年明けから三月くらいまでに読んでいたもの。四月には上げるつもりだったのに、いつのまにやら五月入ってしまった。
- 作者: 谷崎潤一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1955/11/01
- メディア: 文庫
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石川がこれをオマージュして『四人制姉妹百合物帳』を書いた、というのは、『細雪』での結婚前の姉妹による生活を、学生生活的なモラトリアムとして読み替えることでなされた、と考えられる。じっさい、『細雪』の姉妹での生活は、結婚して他家へ嫁いでいくことで終わりを迎えることが予期されるわけで、これと卒業してそれぞれの進路を進んでいくことになる、という『四人制姉妹』には通ずるものがある。なお、『四人制姉妹百合物帳』のほうで、『細雪』での「鶴子」にあたるキャラが「杜理子」(名字と合わせて明らかに陰部のもじり)と変えられいるのは、陰部を剃って「ツル子」とされる下ネタのための変更と考えられ、つまりは剃毛によって「姉妹」が揃うということでもあろうか。ひどいネタだけれどもそれが作品の核心だったりする。
- 作者: 石川博品,まごまご
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/12/11
- メディア: 文庫
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「サロンへの径(みち)」→?(プルーストっぽい?)
「百合種の顰(ユリシーズのひそみ)」→「ユリシーズの瞳」アンゲロプロス
「閖村三十人剃毛」→「津山三十人殺し」
「湯煙の中の風景」→「霧の中の風景」アンゲロプロス
「卒業と日常」→?
分かる人いますか?
COMIC ZIN 通信販売/商品詳細 アクマノツマ
同人版『アクマノツマ』も読んだ。これは確かにメジャーレーベルからは出ないかなあ、という作品で、悪魔の妻を持つ「まじめ底辺」を自認する高校生男子の日常を描いている。ちょっとしたケンカはあっても、大きな盛り上がりを作らずに悪魔の妻との結婚生活の機微を描いており、百合物帳よりこちらのほうがよっぽど『細雪』っぽいような。太宰「ヴィヨンの妻」パロディらしいけど、読んだのは随分まえでどんなだったか覚えてないので、関連性はわからない。まあいつも通り作者の文章は非常に良いし、知り合いの女子連中とのちょっと微妙な距離感とかもいい。「まじめ底辺」というのは、自宅学習の習慣がきっちりついているのに成績は悪い、という主人公の自称で、適当にやってても元々頭のいい妻に対してちょっと屈折した感情を持っている。毎日三時間勉強して、ようやく普通かそれより下に追いつけるくらい、という能力。これ、すごく生々しい。鬱屈した、日常的な絶望感が匂ってくる。これで妻がいなかったら、と考えると相当暗い話になるわけで、悪魔妻というファンタジーに賭けられた生々しい感触、というと、『ヴァンパイア・サマータイム』もそうした作風だったといえばそうか。石川博品を初めて読むという人にお勧めする作品ではないと思うけれど、ものすごく刺さる人はいる、という類の作品だろうか。
SF大賞候補作
共著が候補作になったので、候補作を自分も全部読んでみる。谷甲州『星を創る者たち』は去年既に読んでいるので、その他を。
- 作者: 藤井太洋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: 単行本
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- 作者: 長谷敏司
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: 文庫
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- 作者: 菅浩江
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/10/25
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候補作のなかで『オービタル・クラウド』が頭一つ抜けてる、と思う以外は、もう一作は個人的にはどれもあり得たかな、という感じがある。『星を創る者たち』も地味で良いし、結構好きなんだけれども。『北の想像力』、私は玉石の石のほうなので質はともかくとして、コンセプトとしても物量としても、非常に画期的な一冊だったと思うので、特別賞くらいはなあと思うのだけれど、平井和正の功績賞があると、もう他に特別枠は作れなかったか、と思うしかないな。まあ、星雲賞の候補にもなったみたいですね。こちらはもっと取れなさそうだ。
SF大賞贈賞式に参加できたので、選評を読んだところ、『オービタル・クラウド』と『My Humanity』が突出した評価を受けていたので、二作当選で順当に決まったとのこと。私は、『My Humanity』が一冊としての出来でややマイナスをつけたのとは逆に、書き下ろし中篇「父たちの時間」ひとつでも受賞に値する、という意見があり、それなら確かにこの二作か、と納得した。藤井太洋のエンタメ力と、長谷敏司の深く問題に踏み込んでいく力が、高く評価された形、だろうか。評論では『北の想像力』より、候補になっていない岡和田さんの単著『「世界内戦」とわずかな希望』のほうがよかった、と二人に書かれていて、うーんとなった。まあじゃあ評論部門は岡和田さん単勝ってことでいいね。
第35回日本SF大賞贈賞式 生中継 - 2015/04/24 18:00開始 - ニコニコ生放送
ざっと見たところ、私も映ってました。当日は『北の想像力』チームの方など、いろいろな方と会えて楽しかったです。
警察小説と呼称ルール
- 作者: 佐々木譲
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2007/05/01
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- 作者: 月村了衛
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/03/19
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これら警察小説を読んでいて、ふと違和感があったのは、地の文における女性の呼称だ。『笑う警官』では、主要メンバーの女性が「小島百合」と常にフルネームで呼ばれている。他の男はだいたいが名字だけで呼ばれているにもかかわらず。また、『機龍警察』では、他の人物は主に名字だけで呼ばれているのに、外国人と女性は名前で呼ばれている。「鈴石縁」はつねに縁と呼ばれていて、あれ、名字なんだったか、と遡って確認しなければならなかったほどだ。この、地の文で女性だけが呼称ルールが違うのは、はたして自覚して行われていることなのだろうか。男性社会の警察組織において、女性はつねに「女の子」扱いされている、ということなんだろうかとも最初は思ったけれど、絵のないメディアたる小説では、フルネームを覚えていなければ女性だとわからない呼称を使いづらい、というテクニカルな理由の方が強いんじゃなかろうか。どちらにしても、文章において女性を女性だと明示するテクニックが求められる、ということそれ自体にも微妙な問題が隠れている。自分が男だからか、性別を明示しない人物が居た時、それをまずは男として読んでしまうことってあって、これはネットでもそうだったりするのは覚えがある。
吉村昭北海道もの
- 作者: 吉村昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1982/11/29
- メディア: 文庫
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冬のアニメ、幾原邦彦監督『ユリ熊嵐』では、ユリと熊をなんかそういう絡め方(社会における男性のアレゴリー)するのかな、って思ったらそういう安直さはさすがになかった。ただ、『羆嵐』が事実と変えたポイントとして、羆を銃撃した猟師の名前に、「銀」の文字をつけ加えており、『ユリ熊嵐』では百合城銀子というキャラが重要人物だったので、そこは意識しているところだとは思う。猟銃を持っていたのは違うキャラだったけど。ずらしてる。
- 作者: 吉村昭
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/04/13
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プロ文
- 作者: 小林多喜二
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2008/07/25
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- 作者: 宮本百合子
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
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- 作者: 瑞智士記,鍋島テツヒロ
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/02/20
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この作品がそうだ、というわけではないんだけど、百合作品には時々箱庭というか、女性しかいない状況を設定していたり、それを希求したりすることがある。女性は普通に生活しているだけでも、様々な状況で痴漢に遭遇する、それも制服を着ていたりする少女だとなおさらだ、というし、一般的に筋力の関係でも、男性に抵抗することが難しい、という話を改めて考えてみると、つまるところ往々にして女性、少女にとって、男というのは存在そのものが暴力に他ならない、ということなんだろう。自分より力が強く、性的な視線で眺めてくる存在とつねに一緒にいなければならない日常、というのは、なかなかに想像しがたいストレスフルな世界だ。