毎月向井アーカイブを更新するだけのブログになりつつある現況なもんで、年明けてから読んでいた小説の感想をさっと書いておく。前々からエンタメものの面白いという評判の小説を読んでみようと思っていて、巻を措く能わずというような先が気になってしょうがない類の流れるようなストーリーテリングを上下巻とかの長めのもので味わえるのはないかなー、と探していたりした。
貴志祐介 - 新世界より

- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/01/14
- メディア: 文庫
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三巻合わせて1500ページ程度あるものの文字も大きいし読みやすいのでサクサクいける。それはそれでいいんだけど、前評判からすると、これそんなに面白いかな、という感想になってしまう。呪力と呼ばれる超能力が日常化している超未来世界での、主人公ら少年少女達が、学校生活を送りながらその能力を開花させていく様子を描く魔法学校ノリの部分とか、奇妙な生き物が存在する不思議な社会制度、そして呪力を使った派手なアクションなど、それぞれの展開は読ませるものがあるし退屈ではないんだけれど、未来社会の隠された真実、というのが結局の所この長篇を支えるには弱すぎる気がする。
全三巻あるなら、社会の真実、崩壊、再構築への希望みたいな辺りまで行って欲しいところなんだけど、夏休みの冒険、といったようなそれ自体は魅力的なシチュエーションや個々のエピソードを丁寧に展開しすぎていて、長い割には密度が薄いというか、踏み込みが浅いというか、そういう印象。最後まで読んで、これで終わりなの、と思った。解説では原型となった中篇があることに触れられていて、つまり中篇のネタをそのまま大長篇の核に据えてしまったアンバランスさなのかな、という気がする。割と楽しく読んだものの人には勧めない(長いし)、という感じ。
と、書いていたらアニメ化だそうで。確かに少年少女の成長物語に超能力のアクションとかあるから、アニメ的に映えるところは多いのかも。
アイザック・アシモフ - ファウンデーションシリーズ

ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: アイザック・アシモフ,岡部宏之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/04
- メディア: 文庫
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超未来を予測する学術的知性が預言の如く機能しているところなど、理知的な思考を重要視するのがアシモフらしいといえるのだろう。知性へのポジティブな信頼が生きているところは良いところでもあるんだけれど、同時に何だか決定的に古めかしい点でもあるなあとは思う。ちょいちょい違和感を覚えるところもあったり。まあでも面白い。
上田早夕里 - 華竜の宮

- 作者: 上田早夕里,山本ゆり繪
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/10/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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中心的な人物は陸と海とのあいだを取り持つ外交官的な役職。そして、先行短篇でも語られた海上生活をする人々と地上人とのあいだの異種族同士の対立を、外交官が調停して、より多くの人のためとなるやり方を貫こうとする。破滅に際し、いかによりよい選択肢を選んでいけるか、という絶望的な苦闘を描いていて、まあもちろんハッピーエンドなど望むべくもないけれども、希望をつねに捨てないポジティブさに支えられている作品だと思う。あとこの終わり方はとてもSFらしくて感動的だ。
先行作品として、まずは小松左京の『日本沈没』を挙げなければならないんだろうけれど、私は未読で、個人的に思い出されるのは『DTエイトロン』という十年以上前の深夜アニメだったりする*1。この作品の最終回は非常に衝撃的で、エヴァとはまた違ったインパクトをもっていたんだけど、最近のコピペブログとかで印象に残った最終回みたいな記事があっても、まず挙がっていないのが不思議で仕方ない。最後の最後で冒頭の伏線を回収する演出が絶妙。アニメの最終回というとまず思い出すのはこれだ。何故これを連想するのか、ということを書くと両方の結末にかかわるのでここでは書かないけれど、絶望的な苦闘を戦うことの希望というか、ね。
米澤穂信 - 古典部シリーズ、小市民シリーズ
ユーゴ紛争を扱ったものと聞いた『さよなら妖精』を読むつもりで買ってあるんだけど、東欧関係はまとめて読もうと後回しにしたので、とりあえずこちらのシリーズを読んだ。両シリーズとも一作目は既に去年読んでいるので、この記事では以下を。

- 作者: 米澤穂信,高野音彦,清水厚
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2002/07/31
- メディア: 文庫
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- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/04/11
- メディア: 文庫
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頭の良い自分、みたいな思春期の自意識のテーマを扱う点は古典部と共通するんだけど、小鳩くんは古典部の折木くんと比べてひねくれていないのと、どうしても推理したくなる欲求が隠せていない素直さがあるところが好印象。折木くんは推理へのモチベーションをヒロインに肩代わりさせてしまっているのがよくないと思う。それと、小山内さんの内に隠した苛烈さがなかなか素敵で、シリーズ通しての大ボスのごとき貫禄を示しているのがとても良い。このシリーズは「冬期限定」で終わってしまうのかな。次はいつ出るのかな。古典部シリーズがアニメ化だそうだけど、それはやっぱりメインキャラが四人いて映えるから、なのか。
アサウラ - ベン・トー

ベン・トー―サバの味噌煮290円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
- 作者: アサウラ,柴乃櫂人
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: 文庫
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ジェフリー・ディーヴァー - ボーン・コレクター

- 作者: ジェフリーディーヴァー,Jeffery Deaver,池田真紀子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/05/01
- メディア: 文庫
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*1:OPがブレイクしつつあったDragon Ash『日はまた昇りくりかえす』だった。これ以前にも『Virus』というアニメのOPで『Rainy Day and Day』が使われていて、Dragon Ashを知ったのはその時だったのを思い出す。そしていまエイトロンのwikipediaを見てみたら、岡田麿里のアニメ脚本デビュー作だったみたい
*2:しかし、作者さんはセガというとサターンなのか。私にとっては初めて家にきたゲーム機がメガドライブだったので、メガドラに思い入れがある。RPGといえばシャイニングフォースだし、ルナ2(メガCD)だし、ファンタシースターの4だったし、アクションRPGならランドストーカー、ラグナセンティ、トアだ。ガンスターヒーローズや四人同時対戦格闘の草分け、幽遊白書魔強統一戦は家に人を呼んだ時の大定番だった。確かにサターンはバーチャファイターリミックス同梱版を買ったので当然思い入れもあるけども。そして基本的にメガドラ、サターンばかりだったので、全盛期のスクウェアorエニックスRPGとかあんまり知らない。FFは6、7のみ、ドラクエは6と7、8の序盤のみとかくらいしかやっていない。そこら辺同世代との厚い壁を感じることがまれによくある