トーキングヘッズ叢書ケイト・ウィルヘルム追悼特集に『クルーイストン実験』のレビュー

アトリエサードのトーキングヘッズ叢書75号におけるケイト・ウィルヘルム追悼特集に、『クルーイストン実験』のレビューを寄せました。
『クルーイストン実験』は読んだウィルヘルム作品のなかで一番良いと思ったので、それを担当できたのがとても嬉しいですね。「女」がいかに排除されるか、という生々しいホラーでもあります。一点補足したいところとして、ディーナという同性愛者的描写のある女性が出て来ますけど、アンに近づきながらも拒絶されたことでアンへの疑惑を吹聴するようになっていて、つまりアンを愛する男女それぞれからアンは追い詰められる展開になるという。

ウィルヘルム特集は短いなかにぎゅっと詰まってる濃さで、レビューは小説に埋め込まれた挑発や悪意を掬おうとしていて、あたりさわりのない紹介にはならないように書かれています。私も『クルーイストン実験』で、オープンエンドに見えてしまうのは何故なのか、ということを示したつもりだったりします。

ウィルヘルム作品のなかでは、SFは読んだという人にもSF読まない人にも勧めるとしたら『ゴースト・レイクの秘密』かな、と思ってます。これ夫を亡くしてその代理を務める女性判事が主人公だけど、判事としてはじつは夫よりも優秀で、生前はいわば夫を立てていた過去がある。夫婦ともにそのことを分かっており、刑事事件を扱わなくなったのは、法廷で出会えば夫に勝ってしまい結婚生活が破綻するからだ、という描写がある。「女にとって未亡人になることは自由を意味する――」なんてフレーズも。女として生きることを描く非常にいい小説だと思います。 これもまったく過去のことではありませんね。