガスパチョ(スペイン風スープ)ですか?」

2.Cannibal Surf Babe
食人サーフ娘、とでも訳すべきか。ベースが格好良く唸りをあげるアッパーな曲で、手拍子なんかも入って、サーフミュージック的なポップさを導入した曲。歌詞のウィルソンはブライアン・ウィルソンのことらしいが、タイトルの食人娘というイメージの背後にはブライアン・ウィルソンつながりでチャールズ・マンソンがある気がする。

3.Beautiful
美しいものが踏みつけられるこの世界で、美しくあろうとする力強い姿勢を歌い上げる。

歌詞、メロディが秀逸。ホガース期マリリオンの代表的な歌で、Youtubeなどで見られるマリリオンのライブ映像では観客全員で大合唱になっている。私は以下の歌詞のあたりがすごく好きだ。非常に来るものがある。ホガースの歌の表現力は凄い。しかし、スタジオ版はいいところでフェードアウトしてしまう。
「You strong enough to be
Why don't you stand up and say
Give yourself a break
They'll laugh at you anyway
So why don't you stand up and be
Beautiful」

4.Afraid Of Sunrise
タイトル曲と似た曲名のこの曲は、非常に緩やかで地味な曲だけれど、タイトル曲とメロディを一部共有している。静かでどこか牧歌的な雰囲気すら持つけれど、歌詞がまた変な緊張感がある。タイトル曲の前の時系列にあると思うと意味が分かる気がする。「信じ続けろ、短気を起こすんじゃない」と「どうして僕たちは太陽が怖いと思うようになったのか」というフレーズのリフレインが印象に残る。前曲とうってかわって、この曲以降はずっと陰鬱なイメージに覆われていくことになる。

5.Out of This World
死んだ高速ボート選手を思う女性の心情を歌ったと思われる曲。スローモードで展開していく曲で、ギターやキーボードの壊れそうな雰囲気を秘めた綺麗な音色がことさら際立つ。

6.Afraid Of Sunlight

超名曲。6分ほどの曲に、ドラマチックな展開がぎゅっと詰め込まれている。
「So how do we now come to be
Afraid of sunlight?
Tell me girl why are you and me
Scared of sunlight?」
というサビのメロディも印象深いし、なにより、ブリッジ部分の緊張感あるメロディから、キーボードソロへと展開する部分がいつ聴いても感動的だ。その後、サビを繰り返すあいだにバックでギターが情感あふれるソロをとるところも素晴らしい。歌詞は取り返しのつかない悲しみにあふれていて、決して爽やかなものではないのに、聴き終わると、心のなにかが洗い流されたような気分になる。カタルシス

7.Beyond You
あえてモノラルでミックスされている。途中から少しずつドラマチックな盛り上がりを見せる。暗いのか明るいのかわからない霧に覆われたイメージ。

8.King
ラスト。ミディアムテンポな曲調だけれど、曲が一端終わった後の終わりに向けて盛り上がる部分の緊張感がすごい。

いまのところ、個人的には「Brave」よりもこのアルバムの方を聴く。一度聞き出すと途中で止められない緊張感がある。名盤だ。
日本盤はAmazonとかそこらでわりと投げ売りされている感があるので、是非とも聴いて欲しい。最初に挙げた二曲だけでも素晴らしい。後の曲はじつはちょっと好みが別れるかも知れないが。