と、まあタイトルで本題は終わりなんだけど。
集団自決等のはてなキーワードの編集合戦が続いていて、その一方の当事者の言ってることがあんまりアレだから何か書こうと思っていたら、あっという間に集中砲火を食らったばかりか本職の学者さんにまでバッサリ斬られてなんたる四面楚歌。
歴史修正主義の定義について - 反歴史修正主義グループ
上記掲示板を見れば、どれだけその、歴史学者の議論をその裏付けが自分の調べた範囲で見つけられなかったことを根拠に勘違いだろうと判断する人物の言っていることがおかしいかはすぐにわかるだろうけれど、もうちょっと書いてみる。私自身も沖縄戦に関してはさして知らないが、分かる範囲のことを。
さてまず、歴史学者の議論をその裏付けが自分の調べた範囲で見つけられなかったことを根拠に勘違いだろうと判断する人物は、沖縄戦での富山真順「兵事主任」について、
1・この言葉を使っているのはどうも沖縄戦史家の安仁屋氏とその弟子・関係者でしかないこと
(通常は「兵事係」という言葉を使っているようです
2・兵事主任が「軍隊の命令を住民に知らせた例」が見当たらないこと
などとして、「兵事主任」が軍命を住民に伝える重要な役割だったという主張をした安仁屋氏は「何か重大な勘違い(あるいは、当時の戦史にくわしくない人間に対するミス・ディレクション)をしているのでは、と、事実にもとづいて判断しているつもり」だとしている。
で、1の「事実」はGoogleで探した結果らしい。しかし「兵事主任」でググれば、最初のページからこんなのが出てくる。
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まあ、それ以外に上記掲示板でも秦郁彦が兵事主任という語を使っている例など、いくらも安仁屋氏以外の者による使用例が挙げられている。そのどれもがぐぐれば割合すぐに出てくるものだ。どういう検索の仕方をしているのか。
また「兵事係」なら、真っ先にこれが出てくる。
兵事係が所持していた木札 奈良県立図書情報館
軍と連絡をとり、在郷軍人を管理していた、役場の兵事係のもの。
赤紙を各家まで配ったり、戦死の知らせを家族に伝えたりするのも兵事係の仕事だった。
軍と住民との連絡業務が主たる任務であることがはっきりわかる。
で、2はこれはこれですごい。自分で探した範囲で裏付けがどうもないからという理由で専門家の記述が勘違いだと判断する、っていうのはどういう思考回路だと可能になるのかさっぱりわからない。何も調べないよりはもちろん少しは調べた方がましだが、その程度を自覚できないのならどう調べたところでその調べた結果を生かすことなどできないだろう。
この人は特に沖縄戦にかんする知識もなく、当時の行政にかんする知識もないのを認めながら、沖縄の大学で教えている沖縄戦の専門家の沖縄戦についての論述を、自分の調べものの結果、勘違いだと判断したことになる。調べた範囲に応じて、その調査結果から言えることというのは決まってくるはずだけれど、明らかにそれを逸脱した物言いをしている。
兵事主任が軍と村民の間に立って軍命を住民に伝える役割をしていたことはは、たとえば
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とあり、「助役」としてではなく「兵事主任」として連絡役を務めたことが書かれている。
基本的には、召集や在郷軍人関係の仕事をしていて、これも軍と住民との重要なパイプであることが明らかだけれど、一応の疑問として、そうした徴兵に関わる業務と戦地での命令とは違うと言うことも出来るかも知れない。
しかし、沖縄は唯一本土決戦が行われた場所日本国内で住民をまきこんだ唯一の地上戦である以上、本土の兵事係と、軍が駐屯した沖縄での兵事係の任務を同一視することはおかしい。普段は召集令状などの配達をしているが、さて軍が来たとき、村の軍関係の仕事をしている兵事係を、その連絡役として活用することは合理的に推測できることではないか。もちろん、兵事主任のみが連絡役を務めたのではなく、直接役場の人間ではない宮里盛秀の弟や巡査といった人物も軍の命令を伝えていたことが前掲書でも証言されている。しかし、それも兵事主任が主として連絡業務を担当していたことを前提にしての話だ。また、兵事主任のいなかった他の島では、区長などが軍と住民との間で連絡役をしていたことが証言されている。
単に、兵事係は普段おもに軍事関係の事務仕事をしているが、軍隊が来たときは軍隊と住民との折衝役として動いていた、というだけのことではないか。前者の事例をいくら挙げても、後者の否定にはならない。
というか、兵事(係)主任一般が軍命を住民に伝える仕事かどうか、という役職にかんする一般論と、沖縄での兵事主任が実際に軍命を伝えていたかという具体例とはまったく別の話であって、沖縄以外での前者の例をいくら探しても後者の問題は解決できない。これを混同するのは問題が切り分けられない程度の判断力しかないか、悪質な印象操作かのどちらかだ。
さて、考えられる言い訳としては、それでも上記の例では兵事主任が具体的な軍命を住民に伝えた例ではないと言い出すかも知れないが、自決命令などの極めて大きな争点になっている命令でもない限り、上司が部下に指示をするという程度のごくごく当たり前の業務をいちいち言及しないというだけだろう。それももっと調べれば出てくるのではないか。
掲示板では歴史修正主義の定義が話題になっているが、Apeman氏も指摘したとおり、
視点・論点「まん延するニセ歴史学」 - Apes! Not Monkeys! はてな別館
私は科学に対するニセ科学と似たようなものだと考えている。ニセ科学が学問的手続きを無視してその主張を開陳するのと同じく、歴史修正主義は先行研究を無視し、史料を無視し、学問的手続きを無視して通説を覆そうとする。
あるいは、南京事件、従軍慰安婦、沖縄戦などの戦争責任問題において旧日本軍や国家の責任を矮小化しようと言うイデオロギーに沿って、イカサマな手法でもって歴史学的通説を覆そうとする議論を歴史修正主義と呼ぶべきだろうか。これは目的と手法による定義。イデオロギーが明白でも、学問的手続きを尊重した議論であるなら、それは対話可能であり、研究に資するものもあるだろう。
今回は、沖縄戦にも当時の軍事にも詳しくない人間が、あまたの証言、史料を精査してきただろう専門家の論述を、自分の調べた書物や、適当にGoogle検索してみた程度の手間でお手軽に否定する。言ってみれば、この人物は自分の無知を根拠に専門家の議論を否定して見せたわけだ。専門家の議論を尊重しろ、と掲示板では何度も批判されているのは、専門家の権威に従えというのではなく、専門家というのはその筋の研究、史料などについて一般人よりはるかに詳しく、その論述には明示された以上のバックボーンがあるからだと一般に認識されているからだ。
もちろん専門家にだって勘違いなどはあり得る。しかし、歴史学者の議論をその裏付けが自分の調べた範囲で見つけられなかったことを根拠に勘違いだろうと判断する人物が、それを勘違いだと判断した基準はきわめて狭く、兵事主任の仕事についてなにか積極的に安仁屋氏の論述を否定できる証拠を見つけたわけではない。安仁屋氏が何を根拠にそう記述したのかもわかっていないのに否定している。では誰が軍と住民との連絡役をしていたのかということにも答えられていない。きわめて些細な根拠から、沖縄戦の議論における重要な問題を一足飛びに否定してみせるこのやり口が、歴史修正主義者のよく使う「一点突破全面展開」であることはおわかりかと思う。
この写真はやらせだ!(一点突破)
↓
南京事件は捏造された!(全面展開)
↓
南京事件は虚構だ!(全面否定)
↓
なくなっちゃいました(笑)
◆ 美しい壺日記 ◆ 産経「正論」でおなじみ石川水穂というアホ論説委員
この手法は歴史的事実を証拠づける根拠というものを、きわめて小さく見積もり(あるいは自分の知っている根拠だけですべてだと見なし)、それを否定してみせれば事足りるという根本的な無知と、学問的手続きの軽視に拠っている。
しかし、この手法の問題点は、その歴史的事実の証拠がそんな薄弱なものなのになぜこうまで一般化してしまったかを説明できず、結果すぐに陰謀論に陥る。この歴史学者の議論をその裏付けが自分の調べた範囲で見つけられなかったことを根拠に勘違いだろうと判断する人物も、今回の議論において、「兵事主任」という言葉を使うものは安仁屋氏の関係者だけだと主張し、
安仁屋政昭さん以外は、いや違うな、安仁屋政昭さんが言いはじめる以前は、兵事主任は「戦場においては、軍の命令を伝える重要な役割」なんて誰も言っていないんですね。
と、いわば安仁屋一派の宣伝の結果だとでも言わんばかり主張をしている。「誰も」ってだれなんだよ。それ以前の沖縄戦史や直接の証言をどれだけ渉猟したというのか。で、批判が加えられてもスルーして後々の記事では「兵事主任」を
(ぼくの「沖縄戦」関連では、あまり重要ではない人物であることですでに有名です)
などと疑問を既成事実化している。しかし、この書き方、ほんと嫌らしいなあ。
さて、歴史学者の議論をその裏付けが自分の調べた範囲で見つけられなかったことを根拠に勘違いだろうと判断する人物は、専門の学者にすら主張を否定され、掲示板であまりに体勢が悪くなったもんだから、今度は一部の者の言葉尻だけを問題にして、さも自分を批判するものが厄介な人間あるかのごとく印象づけ、被害者ぶって自分の言い出した疑問への解答を全力で無視するつもりのようだ。なんと醜悪な退却ぶりだろう。
上から目線ゲームの掲示板について - 愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt)
そしてまた意味不明にして私怨によるキーワード編集。→こんな奴。
こんなことをしておいて、よく他人のキーワード編集を非難できるな。
この人は、直接的に侮蔑的な言葉を使わない代わり、こういう風に揶揄をする。自分は冷静に事態に応じているというイメージを作って、相手がじれてちょっとでも不穏当な言葉を使えば、よしきた!とばかりに「こういう人たちへの対応は少し苦手」と相手のせいにして退却する。
まあ、歴史学者の議論をその裏付けが自分の調べた範囲で見つけられなかったことを根拠に勘違いだろうと判断する人物の、この手の被害者ぶった退却劇は何度も繰り返されたおきまりのパターンで、またそのうち同じことを繰り返すだろう。今度はどんな戦争責任問題に中途半端な難癖をつけて、その後追いつめられて無様に退却するか、いまからワクワクするぜ!
あ、あとこの人、他人を嘘つき呼ばわりしているけど、
キーワード「集団自決」の編集に関して嘘を言うid:abesinzou氏について - 愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt)
その言い分自体が嘘だよね。
私への中傷に回答する - 従軍慰安婦の深層
abesinzouさんも細かくまとめてるけど、以下を見るのが分かりやすい。
集団自決 - はてなキーワード
今残っているなかで最古の集団自決キーワードを最初に作ったのはkechakさんで、その後zames_makiさんによる記述を繰り返して削除している。これを見ると、集団自決の内容を充実させることに徹底して抵抗している様子がよく分かる。
訂正(3.29)
すいません、訂正です。自分で消してしまったようで今は確認できませんが、私の間違いを指摘してくれたコメントがあり、
「沖縄は唯一本土決戦が行われた場所」
というのは間違いで、正しくは
「先の大戦において,日本国内で住民をまきこんだ唯一の地上戦」
です。住民を軍の指揮下においた戦闘は沖縄だけのようなので、議論自体には障らないと思うのですが、私の勘違いでした。すみません。
また、どうやら本土決戦というのは沖縄を含まない、本州での戦闘を指す用語らしいので、北方領土などはまた除外されるようです。
ご指摘ありがとうございました。他にも事実誤認などありましたらお願いします。