Falcom Sound Team jdk - Zwei!! Super Arrange Version


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トラッド系ゲームサントラシリーズは引き続きファルコムのツヴァイそのアレンジバージョン。Amazonでは取り扱っていない。

サントラ本体を絶賛したわけだけど、ではこちらのアレンジバージョンはどうか、というとこれがまた輪を掛けて素晴らしい。元々魅力的だったもののややチープさのあった楽曲を、生演奏をフィーチャーすることで、民族音楽らしさをもたらす音色の説得力が増し、原曲に忠実でありながら独立した楽曲として成立させるアレンジセンスも秀逸で、この手のアレンジものとしては随一の出来だろうと思う。
特に「魔王ヴェスパー」、そして曲調をがらっと変え、抜群のセンスを発揮した「幻の大地セルペンティナ」が素晴らしく、この二曲のために買っても惜しくない。全体的にも元々アコースティックトラッドで統一されていたのが、ここでもそのコンセプトを引き継いでいて、アルバムとしての統一感もある。
トラッド系インストアルバムとしても、個人的にはかなり高評価の一枚。

ただ「生演奏をフィーチャー」と言い方の通り、どうも打ち込みがベースになっているらしく、またCDにも演奏者のクレジットがまるでないため、どういう編成になっているかは分からない。それでも音源が格段にアップグレードされているため、パッと聴きは気にならないだろう。まあ、それでも打ち込み臭さは確かに感じられるけれども。

選曲もだいたい順当。私も好きな曲はだいたいここでアレンジされている。サントラ盤では音源のチープさが、デフォルメキャラにふさわしい可愛らしい印象をもたらしていたのだけれど、アレンジ盤では音源のグレードが上がったのと、全体的な編曲がかなりシリアスかつ緻密になって気品すら感じられる雰囲気を持っている。原曲と比べてあまり代わり映えしない、という人もいるのだけれど、サウンドトラックとしての原曲と、独立したインスト曲としてアレンジされた今バージョンでは、曲の骨格は同じでも、受ける印象はその点ではずいぶん違う。

各曲の試聴はこちらから。
http://listen.jp/game/dl_album_nw10102540.htm

「永劫の夢、大空の記憶」
フィドルのイントロに導かれて重々しくダイナミックなリズムが響き、甲高いホイッスルが聞こえてくる。フィドルの哀しげで壮大な主旋律は原曲に比べて非常に優雅な印象だ。途中でベースソロを挾んで二週目の中間部ではフラメンコギターのソロが非常に効果的。ホイッスルの可愛らしい音色と、フィドルの流れるような音色の対比が面白い。きれいに決めて終わる。

「クロップ洞窟」
イントロの軽快なギター、そして切り込むバグパイプによるイントロが格好いい。フィドルとパイプのリードで曲は進む。原曲に比べてやたらと格調高く感じられるアレンジには目を瞠る。曲は骨格そのままなのに、緻密で小技の利いたアレンジが曲の印象をがらりと変えている。フィドルが張り上げるように奏でるサビのメロディはこんなに良かったのかと思い直す。リフレインしつつフェードアウト。

エスピナ暗黒神殿」
原曲をより「聴かせる」方向へグレードアップさせた印象のアレンジ。元はもう少し楽器が多かったけれど、音数を絞り、シリアスさを増し、クラシカルな印象の曲になった。ハープを伴奏に、ヴァイオリンが丁寧にメロディを弾いている。途中からヴァイオリンが二本になる展開が良い。

「アプリエス神殿」
前曲に続いて静謐と厳粛の印象を持つアレンジ。遠くから聞こえるバグパイプと笛の音が妖しい。ピアノ、パイプ等がメロディを引き継いでいく。浮遊感のあるシンセ音らしきものがずうっと全体を覆っている。瞑想的な雰囲気。

「竜の眠る道」
一転してアップテンポな曲調になり、エスニックな音色が多用されたオリエンタルな雰囲気。途中でそれまでよりテンポアップし、違う曲展開になるのだけれど、その途中でフェードアウト。繰り返しでないところでフェードアウトするのは反則だろうと、少しでも聴きとろうと必死に耳を向けながら思う。

「ケノービ火山」
一声サックスが聞こえ、炸裂するアッパーなビッグバンドジャズ。元はもっと民族音楽風のリズムだったものがこう変えてくるとは、という意外性と格好良さに感嘆する。確かに原曲のピアノ部分はジャズっぽいといえばそうだけれど、それを軸にしてそこ以外の部分を全取っ替えしたような大胆かつ見事なアレンジ。サックス等の管楽器の火を噴くような溌剌とした演奏がかなり気持ちいい。

「ダプネ砂漠」
シタールをはじめとした中東色は原曲もそうだったけれど、よりいっそうのそれっぽさ増加で、ますます独特の音色が熱気と妖しさが漂いまくる。一定のリフレインがずっと続くのだけれど、それぞれの楽器がところどころにフレーズを差し挟んで、独特の緊張感が続く。

幻の大地セルペンティナ」
事前情報なくこれを聴いた時の驚きといったらなかった。ここまで書いてきたように、ここでのアレンジは原曲に忠実でいながら表現力を増大させる方向でなされてきていた。「ケノービ火山」はわりと大胆にアレンジしたほうだけど、セルペンティナでのギターとフィドルによるフラメンコアレンジには唖然とするほかなかった。
爪弾かれるギターの音色に被さる歓声がライブっぽさを演出しながら、ギターはかなりの高速フレージングで魅せる。そして原曲のメロディをフィドルが導きながら、ギターは装飾音を入れていく。サビに突入するとギター、フィドルが交互にリードを取りながら曲は進んでいく。さて、一週目は小手調べといわんばかりに二週目のサビパートではギターもフィドルも音数を増やしまくったフレーズをアル・ディ・メオラパコ・デ・ルシアばりに弾きまくる。原曲の哀愁を熱気と共にフラメンコで表現したこのアレンジセンスはに諸手をあげて賞賛したい。これを聴いた時はアル・ディ・メオラっぽいスパニッシュな格好いいインストはないものかと思っていた時だったので、それはもう大いに喜んだ。ロマンシング・サガ・ミンストレルソングの「情熱の律動」やエースコンバットゼロの「ZERO」と並んでゲーム音楽の三大スパニッシュだと個人的には思っている。

「浮遊大陸アルジェス」
メインフィールドでのBGMだったほのぼのとした牧歌的な原曲の平和的な雰囲気を残しつつ、落ち着きと広がりを得ている。パイプの瞑想的な響きが印象的だ。

「魔王ヴェスパー」
壮大なイントロからパイプ、ホイッスルが唸りを上げ、フィドルがリードを取り焦燥感にあふれるフレーズを奏でる。ここは原曲にはなかった部分。そこから主旋律へ移り、メロディをリフレインするなかで再びパイプが入ってくる。哀切なサビの部分ではホイッスルも参入する。始終フィドルの切迫した演奏が緊張感を維持し続けていく。ひとしきり弾き終えると、曲調が突き抜けるように変化し、メロディはそのままに凱歌のように開放的になっていく。まるで戦闘が終わり平和が戻った様を描いたようなドラマチックな構成で、ループ仕様のサントラ盤ではできなかったアレンジだ。アイリッシュサウンドの横溢した名曲。

「ヒポリタの丘」
原曲もシンプルだったけど、ここではアコースティックギターデュオのにみによる演奏というよりいっそうシンプルになったアレンジ。

「花と風の歌」
サックス、ピアノを主導に、ゆったりしたジャズ調のアレンジで、冒頭には掛け声まで入っている。盛り上がったテンションをクールダウンさせる洒落た雰囲気だ。


全体にインストとして格段にレベルが上がっているといえる。可愛らしいBGMとしての雰囲気は薄れてしまったけれど、シリアスなトラッド系インストとしては格別の出来。下手にヴォーカルアレンジとかされなくて本当に良かった。この手のものとしては光田康典ゼノギアスのアレンジアルバムがあって、あっちは本職のアイリッシュミュージシャンを起用した豪華な一枚だけれど、ツヴァイのほうも全然負けてはいないと思う。

とにかくもツヴァイのこの二作は傑作。なお、セルペンティナの原曲に忠実なアレンジとしてはファルコムの「jdkバンド2008春」収録のものがある。これはちょっと短縮してそのままPSP版のツヴァイのサウンドトラックとして使われたらしい。

ファルコムjdkバンド 2008春

ファルコムjdkバンド 2008春

なお、このCDはダイナソア?リザレクションCD-ROM版 (特典付)に特典として付属していたらしいので、これを買う手もある。ファルコムの特典の付け方は半端ねえな。