後藤明生 - 短篇「人間の部屋」

人間の部屋 後藤明生・電子書籍コレクション

人間の部屋 後藤明生・電子書籍コレクション

後藤明生電子書籍コレクション刊行便乗企画。今回は前回に続き単行本未収録作品、「人間の部屋」。「円卓」1963年4月号掲載。この「円卓」という雑誌、同号には萩原葉子の初長篇『木馬館』の新連載が始まっている。また、編集人の神山潤は、「恢復」の載っていた「文芸日本」の編集発行人でもあり、この二誌は編集人が共通している。

PR会社の社員と週刊誌記者との関係をあまり自分のことを語らない語り手が傍観する、というスタイルで語られており、そしてそこに不倫「関係」が絡んできて、その関係を知っていること知らないこと、ということの意味が出て来るあたり、「関係」に至る原型的な作品かと思ったけれどもこれは「関係」よりも後の作品。

「関係」で描いたものとも似たモチーフを用いつつ、「人間の部屋」つまり住居の問題がちょいちょい強調されて出て来るところが、後の団地ものへの傾注を予告している。PR会社との関係で、家中に宣伝するべき家電製品が売るほどひしめいている、という部屋の異様さが語りの枠を作っており、だからこそ、その人物吉田が引っ越しをしようとしている、という冒頭部分に繋がっていく。

「人間の部屋」とは非常に奇妙な題で、具体的なのか抽象的なのか判断に困るような一般名詞を重ねた題だけれど、家電製品に埋め尽くされたビジネスにプライベートまでをも浸蝕された状況を指していると読める。後半、会社から問題があると睨まれていた社員の自宅へ、取引先企業の社員が訪れたところ、妻が押し売りと見なして追い返したのが社長にたれ込まれて、そのことを叱責された当該社員が即刻辞表を突きつけて、屋上から名刺をばらまく、という印象的なエピソードはそのことを強調してもいる。

そういえば『向井豊昭の闘争』ではっとしたのは、初期後藤明生の小説が「(元)週刊誌記者の手になる洗練された風俗小説」として受けとめられた、という指摘だ。そういえばそうで、後藤明生の小説には、いかにも週刊誌に載ってそうな雑学的な話題がよく出て来る。性別を産み分けするにはアルカリだか酸性だかに身体を維持しないといけない、とか「疑問符で終る話」の放屁を我慢しすぎることが女性の盲腸炎の原因だという産婦人科医の談話、とか、断食道場とか、ある種の下世話さと身近さと性的な要素の混在した感じ、いかにも週刊誌記事のネタになりそうなものだ。

本作でも、この記事のネタを捏造したり提供したり、というやりとりが多くでてくるわけで、「関係」もそうだったように、週刊誌記者、ライターの内輪話という側面は多分にある。ゴーストライターの話もあって、それも後の作品で改めて出て来るし、じっさい、「団地もの」というのも当時の最新の風俗だったわけで、また後藤明生得意のあの妙なロジックでの考察というのも週刊誌記事的なスタイルに引きつけてみるとわりと納得がいく。後藤のコピーライターぶりというのは前にも指摘したことがあったけれども。

平凡出版やら博報堂やら、という後藤明生の職歴というのはやはり、大きく作品に影響している部分があり、私はそこらへんをあまりちゃんと考えてはいなかったな、ということに気が付いた。