積み本消化強化月間、四月は海外SF。
グレッグ・イーガン『万物理論』
- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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ジャック・ヴァンス『竜を駆る種族』
- 作者: ジャックヴァンス,Jack Vance,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 文庫
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B・W・オールディス『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』
- 作者: ブライアン・W.オールディス,Brian W. Aldiss,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/01
- メディア: 文庫
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『J・G・バラード短編全集1』
- 作者: J・G・バラード,柳下毅一郎,浅倉久志他
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/09/30
- メディア: 単行本
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デビュー作「プリマ・ベラドンナ」は倦怠と停滞の熱砂のリゾート、ヴァーミリオン・サンズ連作のはじまりでもあるけれど、「大休止」というようにまるで時間が止まる=終わるかのような感覚があり、ほぼ同時に書かれたもう一つのデビュー作「エスケープメント」がタイムループものなのもとても示唆的。時間の循環、停滞にくわえ、第三作「集中都市」はこの時間軸が空間軸に変換されており、西へ向かったはずが東へ向かっているという不気味な積層都市が描かれている。近づいてくる終末、逃げ場のない空間、いずれもが脱出できない閉鎖系で、初期作品はこうした逃げ場のなさが繰り返し描かれている。西が東に循環する「集中都市」や、ミニチュアがリアルスケールに繋がる「ゴダードの最後の世界」のような、ループ、循環的構造も特徴的で、これはまさに外宇宙と内宇宙の関係そのもので、宇宙を探究することが人間の心理や精神の内宇宙への潜行に転位する。逃げ場のなさはそれが自己自身の精神だからだろう。睡眠を除去し多大なる時間を得たと思ったら精神的牢獄への囚われとなる「マンホール69」のように、時間と空間の変換も特徴か。SF的設定が人間心理への探究に繋がるバラードの方法はこの時期、閉鎖された時間と空間を舞台に問われている。テクノロジー三部作も監視社会の三部作も舞台の閉鎖性がその最大の特徴だけれど、時間の終わりと閉ざされた空間の密接な関係性がごく初期から現われているのがよくわかる。そして「集中都市」にはバラードのよく知られたオブセッションのひとつ、空を飛ぶことが描かれているのに気づいた。
で、もう一つの特色が音。バグルスのラジオスターの悲劇の元ネタと言われる「音響清掃」の残存する音のアイデアも印象的だけれど、自己増殖する音響彫刻を描いた「ヴィーナスはほほえむ」の「いまに、全世界が歌いだすときがくる」という一節は「時の声」にも共振するものがある。終末を告げるカウントダウンを示唆する宇宙からのメッセージが描かれる「時の声」での、「頭上では星が歌っていた。地平線の端から端まで空にぎっしりとつまった幾千の宇宙の声、真の時の天蓋」という一文は、「ヴィーナスはほほえむ」の一文と似た終末的感触がある。黙示録的というか。「深淵」の「魚は海という鏡に映ったわれわれ自身」とあるように、外こそ内、内こそ外、という鏡像関係。閉ざされた時空間の濃厚な存在感があって、上下二段の山盛りのバラード短篇にはなかなか中毒的、蠱惑的な味わいがある。
ただ、この全集翻訳情報がない。創元SF文庫からのものはかなり置きかえられてるんだけれど、それがこの全集のための新訳なのか、既に雑誌や書籍に載せられたものの採録か改訳だったりするのかがわからない。「時の声」の伊藤典夫訳って1966年のSFマガジンに訳されているみたいだけれど、これはさすがにそのままではなさそう。パラ見した四巻では『残虐行為展覧会』からの翻訳の法水金太郎というのは横山茂雄のペンネームで、工作舎版から改稿して収録、と情報があるのに。
アンディ・ウィアー『火星の人』
- 作者: アンディ・ウィアー,小野田和子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/12/08
- メディア: ペーパーバック
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ケン・リュウ『紙の動物園』
- 作者: ケンリュウ,伊藤彰剛,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/04/06
- メディア: 文庫
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ケン・リュウ『もののあはれ』
- 作者: ケンリュウ,伊藤彰剛,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/05/09
- メディア: 文庫
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作者が中国SFの翻訳を精力的に行なっている理由が伝わるような作品群で、中国、アメリカのあいだにある、という自身の来歴、位置を正面から受けとめ、生かしているような本だった。二つの表題作のようにややベタな感動ものに傾きがちなところは気にはなるにしても。Twitter文学賞トップというのも頷ける、海外現代文学好きには非常にアピールするだろう作品だ。
アンナ・カヴァン『氷』
- 作者: アンナカヴァン,Anna Kavan,山田和子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/03/10
- メディア: 文庫
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解説で川上弘美が「狭い」と言っているけれども、この小説の叙述は重層性ではなく、すべてが何らかの自己言及でもあるかのような強烈な狭さかも知れない。「私」も「長官」も「少女」も。「少女」の造形から薄々感じてはいたけど、サンリオ版の序文でオールディスが「アンナは富裕な母親に支配されていた。人生においても著作においても、彼女は遂にこの支配の重圧から逃れることができなかった」とあるのを読んで、やはり、とは思った。カヴァンは文遊社がいまたくさん出してて既訳はほとんど入手できるけれど、カヴァン名義の第一作『アサイラム・ピース』だけが品切れなので文庫化なりされないかな。
ちくま版で相当改訳されているのは冒頭見比べてもすぐにわかる。サンリオ文庫版はオールディスの序文があるのと、山田和子の訳者後書きがかなり力入っていて見所。バジリコ版でかなり親しみやすいように解説をリライトしたのが分かる。ちくま版もインパクトあるけど、サンリオ版のらしい装画がなかなかいい。
ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』
ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: ピータートライアス,中原尚哉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/10/21
- メディア: 文庫
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チャイナ・ミエヴィル『ジェイクをさがして』
- 作者: チャイナミエヴィル,鈴木康士,日暮雅通,田中一江,柳下毅一郎,市田泉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/06/30
- メディア: 文庫
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ハーラン・エリスン『死の鳥』
- 作者: ハーラン・エリスン,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/08/05
- メディア: 文庫
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バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』
- 作者: バリントン・J・ベイリー,大森望,中村融
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/11/22
- メディア: 文庫
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川名潤カバーデザインによる二冊、明らかに対照的な作りで面白い。この二冊は刊行が三ヶ月差だったはず。