一噌幸弘・しらせ - ふ、ふ、ふ、


ふ、ふ、ふ、 : しらせ (一噌幸弘) | HMV&BOOKS online - TOHYOHYO001
日本のアコースティックグループ、しらせの1stアルバムにしてライブ録音、2006年リリース。

去年末に2008年のベストだと紹介したけれど、もう一度。

編成は以下のようになっていて、和洋折衷の多国籍グループながら、出てくる音は非常に日本的な叙情性が見られ、タブラやヴァイオリンの響きもとても自然に馴染んでいる。リーダーは代々続く一噌流の能楽師で、能管、篠笛の演奏に西洋の演奏テクニックを導入し、ジャンルを超えた活躍を続けるミュージシャンだ。また、ヴァイオリンの壷井彰久はヴァイオリンフロントのプログレバンドKBB、鬼怒無月と組んだアコースティックデュオEra等から、光田康典作品や志方あきこ作品などにも参加するなど、ヴァイオリンの生演奏が欲しいときにはこの人、的に引っ張りだこな奏者。また、タブラの人やギターの人も、結構知られたプレイヤーで、また他のユニットでもよく組んでいたりして、ここら辺の人脈は総当たりで新しいユニットが出来てるんじゃないかと思うことがある。また、ドラムの人は和風ハードロックバンド六三四の元メンバー。

一噌幸弘  …能管・その他
壷井彰久  …エレクトリック&アコースティックヴァイオリン
高木潤一  …ギター
吉見征樹  …タブラ
茂戸藤浩司 …太鼓

高速アコースティック集団、という帯文句どおり、このグループは手練のプレイヤーたちの超絶技巧を惜しみなくつぎ込んだテクニカルさを持ちながら、同時にとてもメロディアスで相当に一般受けしそうな楽曲の魅力をも同時に持っている。


1.空乱12拍子
いきなり始まるスピーディなアンサンブルからメロディアスな笛の演奏へとなだれ込む。タブラと太鼓による独特のうねりにギターが絡むリズム隊の上を、笛とヴァイオリンが動き回る。一端演奏が途切れると、フラメンコギターの間奏が入り、そこから笛とヴァイオリンのソロ回しが始まる。テクニカルな演奏の応酬だ。

2.イトメ
穏やかな笛のメロディが流れ、牧歌的な朝の風景を感じさせる。と思う内に、ギターが入り、ヴァイオリンの素早いバッキングが重なり、ややテンションをあげてくる。一端仕切なおして、太鼓隊のゆったりしたリズムに笛が奏でられる雄大な演奏が続く。ゆったりした雰囲気のなかでも、笛はのべつ幕なしのテクニカルな演奏を繰り広げる。続くヴァイオリンの演奏は広がりのあるメロディから速弾きまでを行き交う。全体的にゆったりとしたテンポが心地よい曲。

3.海こえて
とても叙情的で哀愁のある笛のメロディが素晴らしい。ゆったりとしたリズム隊のテンポも落ち着く。笛の醸し出す愁いのある哀しげな音色が素晴らしいのもあるけれど、バックで控えめに演奏されているヴァイオリンのフレーズがすごく効果的だと思う。

5.ふ、ふ、ふ、take-2
名曲。テクニカルなイントロから、太鼓のしっかりとしたリズムの上を笛の叙情的でとても印象的なメロディが流れる。十分を優に超える長尺で、ソロ回しからテーマに戻り、またソロに、というジャズ的な構成の曲。このメインテーマがとっても素晴らしい。そして各人のソロパートも聴き応え充分だ。笛のメインテーマの裏でのヴァイオリンのフレーズの秀逸さや、太鼓隊のリズムの面白さなどなど、どこもが聴き所だ。テクニカルなアンサンブルから叙情的なメロディまでを味わえるしらせの真骨頂。ラストで変奏されるメインテーマがまた良い。

5.おかゆ
前曲のテンションから一転、これも哀感と叙情性のある楽曲で、「海こえて」と同系列といえるか。メインのメロディの素晴らしさは言わずもがな。後半にはヴァイオリンが前面に出て、情感を盛り上げていく。これも名曲だなあ。

6.ISSO'Sジー
ジーグgigueとは三拍子の舞曲らしい。これはやや快活な調子の曲で、これまでの曲とはやや調子が違っている。アップテンポなリズムの良い曲だ。数少ないギターがソロで出てくるパートが貴重。

7.なまずの幼稚園
ここではちょっと不遇だったギターが結構フィーチャーされていて良い。哀しげでいて牧歌的な雰囲気で、日本昔話とかのバックで鳴っていたら無茶苦茶合うんじゃないか。良い曲だなあ。笛の威力はばつぐんだ。

8.ふ、ふ、ふ、take-1
表題曲の別テイク。どうしてこういう収録方式になったかはわからないが、こちらのテイクでは満足できず、テイク2を録ったが、こちらも捨てるには惜しい、ということなのかな。録音の問題かも。こちらのより長いテイクではギター、太鼓隊のソロパートもあり、そこが聴き所。この太鼓隊パートは良い。


超絶技巧を見せつけたかと思うと穏やかで牧歌的なメロディ主体の演奏が続いたり、という硬軟取り混ぜたスタイルの変幻自在さが秀逸。そして、太鼓とタブラ、というリズム隊、ヴァイオリンと篠笛、能管の上ものでの、和楽器と外国の楽器とのコラボレーションの見事さが特に印象的だ。

いまブックレットを読み返してみたら、ジョン・マクラフリンインド音楽奏者と組んだシャクティの日本版だ、という評があった。なるほど。そのほかにも興味深い指摘が多く、この解説文を紹介しながら文書くべきだったなと今思った。

名盤。

公式サイト
林泉 ::RINSEN MUSIC::
インタビュー
アーティスト・インタビュー:一噌幸弘 | Performing Arts Network Japan