- 作者:チャールズ・L. ハーネス
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2019/09/12
- メディア: 文庫
突拍子もなく荒唐無稽さを想起させる惹句に対し、今読むと、面白いけど端正な感触すらある速度感のSF活劇で思ったより普通な印象もあった。思ったより普通かというといや結構おかしかったしやっぱムチャだな。傑作!とまでは言わないけど、充分面白い。XがAか非Aでしかないアリストテレス的世界をひっくり返すとか、屈性計画理論とか、あれが!というところは驚かされた。銃弾をはじく盗賊アーマーの存在がレイピアでの決闘を可能にし(ガンダムぽい)、ジョジョっぽさを指摘する人がいるのもわかる、理屈をまくし立てながらのバトルや、人間が目を光らせて映像を投影するなど、奇抜でいってみればコミカルな発想が多々見られるのがおかしくていい。一番驚いたのは3○○ページの○○章と章題のページ数合わせかも知れない。この本作でも大きな意味のある数字を揃えたこれは偶然なのかどうか。冷戦と人間の愚かさと未来と、という直截なメッセージ性がある。
荒唐無稽だったり強烈なエネルギーとかだったりは、ベイリーやベスターとかのほうがというところはあるにしろ、系譜をたどる意味でもこの重要作品がしかも文庫で出たのは快挙だろうし、竹書房と中村融ありがとうというほかないな。詳細な出版史をたどる解説も貴重。作品内容に踏みこんだ解説も読みたいところ。序盤から気になってたところがラスト解かれるところもおお、と思ったんだけど言及するだけでネタバレか。とにかくも、このカバーコラージュも格好良い一冊だ。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2019/10/04
- メディア: 雑誌
- 作者:
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2019/10/04
- メディア: 雑誌
- 作者:
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/11/07
- メディア: 雑誌
「師匠は国民が戦争につっこんでいった状況を、騙されるのとは別に、まず本人達が望んで、というか異様な真理に乗せられ理性なく加担したのだと考えている。天皇についても、天皇を支持して、天皇制と天皇をわける事が出来なくなるのが、一般大衆の性だと理解している」276P
藤枝静男の自我と小説的に作られた私とのあいだを読み込みながら、笙野は最後に自分の小説が読まずに送り返されそうになったときでも、あの藤枝静男が褒めた人なら、ということで編集者に読んでもらえたことを記している。「彼に褒められた事は本が出なくても十年残っていた」。本作はこの十年を大事にしつつ、デビューから四十年が経とうという現在、読むことと読まれることの渾身の応答として書かれている。また藤枝は生き延びた戦後を書き、笙野は来つつある危機を実況しつつあり、時間的に対照的な動きがある。危機のまさにただなかで書かれた今作は危機の後にも読まれるはずだ。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/11/07
- メディア: 雑誌
よく晴れた夏の日、遠く海を望む古い洋館のヴェランダ で、柔らかい南風に吹かれながら、
「おじさんは綺麗なものを全部見てしまった。だから死ぬんだよ」
と語った人は著名な作家で、そのしばらく後に自殺した。
こんな話をある雑誌の記事で読んだと告げる人がいた。
誰が書いた記事だったか聞いていない。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/10/07
- メディア: 雑誌
「……うーちゃんはにくいのです。ととみたいな男も、そいを受け入れてしまう女も、あかぼうもにくいんです。そいして自分がにくいんでした。自分が女であり、孕まされて産むことを決めつけられるこの得体の知れん性別であることが、いっとう、がまんならんかった。男のことで一喜一憂したり泣き叫んだりするような女にはなりたくない、誰かのお嫁にも、かかにもなりたない。女に生まれついたこのくやしさが、かなしみが、おまいにはわからんのよ」28P
女性へ向けられる視線への怒りと母殺しのモチーフが絡み合った語りで、ドメスティックなテーマが母を妊娠する、という幻視的テーマに帰着する。作者は笙野頼子『母の発達』を読んでいるのか気になる。興味深いのは仏像に対して性欲を抱き、自分に男性器が生えてきてほしい、そうしてあの仏の腹に子種を植え付けたい、と語るところ。もう一作の「改良」が女装を扱っていることとあわせて面白い。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/10/07
- メディア: 雑誌
全知の星くずを夕映えの空にびっしり詰めて 夢の深さを測量する母が 残余の非の穴を覗いてつぶやいている
隣の人は狐つきで
夕方になると窓を開けて
黒い鳥と話をするんだ
いつまでも窓を開けているから
寒いんだよね~
「凍沱の河口」の三途の川を渡ってきたとおぼしき者に向かって、「帰れ」と終わるのが彼我の距離をいやおうなく意識させ、それは「飛ぶ氷礫の国道十二号線」で繰り返される「うつし世とかくり世の」の狭間を通って、「非の渚」の「死がゆるしなら/非在が愛」へと至る、ような。いろいろな引用やギリシア語も引かれてるけど、韓国語や韓国の死にまつわる言葉がときに挾まれることがあり、北海道と宇宙のあいだにまた横の広がりも書き留められている。
村松友視『夢の始末書』。中央公論社の文芸誌「海」の編集者だった著者が、入社から小説家になって退社するまでの十八年にわたる編集者生活のなかで出会った小説家たちとの時間を描く回想小説。六〇年代末から八〇年代にかけての時代の一断面もうかがえ、さらっと読める。幸田文、武田泰淳、武田百合子、野坂昭如、唐十郎、舟橋聖一、永井龍男、尾崎一雄、後藤明生、草森紳一、水上勉、色川武大、田中小実昌、川上宗薫、小檜山博、赤瀬川源平、椎名誠、吉行淳之介、が主人公が実際に付き合った人たちで、これだけの人たちの裏話なわけでそりゃあ面白い。これから書くから朝四時にインターフォンを押してくれ、と言われてその時間に訪れたらインターフォンが壁から剥ぎ取られていた野坂昭如や、盲目のはずが見えているとしか思えない情景を語る舟橋聖一とかインパクトのあるエピソードも多い。著者は、草森紳一に勧められてライターを始めている。そして小説を書きはじめたのを知って雑誌「文体」に載せてみないかと声をかけたのが後藤明生だった。持ち込んだ作品を添削して小説家と編集者があべこべになったり、会話文に後藤明生ぽい「え?」を繰り返したり、ちょっと文体模写してる気がする。このとき使ったペンネーム吉野英生は、吉行淳之介、野坂昭如、唐十郎(大靏義英)、後藤明生の四人から持ってきた名前で、この四人に書くのを止めろと言われたら止めようと思っての命名だという。また、他ジャンルで活動していた作家に小説を書かせる試みをしばしば行なっていて、唐十郎や赤瀬川源平、椎名誠などがそうらしい。いろんな書き手を小説家デビューさせた挙句、自分がデビューするわけだ。中盤あたりから「作家とのライブという非日常」というこの生活を括る言葉が出て来て、それはいいんだけど終盤飽きるほど繰り返すあたりとか〆の感じとか、洒落た感じを出そうとした雰囲気がなんか八〇年代という時代を感じさせる。吉野英生こと村松友視のデビュー作。「文体」十号。後藤明生の責任編集号で、ロシア文学についての鼎談では編集部として結構口を出してて司会に徹するつもりはあんまりなさそうで笑える。『雨月物語』研究の中村博保の評論はG君(後藤明生)への書簡形式だったりとか。 pic.twitter.com/XDIj4vTcz3
— 東條慎生のReal genuine fakes (@inthewall81) 2019年11月19日