2008年、西成暴動

労働者の多く集まる、大阪、西成地区で90年以来の警察に対する暴動が発生している。日本始まったな。
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生田武志氏のページでは継続的に経過がレポートされている。
http://www1.odn.ne.jp/~cex38710/thesedays13.htm
釜ヶ崎トロールの会。
釜ヶ崎の暴動: 釜パト活動日誌

言い分の真偽は偽問題

気になるのは、ブクマ等の反応などで、「暴行が事実なら」という文言がいくつも見られることだ。「事実なら」なんだというのだろうか。事実なら、警察を批判するが、事実でないなら、労働者に問題あり、と判断するということだろうか。何をバカなことを、と思わざるを得ない。

もちろん、事実確認のとれないことで早急な断定を下してしまうべきではないというのはわかる。しかし、この暴動の問題は単に13日に警官が労働者に暴行を働いたかどうかの一点にかかった問題ではないはずだ。ここまでの暴動に展開する下地が、西成地区に醸成されていたということこそが最大の問題だと捉えるべきだろう。

少し調べれば分かると思うけれど、大阪での野宿者や労働者はつねに警察との緊張関係におかれているといっていい。靫公園での強制代執行は記憶に新しいと思うけれど、そうした野宿者排除の過程で、警察は抑圧的、暴力的行動を通して差別的な扱いを行ってきた。テントに人がいない隙に、居住者の手荷物すべてを廃棄したり(そのなかには保険証等の重要書類や家族の写真なども含まれていた)ということを繰り返している。なお、冬場にこの手の手荷物処分を食らうというのは、冬場の路上で死ぬ可能性を極端に高める行為だと言うことはわかるだろう。

そうした背景を知っているなら、今度の暴動のきっかけとされる警察の暴行行為も、まあ、やりかねないなと思ってしまう。つい先日もアキバの警察の違法職質行為が問題になったというのに、アキバ住人など比べものにならないくらい弾圧し放題の西成地区の労働者に対して、もっと暴力的な行動を行うだろうことは容易に想像できることだ。

そうした激しい緊張関係がきっかけをえて爆発したのが今回の暴動だと考えるべきだ。労働者と警察のどちらの言い分が正しいかというのはどうでもいいわけではないが(というか、すぐに警察に通報する「お好み焼き屋」という異常さ。もちろん、常日頃労働者の行動に腹を立てているとかいう背景がある可能性は否定しない)、そこのみに問題を収斂させることはできないはずだ。

大阪人、労働者、警察への切断操作

そしてもうひとつ目立つのが、労働者は危ない奴らだから、とか左翼の扇動が、とか、警察もヤクザだからどっちもどっちだみたいな、連中はそういう人種だから、という言い方で、「その問題はこちらとは関係がない」という切断操作だ。

彼らを異人種と見なすことで自分たちとは関係ないとする態度だけれど、たとえば労働者たちだって最初からそこで生まれたナチュラルボーンワーカーorホームレスなわけではない。そこに至る転落の過程を経る前は、わりあい普通の人生を送っていた人たちもいるだろう。

人の行動はその状況や環境に応じたものに変わっていく。一般庶民として普通に生活していた人だって、失職した挙げ句日雇いなどに環境が変われば、日雇い労働者らしい行動スタイルに変わって行かざるを得ない。そして、日雇い労働者や野宿者といった環境は、その環境を失うリスクが非常に低くなっている状況なわけで、暴動といった行動を起こして逮捕されたとしても、家族も社会的地位もある人間が逮捕されるリスクとは段違いだ。普通は不満があっても、そうした環境惜しさに行動がためらわれるわけだけれど、そのリスクが削られていった日雇い労働者などにはそのためらいが少なくなっていくだろうことは想像に難くない。警察の行動に不満が起これば、抗議だってするし、暴動だって起こすだろう。彼らはわれわれとは違うから暴動を起こすのではなく、われわれと同じだから暴動を起こすと考えるべきではないか。

映像。楽しそうで良い。「水も滴るいい女」って。いかにも差別主義的なコメントも、事情をそれなりに理解したコメントもあり、調子に乗って旧来の左翼的な文言を大文字で投稿するものもあり、そしてシンプルにおもしろがっている人もあり、コメントもおもしろい。

背後にはもちろん深刻な問題を抱えているとはいえ、権力による抑圧に公然と反抗したという意味で注目すべきニュースだ。

さて、動画では、暴動が楽しげになって、お祭り騒ぎに近い状況になっている。しかし、これはむしろ、彼らが普段いかにストレスフルな状況にあるか、ということを考えるべきではないだろうか。自分たちを普段抑圧してくる警察に、ここぞと反撃しているんだから、そりゃあ、興奮するだろうし、楽しくもなるだろうな、とも思う。また、朝日の記事では、「騒ぎは、仕事がないうっぷん晴らしだ」、「就労対策や住環境の改善は進んでおらず、きっかけがあればいつでも騒動が起きてしまう」として、さらなる環境の悪化が背景にあるともある。

やや別の話になり、不謹慎かもしれないが、それがエンタメとして消費される危険というのは確かにあるけれど、抗議、デモなどの運動において、楽しさというのは必要だと思う。やっぱり、道路を占有してデモ行進するのは楽しいんだよ、と自分の経験からでも言える。ただ、それが目的をはずれたかたちで暴走してしまうのを、コントロールすべきなんだろう。

しかし、女子高生が逮捕されたという情報だけれど、すごいな。90年の時も子供と機動隊の対立になっている状況があったけれど、大阪には警官と子供の間になにか根強い対立でもあるんだろうか。それとも、野次馬がただ捕まっただけなのだろうか。

大阪、西成、釜ヶ崎の日雇い労働者や野宿者がどういう状況にあるかについては、最初にリンクした生田武志氏の本が参考になる。

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

私の紹介記事。
最暗黒の日本 - 生田武志「ルポ最底辺」ちくま新書 - Close to the Wall
こちらも。
「野宿者襲撃」論

「野宿者襲撃」論

私の記事。
News Handler[WEBLOG SYSTEM]
18年前の暴動について書かれた部分がとても印象的。
ちなみに、これが90年の暴動の映像。はじめて見た。このときは完全に暴徒と化して近隣の商店や車やらを襲っている。

しかし、西成、釜ヶ崎がこれだけ騒動を起こすのは、それだけこの場所がさまざまな抑圧や差別や暴力の温床となっているからだと思うのだけれど、どうしても属人的な要素に還元したい人がいるようで、在日がどうとかしか言わない人がたくさんいる。在日が実際に多くいたとしても、在日を犯罪親和層に落とし込んだ社会的責任というのは頑として存在するはずだけれども。

あと気になるのは、大阪に限らず、ここに来る手配師は県外からの仕事も持って来るみたいだから、ここの労働力は結構な範囲で用いられているだろう。たとえば大阪近隣なら、住んでいる家が彼らの労働力を活用することで建てられたという可能性はあるわけだけれど、そうした形で安価な労働力をアウトソーシングし、自分は安穏に暮らしながらあそこは危険、と切断操作ってのもあまり良い趣味とは思えない。

※6/26、コメントでの指摘を受け改稿