百合SFとラノベ四冊

宮澤伊織『裏世界ピクニック8』

「怪異探検サバイバル、2人の佳境」ってあおり、それはそうなんだけどサバイバルの佳境じゃなくて二人の関係の佳境なところが笑ってしまう。友達か恋人か共犯者か、怪異と遭遇しつつも二人の関係を二人がどう捉えるかという百合としてのクライマックス。恋人という関係に内包される身体の関係にも進みたいという思いと、「共犯者」というこの世で最も親密な関係という言葉へのこだわりがすれ違っていて、色んな人に空魚が友達か恋人かの境界をめぐって恋愛相談をしていく巻になってる。

「空魚ちゃん、ちゃんと鳥子とファーストコンタクトしてるか?」という小桜のセリフが肝になっていて、隣にいて一緒に裏世界を探検してきた相棒のことをしっかり理解しようとしているか、という問いが、恋人や友達という言葉一般の延長ではなく、二人がどのように具体的に関係を築くかにかかわる。友達や恋人、共犯者、そのどれでもない、二人がお互いの何がしたくて、どうありたいか、という意見を汲んで結ばれた関係、ということに落ち着くのは堅実だし非常に誠実な展開だと思った。これはどんなことでもそう。

しかし、特に性的なことに関心がなかった空魚が鳥子の一人でしちゃおうかな発言に急に欲情しだしたのは本当にお前!って感じで面白すぎた。その後別の展開になって誤魔化された感じするけど、肉体的接触にそれほど興奮しないのに相手一人の行為を見ることに興味を示すの、目が目だけはあるというか。

宮澤伊織『そいねドリーマー』

半年にわたる不眠症の主人公が人を必ず眠りに誘う少女と出会い、その少女は眠りの世界ナイトランドで睡獣と呼ばれる怪物をハントしているスリープウォーカーなる少女たちの一人だった、という覚醒と睡眠の世界を行き来する百合SFファンタジー

裏世界ピクニックの短い変奏のようでもある、この世界と異世界の往還が主軸となる短めの長篇で、覚醒と睡眠の二つの要素が次第に混じり合い、入れ替わりする表と裏の構図がよりスピーディに展開するあたりはその骨組部分だけを取り出して短くまとめたような感触がある。現実感覚が崩れる異様な描写とかは裏世界でも使ってた手法でやっぱそういうのが好きなんだな、と思う。ほとんど一つの同じ生き物になる、というあたり裏世界の最新巻とも通じ合うとも思った。百合の花を食らって生きる竜が出てくるのには笑った。作者やんけ。

そういや表紙や挿絵の丸紅茜、でーじミーツガールの人だった。活動終了しちゃったんだよなー。

みかみてれん『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 4』

百合ラノベ第四巻。何を言ってもネタバレになる巻だけれども香穂がまさに伏兵として素性を露わにすることで、れな子の「行き過ぎた自虐はもはや犯罪的」(138P)だし他人を傷つけるという核心に切り込んで、同類だからこそお互いの欠点がよく分かるしお互いに励ます必要な迂回になっているのが良い。

真唯との関係の上に紫陽花からも告白されたことで、自己肯定感に欠けるれな子は逆に自虐の渦に落ち込んでしまうけれども香穂のコスプレ趣味に付き合うことで誰もがみな悩み苦しみながら自分になろうとしていることを知り、自虐を裏返す決断をする第一シーズンの締めくくり。人前での自分は作った自分でしかなく、本当の嫌いな自分が露呈する恋愛関係を拒絶するというのがれな子の心理の核心で、価値のない私というのに居続けることが逆に安心できるわけだけれども、それはしかし相手が好意を持った自分というものを否定し相手も否定することだというわけで。

持てる者の卑下は過ぎると相手を怒らせるだけだし、実際クインテットのみんなは見た目も良いのは再三描かれていて、それを引き受ける持てる者はさらに持つ選択肢を選ぶのはまあ笑っちゃうところはあるけど、自虐一人称のれな子を突っ込むというか応援したい気持ちにさせる語り口になっている。自己否定と肯定の揺れという思春期の心理を描きながら、上下や優劣ではなく、その形のその人が好きだという相手からの目線によって自分自身を肯定できるようになるというのはラブコメディの一つの王道だろうなと思う。

しかし、最後の決断を普通を外れるなら同じこととするの、同性婚が認められていない状況だから成立するロジックではあると思う。れな子は同性愛者なのかという問いかけがあったけれども、それは認めないのに初めて恋愛感情を認めたのが自分のコスプレ姿というひどいオチに繋がってて笑う。でもそれは間接的に認めたことになるのだろうか。香穂の色仕掛けにやられたあと、隙を見てここぞと一生の上下関係を叩き込もうとするあたり、かなり悪の匂いがするね。まあそれはともかく、「なんじゃそりゃあ!」までイラスト温存してたのは良い構成だった。頁調整もばっちりだ。

もののたとえでクラウドセフィロスが出てきたの、年がバレるぞと思ったけどPS4でリメイクが出たのは2020年なのか。しかしそうすると作中時間がコロナ禍にかぶることになりそう。

みかみてれん『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 5』

百合ラブコメ第五弾。主人公が恋人たちとつきあうことになった第二シリーズの開幕ということで日常回のはずが各キャラそれぞれの描写と後の仕込みなんかで500ページほどになったという。前巻の決断の責任を果たすための主人公の奮闘という感じ。

今更だけどスクールカーストが重要な題材なのは女性主人公異世界ものが貴族社会を舞台にするのに似た感触がある。クインテットという女王王塚とその仲間たちの「貴族」社会になんとか食らいつくという話になってて、「陽キャ」は特権ではなく責任なんだという叙述にもそれが見てとれる。本作もトップカーストのグループの女王に気に入られて不意に引き立てられてしまった主人公がその貴族社会に食らいつこうとする話とは言えて、そう見るとカーストを連呼する本作の趣向はわたおし的な階級社会への批判的視線があまりないのが気になってはくる。

陽キャ」は色んな人の物語にかかわり、色々なことを言われる立場に立たされる、それがれな子は無理だと言うけれど恋人との関係ができることは更なる他人との関係が始まるわけで、それを学ぶのがれな子の課題という話ではある。自己否定の反動で他人のためになんでもしようとしてしまう不安定なメンタルを彼女たちが支えつつのリハビリ。しかし次巻のメインとなる妹のフラグを立てるのが結構強引ではあった。花取さんメイン巻もまあそのうちありそうな雰囲気。