Soul Flower Union - 満月の夕 〜90's Singles

満月の夕~90’s シングルズ

満月の夕~90’s シングルズ

前回に続き、日本のトラディショナル・チンドン・パンクバンドソウル・フラワー・ユニオンが、1999年まで在籍してたソニーキューンレコード時代のシングル、ミニアルバムを集成し、未発表音源を追加した編集盤。

いわばベスト盤にあたるけれど、今作はフルアルバム未収録音源を網羅したものとなっていて、つまり、これを買ったとしてもスタジオ盤との被りが少ないため、ベスト盤にありがちな、半分くらいがベストに入っているからオリジナルアルバムに割高感が発生する、ということがないところが良い。現行で手に入らないシングルバージョン、カップリングでのライブ音源、オリジナルアルバムには収録されていないミニアルバム等の音源を手軽に収集することが出来る点で、オリジナルアルバム所有者にとっても価値の高いものになっている。

また楽曲的にもシングルベストとカップリング集とが一体になったようなものなので、代表曲を網羅できるのと同時に、意外な曲を聴くことができ、音楽性の幅の広さを感じることが出来る点でも秀逸。ライブレパートリーなのだろう歌謡曲のカバーが多く、そこもなかなか面白い。

昨日の記事でオリジナルアルバムのオススメを書いたけれど、これから聴くのも良いのではないかと思う。
『満月の夕 〜90's シングルズ』 SPECIAL CONTENTS
曲目。

<DISC 1>
1. 世界市民はすべての旗を降ろす
2. テル・ママ
3. 満月の夕 (Single Version)
4. レプン・カムイ (Single Mix)
5. 向い風 (Single Mix)
6. 外交不能症 (Sutakora Version)
7. エエジャナイカ
8. エエジャナイカ〜卓球の極道電子盆唄編
9. (ソウルフラワーの)夢は夜ひらく (Live Version)
10. ジャングル・ブギ (Live Version)
11. 宇宙フーテン・スイング
12. さよならだけの路地裏
13. ちっちゃな時から
14. もぐらとまつり (Live Version)
15. 短距離走者の孤独 (Respectable Single Mix)
16. おんぼろの夜明け
17. 電飾のまち (Demo Version)

<DISC-2>
1. 満月の夕
2. 潮の路
3. 竹田の子守唄
4. アリラン
5. 夜に感謝を (Japonesian Gospel Version)
6. 潮の路 (Live Version)
7. 満月の夕 (Live Version)
8. イーチ・リトル・シング (Featuring ALTAN)
9. 風の市 (Featuring ALTAN)
10. アラバマ・ソング (Featuring SAMM BENNETT)
11. 平和に生きる権利 (TV Live Version)
12. 青天井のクラウン
13. 人力飛行機 (Acoustic Mix)
14. 信天翁 (Naked Mix)
15. さすらいのカッパ (Demo Version)
16. 海行かば 山行かば 踊るかばね (TV Live Version)
17. 満月の夕 (Demo Version)

ディスク1の1、2はSFU初期の、メスカリン・ドライブの内海洋子がヴォーカルを取っていたときの曲。この時期はまだプレSFU時代と目されているけれど、1の曲はSFUらしさがある。2はエタ・ジェイムズのカバー。内海洋子の達者な英語が聴ける。以下オリジナル。
Tell Mama- Etta James

3.4はシングル「満月の夕」から。「満月の夕」はこのアルバムのタイトルになっているように、SFUにとってもっとも意味深い曲で、阪神大震災の時の慰問活動をきっかけにして生まれ、被災地で歌われた名曲。三線の音が印象的で日本的な民謡っぽさが濃く、聴いた瞬間からどこか懐かしさを感じるような名曲然とした貫禄のある曲。SFU公式による解説と、この曲のカバーについての情報は以下。
満月の夕 SPECIAL CONTENTS PAGE
以下は楽曲の誕生を扱ったドキュメンタリー。

また、モノノケ・サミット名義で、大阪西成区釜ヶ崎での越冬闘争でライブ演奏した映像をニコニコ動画で発見。

4「レプン・カムイ」は1st、2ndと続いたアイヌ路線の曲で、フルートの音が印象的なジャパニーズ・トラッド色全開の一曲。これは素晴らしい名曲。この、童謡的、民謡的な節回しは癖になる。「満月の夕」みたいに、まるで何十年も前からある曲かのような普遍的なものを感じさせるメロディ。「レプン・カムイ」は「沖の神様」というような意味合い。イントロのベースやトラッドなパーカッションも面白い。
5.6はシングル「向い風」より。5はイントロの内海洋子の英語ヴォーカルが格好いい。ギターがナイスなわりとストレートなロックナンバー。6はニューエスト・モデル時代の楽曲のライブバージョン。これも、かなり格好いいロックンロール。演奏が良いな。そして個人的には曲の最後、ベースがバリバリ弾きはじめる内にフェードアウトしていく次の曲が気になる。
7.8.9.10はシングル「エエジャナイカ」から。いかにもSFUらしい「王様どうでもエエジャナイカ」という、競争、服従、奴隷批判のメッセージソング。ザ・チンドンパンク。ノリの良い代表曲。

そして8は石野卓球ミックス。9はなんと夢は夜ひらく - Wikipediaのライブでのカバー。クラリネットの格好いいブルース! 以下は藤圭子のバージョン。

そして10は黒澤明作詞の笠置シヅ子ジャングル・ブギー - Wikipedia」のライブカバー。内海洋子のヴォーカルだ。クラリネット、ギターが良い。
11-14はミニアルバム「宇宙・フーテン・スイング」から。全曲アルバム未収録。11はジャズ歌謡のスタイルの名曲。ドラムの軽快さが良い。共同プロデュースの梅津和時はじめブラスセクションも参加。

12もジャズ路線で、内海洋子がしっとりしたヴォーカルを聴かせてくれる。堂々の完成度で、カバーか何かかと疑うほど。音楽性が多彩だな、ほんと。13は浅川マキのカバー。以下は浅川のオリジナル

14はこれもたぶんニューエスト・モデル時代の曲のライブバージョン。これ、地下活動のレジスタンスの歌かな。途中までわりとミディアムテンポのおとなしい曲なのに、クラリネットやギターのソロパートを挾んで曲調が変わり、内海洋子の英語ヴォーカルが活躍する展開へ。
15.16は中川敬のソロプロジェクトソウルシャリスト・エスケイプのシングル「短距離走者の孤独」より。15は金子飛鳥などが参加のストリングスが厚く、かなり豪華。包み込むような優しい曲。ところで、ピアノの清水一登ってプログレ方面で有名な人だった気がするんだけど。あ、新月のサポートとか今堀恒雄梅津和時とかと一緒にやってたりした人なのか。16は中川敬らしい歌謡曲的な雰囲気。これも優しい雰囲気の良曲。
17は未発表音源のギターインスト。

ディスク2の1から7までは、ソウル・フラワー・ウィズ・ドーナル・ラニー・バンド名義でのミニアルバム「マージナル・ムーン」収録曲。1はSFUverとはやや異なり、パイプ等のアイリッシュミュージックの音が聞こえる。2はどう聞いても古い民謡か何かに聞こえるんだけれど、オリジナル。アイリッシュミュージックと三線等の楽器がものすごく自然に同居しているのがすごい。3は日本の民謡。4は韓国の民謡。どこまでもトラッドミニアルバム。5はソウルシャリスト・エスケイプの音源。ドーナル・ラニー・バンドは参加していない。これも民謡的な穏やかな雰囲気を持っている良曲。こういう優しい曲を作らせると上手いなこの人は。6.7はライブ。
8から11はシングル「イーチ・リトル・シング」収録。最初の二曲は前回の記事を見てもらうとして、10はクルト・ワイルの「マハゴニー市の興亡」の一曲が元らしい。そしてドアーズもカバーした曲とのこと。11は3rdアルバムでカバーしたビクトル・ハラの曲のライブバージョン。歌にはいるまでのイントロのインプロ的な演奏が好きだな。クラリネットの激情的な音色も良い。下記は元曲。
Victor Jara - El derecho de vivir en paz - Full Version

12はシングル「青天井のクラウン」。これ一曲のみ収録。Youtubeに映像がなかったと前回書いたけど、ニコニコにはあった。全体にソウル・フラワー・ユニオンのはニコニコ動画が充実している。

13からはボーナストラック。13.14は1st収録曲のアコースティックミックス。フィドル金子飛鳥の音を強調するためのミックスとのこと。浮遊感を醸し出すエレクトリック・フィドルの音が面白い。
そして15が今作の目玉。ライブで披露されつつも、唯一公式にレコーディングされなかったという曲だけれど、これが素晴らしい名曲。和風トラッド色の濃い一曲で、情感のあるメロディと暖かな曲調がとても良い。なぜこれがレコーディングされなかったのか、そしてこれまで埋もれていたのか不思議でならない。SFUのなかでもトップクラスに名曲だと思う。惜しむらくはデモバージョンでやや音が悪いこと。
16は3rd収録のライブ定番曲のライブバージョン。さすがのノリ。太田惠資参加でフィドルありのver。以下の映像はフィドルもなしのシンプルな編成でのもの。音は悪いが。しかし、上の奴は画質が良すぎてコマ落ちひどい。

そして今回もっともニコニコ動画の恐ろしさを味わったのが以下のまさかのコラボレーション。どう考えてもファン層かぶらなさそうだ。見つけたときはひとしきり笑った。

アイドルマスターものにしては再生数が寂しいが、ニッチとはこういうことか。絵が割とあっているのが恐ろしい。
そして最後は「満月の夕」の最初期のデモ。計四曲入っているが、名曲なので許す。

というわけで、シングル集でした。かなりお得な内容になっているので、知らない人も知っている人にもお勧めのアルバム。