佐藤哲也 - イラハイ

イラハイ (新潮文庫)

イラハイ (新潮文庫)

佐藤亜紀の夫であられる佐藤哲也の第五回日本ファンタジーノベル大賞受賞作ということで、二人そろってファンタジーノベル大賞というおそるべき夫妻なわけだけれど、こちらの作風ははっきり言ってナンセンスコメディというかモンティ・パイソン?という感じの荒唐無稽ストーリーが展開し、そのスタイルはかなり対照的な面がある。

イラハイ、という架空の国の屋根穴職人というわけのわからぬ家業の息子として生まれた主人公が辿る苦難の旅、というのが一応の主軸の話なんだけれど、その話はほとんど中盤までまるで進まず、延々と話が脱線を繰り返し、ナンセンスなコントじみたシーンが次々と現れてくる。ギャグといってもことは古代の専制君主風国家におけるものなので、妻転がしとかいう訳の分からぬ風習で主人公の母が死んだり、愉快な国家権力の仕業やら、執拗に人を殺そうとするイルカが住民を殺戮しまくったりとそういう場面が目白押しになっている。

言ってみれば、ある国の歴史、神話、伝承をごちゃ混ぜにしてナンセンスなコメディとしてまとめ上げたような小説になっている。「物語」のパロディというべきか。

そういうとなんだか存分にネタを仕込んだギャグとして読み流してしまいそうになるのだけれど、奇妙な傑作「妻の帝国」を読んだ後だと、この二作に通ずる「国家」というモチーフが気に掛かる。

まだ二冊しか読んでいないのだけれど、他の本の概要を眺めてみると、どうにも「歴史」と「国家」というモチーフを強く意識している作家だという印象がある。そして同時に、ナンセンス、コメディタッチの作風の印象。どうも作品ごとにスタイルを一から構築していくタイプの作家のようで、そう一筋縄でいくものではなさそうではある。

印象で言うと、「奥が深い」のではなく、「底が知れない」という感じがする書き手だ。

しかし、巻末の福田和也の解説が結構面白かったのが意外だった。

妻の帝国 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

妻の帝国 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)