2022年に読んだ本と今年の仕事

例年通りベスト10的なものを。今年は自著刊行の作業もあって読んだ本が少なかった。 サルマン・ラシュディ『真夜中の子供たち』 M・ジョン・ハリスン『ヴィリコニウム パステル都市の物語』 シュテファン・ツヴァイク『過去への旅 チェス奇譚』 パーヴェル・…

「赤色少女」『折りたたみ北京』『時ありて』『とうもろこし倉の幽霊』『終わりなきタルコフスキー』『花樹王国』『川端康成異相短篇集』

仙田学「赤色少女」 ケン・リュウ編『折りたたみ北京』 イアン・マクドナルド『時ありて』 R・A・ラファティ『とうもろこし倉の幽霊』 忍澤勉『終わりなきタルコフスキー』 磯崎愛『花樹王国』 高原英理編『川端康成異相短篇集』 仙田学「赤色少女」 文學界(…

後藤明生『挾み撃ち』オリエンテーリング参加の記

はじめに 草加松原団地 蕨 上野 亀戸 御茶ノ水 おわりに はじめに www.kawariniyomuhito.com もう二週間以上前になる2022年8月6日土曜日に行なわれた、代わりに読む人主催の後藤明生『挾み撃ち』オリエンテーリング企画に参加した。挾み撃ち (講談社文芸文庫…

薄い本を読むパート3

薄い本を読むパート2 - Close To The Wall 一年おきにやってる気がするこれ、三回目。今回は厳密ではなく本文200ページ前後、とややゆるめに選んだ20冊。冊数も記事も分量が増えて行っている。 フリオ・ホセ・オルドバス『天使のいる廃墟』 ミルチャ・エリア…

図書新聞にミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』の書評が掲載

明日発売の図書新聞2020年2月5日号にミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』の書評が掲載されています。ルーマニアポストモダンの旗手ともいわれる作家の代表作ですけれど、これがなかなか手強くて、今までで一番書くのが難しかった書評な気がします。未だ…

初の短篇集とか創元日本SF叢書とか、最近読んでた日本SF

大森望編『ベストSF2020』 宮内悠介『超動く家にて』 宮内悠介『カブールの園』 円城塔『シャッフル航法』 柴田勝家『アメリカン・ブッダ』 柞刈湯葉『人間たちの話』 宮澤伊織『裏世界ピクニック5』 宮澤伊織『裏世界ピクニック6』 藤井太洋『公正的戦闘規…

最近読んだ本

倉数茂『忘れられたその場所で、』 佐久間文子『ツボちゃんの話 夫・坪内祐三』 G・K・チェスタトン『裏切りの塔』 違星北斗歌集『違星北斗歌集 アイヌと云ふ新しくよい概念を』 ロバート・シルヴァーバーグ『小惑星ハイジャック』 キジ・ジョンスン『猫の街…

図書新聞にサーシャ・フィリペンコ『理不尽ゲーム』の書評が掲載

今週末には入手できる図書新聞2021年11月17日号に、サーシャ・フィリペンコ『理不尽ゲーム』というベラルーシの作家による長篇の書評を書いています。昨今も民間機強制着陸で反体制ジャーナリストを逮捕したという現代ベラルーシの強権的社会を内側から描い…

2020年に読んだ本

今年読んだ本を10冊プラス10冊挙げてみる。 上田早夕里『深紅の碑文』早川書房 オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』白水社 木村友祐『イサの氾濫』未來社 笙野頼子『会いに行って 静流藤娘紀行』講談社 藤野可織『ピエタとトランジ〈完全版〉』講談社 テ…

秋から年末にかけて読んだ本

ツイッターで書きっぱなしにしていて記事にまとめていなかった本をまとめて。 大森望、日下三蔵編『年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』 プロジェクト:シャーロック (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)発売日: 2018/06/29メディア: 文庫2017年のSF傑…

薄い本を読むパート2

いつかもやったページ数薄めの本を集めて読んでみるシーズンふたたび。 薄い本を読む - Close To The Wall 前回のは一昨年。今回はあとがき解説などを含めない、本文200ページ以下の本、というレギュレーションでやってみた。マルクスはよくわかんなかったけ…

トーマス・ベルンハルト『地下 ある逃亡』

地下―ある逃亡作者:トーマス・ベルンハルト発売日: 2020/10/01メディア: 単行本オーストリアの作家ベルンハルトの自伝五部作の二作目。邦訳としては三作目になる。耐えがたいギムナジウムを抜けだし、「反対方向」にあるザルツブルクの汚点と呼ばれた貧困層…

石川博品『ボクは再生数、ボクは死』

ボクは再生数、ボクは死作者:石川 博品発売日: 2020/10/30メディア: 単行本石川博品二年ぶりの新作。商業では『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』、同人では『夜露死苦! 異世界音速騎士団"羅愚奈落"』以来となる。去年は商業も同人も新作がなく、今年…

パウル・ゴマ『ジュスタ』

ジュスタ (東欧の想像力)作者:ゴマ,パウル発売日: 2020/11/01メディア: 単行本松籟社〈東欧の想像力〉叢書の第18弾は現モルドバ共和国、ベッサラビア生まれのルーマニアの作家パウル・ゴマの、1985年に書かれた自伝的長篇。著者は今年、亡命していたパリでCO…

図書新聞に荻原魚雷『中年の本棚』の書評が掲載

中年の本棚作者:荻原魚雷発売日: 2020/09/29メディア: Kindle版既に入手できるはずの図書新聞2020年11月7日号に、荻原魚雷『中年の本棚』の書評「四〇代を生きるヒントを探し尋ねる記録」を寄せました。図書新聞の今日発売の11/7日号に、荻原魚雷『中年の本…

笙野頼子『水晶内制度』

水晶内制度作者:笙野頼子発売日: 2020/08/12メディア: 単行本新潮社版以来一七年ぶりにエトセトラブックスから再刊された著者の代表作といっていい長篇。30ページほどの著者自身による解説が当時の状況や作品の成立事情などを明らかにしており、論争的な性質…

原爆、引揚げ小説四冊

ちょうど手元にいくつかあるし、と八月の二週目ごろに原爆、引揚げについての小説を読んでいた。 青来有一『爆心』 爆心 (文春文庫)作者:青来 有一発売日: 2010/09/03メディア: 文庫長崎に住む人々を描く六篇の連作集。必ずしも原爆の被爆者ではない語り手を…

『傭兵剣士』『あがない』『息吹』『年刊日本SF傑作選』その他最近読んだ諸々

最近というか半年前からのでブログにまとめてなかったものなど。 ジェームズ・ウィルソン、岡和田晃『傭兵剣士』 傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)作者:ジェームズ・ウィルソン,岡和田 晃発売日: 2019/07/12メディア: 単行本(ソフトカバー)『トン…

百合ラノベ、百合SF、百合ミステリその他、百合小説約30冊を読んだ

ここしばらく百合小説を集中的に読んでいて、ツイッターでもその都度書いていた感想を適宜手を入れてひとまとめにした。アニメや漫画に比べてそういや百合小説ってそんなに読んでないなと思っていた時、百合ラノベ、百合SFが三月くらいにばっと出たのを機に…

笙野頼子『会いに行って 静流藤娘紀行』

会いに行って 静流藤娘紀行作者:笙野 頼子発売日: 2020/06/18メディア: 単行本 二度目にお会いしたとき、師匠はもうお骨になっていたと先程書きました。私が師匠について初めて書いたのは追悼文です。「会いに行った」という題名にしました。そう書けば文中…

ファトス・コンゴリ『敗残者』

敗残者 (東欧の想像力)作者:コンゴリ,ファトス発売日: 2020/04/30メディア: 単行本 敗残者の通販/ファトス・コンゴリ/井浦 伊知郎 - 小説:honto本の通販ストア 敗残者〈東欧の想像力17〉 | 松籟社 SHORAISHA松籟社〈東欧の想像力〉第17弾はアルバニア文学と…

藤枝静男『凶徒津田三蔵』、『或る年の冬 或る年の夏』

『凶徒津田三蔵』 凶徒津田三蔵 (1979年) (講談社文庫)作者:藤枝 静男メディア: 文庫明治二十四年、警察官がロシア皇太子を切りつけた大津事件の首謀者を描いた1961年の表題作と、その事件をめぐる畠山勇子、明治天皇、児島惟謙の行動をまとめた72年作の姉妹…

後藤明生『四十歳のオブローモフ【イラストレイテッド版】』

四十歳のオブローモフ【イラストレイテッド版】作者:後藤 明生発売日: 2020/04/21メディア: 単行本つかだま書房から再刊された後藤明生初の新聞連載小説で、旺文社文庫版には掲載されていたものの単行本にはなかった山野辺進の挿絵を大判で再録した一冊、こ…

古井由吉『雪の下の蟹・男たちの円居』と『雨の裾』

二月末、古井由吉逝去の報があった*1。大学生時分に授業でお世話になっていた寮美千子さんに連れて行ってもらって、風花の朗読会に行ったことがあり、そこで寮さんの紹介で本にサインをもらったことがある。何か話したかも知れない。何も覚えてない。そして…

木村友祐『イサの氾濫』『幸福な水夫』『聖地Cs』

ため込んでいた木村作品をまとめて読む。 『イサの氾濫』 イサの氾濫作者:木村 友祐発売日: 2016/03/07メディア: 単行本表題作は、東京で転職を繰り返してた男が震災を機に地元東北で荒くれ者として知られていた叔父イサについて調べながら、東京からもこぼ…

上田早夕里『深紅の碑文』『夢みる葦笛』

『深紅の碑文』 深紅の碑文 (上) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)作者:上田 早夕里発売日: 2013/12/19メディア: 単行本『華竜の宮』の姉妹篇。人類に迫る、プルームの冬と呼ばれる地球凍結の危機を目前にしたなかで、救援団体、反抗する海上民、ロケット…

図書新聞にトカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』の書評が掲載

プラヴィエクとそのほかの時代 (東欧の想像力)作者:トカルチュク,オルガ発売日: 2019/12/01メディア: 単行本今日あたり発売の図書新聞2020年3月7日号にオルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』の書評「繰り返されないすべてのものたちの時間」…

第40回日本SF大賞候補作をいくつか読む

今年の候補作は以下。 第40回日本SF大賞・最終候補作が決定しました! - SFWJ:日本SF大賞《天冥の標》全10巻 小川一水(早川書房) 『なめらかな世界と、その敵』 伴名練(早川書房) 《年刊日本SF傑作選》全12巻 大森望・日下三蔵編(東京創元社) 『…

オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』とその目次

昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)作者:オルガ トカルチュク出版社/メーカー: 白水社発売日: 2010/10/19メディア: 単行本『プラヴィエクとそのほかの時代』の次に書かれたトカルチュク四作目の長篇小説。ポーランドの国境近くに住み始めた「わたし」や人々…

『白い人・黄色い人』『82年生まれ、キム・ジヨン』『月と太陽の盤』『ヤゴの分際』『物語ポーランドの歴史』『方形の円』

白い人・黄色い人 (講談社文芸文庫)作者:遠藤 周作出版社/メーカー: 講談社発売日: 1996/04/10メディア: 文庫遠藤周作『白い人・黄色い人』文芸文庫版。「白い人」、犬を折檻した女中に魅惑され、ナチ占領後のリヨンでゲシュタポに協力して神学生の友人を裏…