後藤圭二監督 - 戦国コレクション

テレビ東京・あにてれ 戦国コレクション
上記の「人類は衰退しました」も面白いし、今年前半は「機動戦艦ナデシコ」の佐藤竜雄監督「モーレツ海賊」のきわめてオールドスタイルで丁寧なつくりも感動的だったけれど、個人的に面白く見ているのが、ナデシコキャラデザインで知られる(というのは昔の人間の見方か)後藤圭二監督の「戦国コレクション」だ。ソーシャルゲームを原作に、萌え美少女化された戦国武将(武将でない人物も含まれる)が「戦国世界」(戦国時代ではない)から現代日本に飛ばされてきたというところから話が始まるアニメで、ゲームが売れていて金があるためか、作品がクリエイター(特に脚本?)主導で作られているらしいことが作品から伺え、非常に面白いものになっている。このアニメから感じるのは、自由っていいな、ということ。この、作品全体から感じられる自由を謳歌している感は、カオスギャグアニメの金字塔カブトボーグを思い起こさせる。

さすがにカブトボーグほどカオスではないけれど、毎回違った武将をメインにすえて一話完結のオムニバス形式として作られている本作は、深夜アニメではずいぶん珍しく、またそれが毎回違った映画ドラマなどを元ネタにするというコンセプトになっているため、毎回話のジャンル自体がころころ変わるというのは相当に珍しいと思う。

恋愛もの、アイドルもの、脱獄もの、ドキュメンタリー、SF、ホラー、ミステリ、学園、コメディ、等々だ。元ネタの料理の仕方にもいろいろあり、私などは元ネタのほとんどがわからないのだけれど、プロットを借用したものから、特徴的な演出の模倣、登場人物の借用(「イレイザーヘッド」のアフロは私にも分かった)、テーマの類似、複数の作品の混合などなどが指摘されている。パロアニメによくある、台詞やポーズの引用、借用にとどまらず、映画をきちんと咀嚼して下敷きにしている印象。

第一話は異世界から飛ばされた信長が日本の少年と一日を過ごす話で、「ローマの休日」を下敷きにし、出会いと別れを描きながら、元の世界に戻って天下取りを続けるには、他の武将から秘宝と呼ばれるものを奪い取らなければならない、という作品全体の基本目標が提示される。しかし、信長は各回に必ず登場するわけではない。

続く第二話は、がらりと変わって家康がアイドルを目指す話となり、「スタア誕生」が元ネタ。第三話では兼続と謙信の女性同士カップルの話で「ベルリン天使の詩」、第四話の政宗回では「女囚701号/さそり」をネタにしている。特に第五話卜伝回は、マイケル・ムーアの「ボーリング・フォー・コロンバイン」の露骨なパロディ回(アメリカの歴史をダイジェストした作中アニメまでパロる細かさ)で、この作品の一話ごとに特定の武将をメインに据えたオムニバス形式・毎回映画を元ネタにした脚本演出、という基本コンセプトが知られることになった。この回はコロンバインをネタにしながら、「ドキュメンタリーは嘘をつく」というテーマになっており、元ネタでムーア役の声優がムーアポジションの人物の声を担当するという念の入った仕掛けになっていた。

なお、以上の元ネタ指摘は某所掲示板のスレッドでのまとめによる。ここまでで私がわかったのはコロンバインだけだ。詳細な比較動画はこれ

あるキャラのアゴが気になるけれど三話が演出あわせて非常にいい話になっていて、四話の「スタイリッシュ成敗」でのぶっ飛んだギャグセンス、五話の完全パロディでこのアニメは相当面白いということが段々分かってきてからはずっと面白く見ている。当初この作品の評価があまり芳しくなかったのは、このオムニバス形式で映画パロというなかなか希有な作風のため、視聴者が見方をよく分かっていなかったせいかと思う。それが女囚さそり、コロンバインパロ回あたりで今作の基本コンセプトが周知されたことで多くの視聴者を引き戻したのだと思う。私がまさにそのパターンだった。

人情もの的ないい話から、ぶっ飛んだギャグ、全篇通してシュールな回、きわめて沈鬱な雰囲気の回までがあり、回ごとの温度差、落差もかなりのものがある。17話から18話の繋ぎで多くの視聴者を愕然とさせたことは記憶に新しい。

そのため、誰が脚本か、ということに視聴者の注目が集まる。脚本の話題がこれほど出てくる点ではやはりカブトボーグを思い出す。百合要素が強い雑破業、バトルアクション色の印象がある新井輝、突出して飛ばしてる回は金澤慎一郎、印象的な脚本ということでは傑出している芭蕉回と吉継回を担当した待田堂子、二本のみだけれど武将と現地人の暖かい交流を描く関根聡子、という印象。しかも、脚本とともに演出も特徴的で、毎回武将の家紋やネタとなる作品に関係するアイテムが画面端にずっと映り込んでいるとか、ある回では油彩風背景にBGMゼロ、というきわめて先鋭的な演出がなされていた。

一話完結で毎回ジャンルすらもかわるため、次に何の話になるのか予想ができず、二話構成の回もあるけれども一話ごとに話がきちんと終わるので見ていてとてもテンポが良く、毎回圧縮された映画を一本見終わったような満足感がある。趣味に合わずとも後に引きずらないので、すぐに切り替えられる。

そのなかで、戦国世界から飛ばされた武将たちが、この世界でどういう生き方を見つけ出すのか、ということが語られる。信長の目標が秘宝を集めて戦国世界に戻る、というものなのと対照的に、多くの武将は飛ばされた先の世界で暮らしていくことを選択している。新しい場所で自分の居場所をいかに見出すか、見出したか、というような物語となっており、現代世界に溶け込みつつある武将達を描いている。これが各回のエンディングを後味のよい、安堵感のあるものにしていて、効果的だ。同時に、元の世界に戻ろうとする一群の武将らがシリーズ最終回でどう決着するかが期待されるけれども、今のところ全くまとめようとする気配がなく、斜め上の解決でエンディングになりそうなのが戦国コレクションらしい。


回ごとの振り幅の広さこそが今作の面白さでもあり、戦国でも武将でもない芭蕉、源内や劉備(これは三国)が普通に登場する原作の何でもあり加減をいいことに、きわめて自由に作っているのがわかる。各回に元ネタを用意した二次創作的な脚本手法なのも、原作自体が歴史の萌え美少女化という二次創作ゲームだということを考えるときわめて筋の通ったコンセプトに思える。

金があるところが自由に作らせると、こういう面白い代物が出来上がるという点は、子ども向けホビーアニメのはずなのに、玩具の国内展開が終了直前でスポンサーからフリーハンドを与えられたために自由すぎる作品構成が可能になったカブトボーグをやはり思い起こさせる。両者とも、スポンサーからの縛りが薄いことで、各クリエイターがやりたいことをできる、という状況があったのだろう。

基本的に美少女アニメのフレームではあり、武将が全員女性になっているため、忠義やライバル関係が百合関係に読みかえられて作られている部分もあり、後半のキーとなる信長と光秀の関係も百合要素が強いので、そこら辺に興味のない人に面白いものかどうかは分からないけれど、映画好きでアニメも見る、という人は見ると面白いのではないだろうか。2chのスレやまとめサイトなどでは各回の元ネタが指摘されているけれども、元ネタがわかると話も分かってしまうことが多いので、振り幅の広さを楽しむには事前情報をあまり拾わずに見る方が良いと思う。ちなみに私はほぼ映画を見ないので、ほとんどの元ネタを自力では発見できていない。コロンバイン、BTTF、2001年宇宙の旅くらいか。あるいは、元ネタの映画から見る回を選ぶという見方もあるだろう。

やたら長々しく真面目臭く書いてしまったので、変に真面目な作品だと思われないように言っておくと、そもそも武将の美少女化ゲーム(原作には男バージョンもあるけれど)から始まった企画で、基本的には軽くてばかばかしい、でもちょっといい話だったりする、とてもアニメらしい作品だ。


もうここまででかなり長くなってしまったので好きな回とかについて書くのはやめるけれども、光秀回前篇の脚本はとても巧かったと思う。しかしやはり兼続のアゴがなぜああなのかがわからない。あと、CV広橋涼北条早雲が不思議とツボなキャラ。

シリーズ最高にいい話と最高にカオスな話を収録した注目の第四巻のパッケージの全く売る気を感じられない白けぶりが凄まじい。ありえないだろこれ。

戦国コレクション Vol.04 [Blu-ray]

戦国コレクション Vol.04 [Blu-ray]

http://gyao.yahoo.co.jp/p/00111/v08072/
戦国コレクション [第1話無料] - ニコニコチャンネル:アニメ
GYAOでは地上波に対して一週遅れで配信、ニコ動では三週遅れで配信されているので、19日までならGYAOでシリーズトップ3クラスの傑作ギャグ回、尼子経久屋良有作ナレーションによる砂場英雄伝説回、ニコ動ではこれも非常に出来の良く、まとまりとバランスの良さでは屈指かと思われる武田信玄のSF回が見られる。信玄回は、細かなSF演出やアクション作画、話のテンポの良さと締めの爽快さ等、戦国コレクションの単発キャラ回をハイアベレージで代表するような回だ。

けれどもあのアゴは……