Ritual - Ritual

リチュアル

リチュアル

スウェーデンのトラッドプログレハードロックバンド、リチュアルのファーストアルバム。95年作。

このバンドは2000年代の復活kaipaで男女ツインリードヴォーカルの片方を担当していたPatrik Lundstromがギターとヴォーカルを務めているというつながりで知った。Progarchivesで試聴できるWingspreadがなかなか良かったので探していたら日本盤の中古をちょうど良く見つけた(ちなみに、日本盤はベル・アンティークから出ているのだけれど、いつもの輸入盤に帯と解説を付けただけのものではなく、きちんと日本で生産したもので、伊藤政則の解説付きのうえ、プログレメタルの新鋭などと書かれている。どう聞いてもメタルではない)。

音楽性はハードロックといえばそうなのだろうが、様々な要素が混ぜ合わされていて、一言で言うのは難しい。変な曲展開をしたりアナログキーボードの音色とかプログレ色もあるし、アコースティックでトラッドな感じがする素朴な歌もあり、そういうのをごたまぜにしたユーモラスでエキセントリックなアプローチが特徴的だとはいえる。だから、トラッドプログレハードロック、ととりあえずは書いてみた。

また、このアルバムにはトーベ・ヤンソンの作品にインスパイアされた曲がいくつもあり、さらにはSeasong For Moominpappaなんていうそのものずばりま曲まである。3rdアルバムにもムーミンの名前が見え、たぶん各アルバムに一曲はトーベ・ヤンソンがらみの曲が入っているだろうというちょっと変わったロックバンドだ。普通プログレバンドだと指輪物語とかファンタジックな作品とか、宗教的なコンセプトだとかに傾倒する場合が多いのだけれど、リチュアルはムーミン。ハードロックなのにムーミンだ。

素朴で牧歌的なアコースティックな要素は強く、ベース担当のフレドリク・リンドクヴィストは、リコーダー、ホイッスルの他ブズーキ、マンドリンダルシマー - Wikipediaなどを駆使している。でも、ダルシマーの音ってどれなんだろう。

kaipaで見せたパトリックの歌は独特の個性があって面白いし、ハードな演奏とトラッドチックな演奏の取り合わせも面白く、かなりの巧者という印象。いや、非常に面白い。

聴いた当初は数曲のぞいてそんなに気に入ってなかったのだけれど、3rdアルバムがかなり良い感触だったので、ついでにと聞き返してみたらぐっと良く感じられた。こっちの方がアコースティックな要素が強くて良いかも知れない。

1.Wingspread
変な叫びから始まるハードな一曲。ポップな歌が気持ちよいなかなかのオープニング。

2.The Way Of Things
アコースティックな演奏をバックに歌われるトラッドな歌がすばらしい。さわやかで楽しげなメロディでこういう曲は大好きだ。この曲だけを何度も聴いている。最後にロックバンドのアンサンブルが入ってシンフォニックに盛り上げる、トリッキーな終わり方。この曲があるだけでも満足だ。

3.Typhoons Decide
アコースティックな演奏で始まるこの曲はトーベ・ヤンソンの短篇にヒントを得ているという一曲。バイオリンのゲスト参加もあり、トラッド的要素の強い曲だ。

4.A Little More Like Me
これもトーベ・ヤンソン由来のアコースティックな素朴な一曲。ユーモラスな楽器の音色(何の楽器だろうか)が印象的。リコーダーが良いな。

5.Solitary Man
プログレハード、という感じのする曲だ。ギターがもわもわした音を出していて、独特のアンサンブルだ。歌が一段落するとヘヴィなベースに導かれてキーボードソロへ。ここでも言われているとおり、イエスのスターシップ・トルーパーな展開。ギターの目立たないイエス

6.Life Has Just Begun
リコーダーやパーカッションその他の民族楽器的な音色が効果的なこれもトラッド気味な一曲。ちょっと中近東的な雰囲気もあるか。

7.Dependence Day
リコーダー、ホイッスルなどの音色を導入に叙情的な雰囲気を醸し、やはり中近東的な感触が感じられるトラッド風ロック。

8.Seasong For The Moominpappa
ムーミンパパ。ナレーションから曲がスタートする。リコーダーなども交えたアコースティックな導入部。そこへギターも激しいカッティングをするハードなアンサンブルが切り込む。無骨な変なコーラスや、途中で人々の喧噪が交えられて、トリッキーな展開。変なせりふが入ったかと思うと、アコースティックギターで野太い男の声によるシンプルな歌が挿入される。ここら辺はほぼ完全にトラッドなフォーク。楽しそうな歌。徐々にバンドサウンドが被さってきて、パトリックがワンフレーズ歌うと、カモメの声や波の音の聞こえてくる。プログレっちゃあプログレだが、ほんとエキセントリックなこのバンドの特徴を凝縮したような一曲。面白い。

9.You Can Never Tell
一曲目のようなハード路線の非常に格好良い疾走感ある一曲。それでいてリコーダー、マンドリンなどのアコースティック楽器も効果的に交えられ独特の感触。これも良い。このバンド、エレキギターが全然目立たない。ギター主導で普通のロックにアレンジすれば普通に受けるだろう曲の素材を、間奏でアコギやリコーダーが主導したり、いろんな生楽器をぶち込んで独特の雰囲気を作り上げている。そこらへんほんとハードロックとは言い切りがたいジャンルミクスチャーぶり。トラッドハードロック。

10.Big Black Secret
ピアノをイントロとして、ベースの太い音が鳴り響くハードなロックナンバー。シンフォニックな味付けがなされたミステリアスな曲。

11.Power Place
スタジオライブによる即興的な一曲。さざめくようなハープらしき音や木琴らしき音が即興の詩とともに奏でられる。

12.Vision Quest
日本盤ボーナストラック。ライブ録音なのだが、これのスタジオ版はないようだ。11曲目と雰囲気がかぶっているきらいがあるが、こちらは一応ちゃんと作曲された曲のようだ。ドラムとヴォーカルのシンプルな歌に鍵盤打楽器、アコースティックギターではない弦楽器、キーボードが絡む。間を生かした雰囲気作り。

変なバンド。変だがポップで格好いい。より強く興味を持ったのは下のサイトでレビューを読んだからで、この人が言うとおり、プログレファンには変わったポップを好む人が多いと思うので、そういう人にはお勧めのバンドだ。

個人的には、プログレこそが変わったポップスそのものだと思っているが。

http://homepage3.nifty.com/rttw/j/ritual.html