『骨踊り 向井豊昭小説選』(幻戯書房)の解説鼎談に参加しました

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骨踊り

骨踊り

1/25日頃刊行予定の『骨踊り 向井豊昭小説選』(幻戯書房)に付された鼎談「向井豊昭を読み直す」に、岡和田晃山城むつみ両氏とともに私も参加しました。

本書は初期から後期、エッセイや事典項目など向井の文業を総まくりするような600頁超の圧巻の一冊になってまして、目次をとりあえずAmazonから引きますけど、こんな感じ。

1(初期短篇)
鳩笛[1970]
脱殻(カイセイエ)[1972]
2(長篇)
骨踊り(「BARABARA」原型)[未発表]
3(祖父三部作)
ええじゃないか[1996]
武蔵国豊島郡練馬城パノラマ大写真[1998]
あゝうつくしや[2000]
(資料)
根室・千島歴史人名事典』より「向井夷希微」[2002]
早稲田文学新人賞受賞の言葉[1996]
単行本『BARABARA』あとがき[1999]
やあ、向井さん[2007]
平岡篤頼「フランス文学の現在」[1984]
(解説)
鼎談:岡和田晃、東條慎生、山城むつみ向井豊昭を読み直す」

向井豊昭がリアリズムから実験的方法的作風に転換した分水嶺ともなっている、「BARABARA」の未発表の原型長篇『骨踊り』を主軸に、初期のリアリズム作品「鳩笛」、岡和田晃*1山城むつみ*2両氏の論考でも知られる現存一部の同人誌掲載作で、アイヌの小説家鳩沢佐美夫との交流を描く「脱殻(カイセイエ)」、そして早稲田文学に掲載された祖父三部作の小説のほか、向井の原点の祖父向井夷希微について書かれた事典項目や、いくつかのエッセイ、そして向井豊昭がその作風を転換させるきっかけになった平岡篤頼のヌーヴォーロマン論まで収録、と非常に盛りだくさんな内容になっています。

解説として岡和田晃による一万字の原稿と、岡和田晃山城むつみ、私による鼎談がついています。初期作品や『骨踊り』はともかくとして、祖父三部作は何故こう書かれているのか、という点で難解な部分があるので、これらの解説は非常に参考になるものと思います。鼎談ではちょっと二人のレベルが高すぎて私があんまり言うことないみたいな感じになってますけども。なお、「あゝうつくしや」については、「すばる」2018年12月号の山城さんの「連続する問題」においても論じられていますので、是非ご参照を。

向井家の関係図もついていて、入門篇にして決定版のような、本全体はかなりすごいものになっています。この企画を通し、実現させた担当編集さんの苦労が忍ばれる一冊です。

この編集過程で岡和田さんと山城さんのやりとりなどを拝見して、向井豊昭という一人の作家にはアイヌ差別、教育学史、部落運動史、左翼運動史といった近代日本のさまざまなマイノリティ問題の背景や文脈が絡んでいて、一朝には読み解き得ない歴史の厚みがあるのとともに、生涯この日本近代と闘争した一人のゲリラのようなこんな存在が日本には、日本文学にはあったんだということが改めて、きわめて重要な意味を持って迫ってくるところがあります。この数多の歴史的背景を個々に精査し読み解いていく岡和田さんの調査力というものについても改めて感嘆したところがあります。

装幀装画は川勝徳重さん。過日『電話・睡眠・音楽』が刊行され話題にもなった漫画家でもありますけど、今回は向井豊昭を描いた油絵をベースに装幀がデザインされていて、これはまた鮮烈な色彩感で非常に良いものになっています。油絵の原画のほうはポストカードとして付属するようです。

*1:「〈アイヌ〉をめぐる状況とヘイトスピーチ――向井豊昭『脱殻(カイセイエ)』から見えた『伏字的死角』」」(「すばる」2017年2月号)

*2:カイセイエ――向井豊昭と鳩沢佐美夫」(「すばる」2018年2月号)