世界史、東欧史

東欧文学をいくつか読みながら、自分の世界史知識のなさに危機感を覚えた。何しろ、高校世界史レベルの常識すら覚束ない。東欧文学を読むどころか、海外文学その他なんにしろ、歴史という土台がないと何事もはじまらんなと思い立ち、世界史をある程度はは知っておきたいなといろいろ読んでみることにした。

とはいってもなにぶん中学生としてもどうか、という水準なので、まずは初心者向けの読みやすいものから入って、世界史をある程度フォローしてから、そもそもの東欧関係の地域史、各国史へ進んでいこうと考えた。

というわけで、そういう世界史素人がどういう感じで読んでみたのかを、ざっとメモとして書いておく。ちなみに以下で紹介した本にはユーゴ史専攻のMukkeさんに教えてもらったものも多い。
http://d.hatena.ne.jp/Mukke/20100828/1283001905
かましく尋ねた私に親切に答えてくれたMukkeさんありがとう。

通史

まず手始めに、以下のサイト。
世界史講義録
高校世界史を講義調で連載しているサイトで、いろいろ逸話も混ぜつつ楽しく読める。まずここを通読した。とはいっても、私が読んだ時は、ちょうど第一次世界大戦あたりまでしか更新されていなかった。それと、やはりわかりやすく面白く、というところを重視しているので、単純化というか俗説っぽくなってる気がする。気になったところをWikipedia等で調べてみると、ずいぶん違うなと感じるところがある。

しかし、手軽で読みやすく、ここから興味を持って手を広げるにはかなり良いと思う。

世界の歴史〈1〉古代文明の発見 (中公文庫 H 3)

世界の歴史〈1〉古代文明の発見 (中公文庫 H 3)

次は中公の旧版「世界の歴史」全16巻。古くはあるものの、非常に定評のあるシリーズ。分厚い文庫が十数巻とボリュームがあるけれど、物語的な魅力もあるので読みやすく面白い。全集ものでは巻数も少なめで、世界史の流れを把握するには良いだろうと思う。しかし、基本的には西洋史東洋史の折衷として構成されていて、イスラムは西域とセットで一巻になっているなど、今から見てかなり不十分だろう。

古いことは否めないので、適宜新しい研究を参照する必要がある。それなら最初から中公新版を読めばとも思ったけれど、値が張るのと巻ごとにバラツキがあるらしいのと、面白さの点で見劣りするという評判なので、まずは旧版を読んで、適宜新版の巻を選んで読んでおこうと思っている。中公旧版は探せばかなりの安価でそろえられるのも魅力。また発行時期の問題でヴェトナム戦争あたりからの現代史が手薄。

文庫版全集としては河出文庫の全24巻のものもある。こっちのシリーズは読んでいないので感想はない。巻数が増えた分、各地域への目配りがされるようになっている。それと、歴史全集としては70年代後半講談社が出したものもある。こちらは巻構成がかなり面白い。ペルシア史で一巻というのは他で見たことがないし、東南アジア、ラテンアメリカで二冊ずつ、というのも他にないんじゃないだろうか。山口昌男のアフリカ史なんてのもある。ビザンツ・東欧一冊当てたのはこれが初めてだろうか(一般向け歴史全集として)。いくつか講談社学術文庫で文庫化されているものもあり、中央アジアとロシア史の巻は読んだ。

文明の十字路=中央アジアの歴史 (講談社学術文庫)

文明の十字路=中央アジアの歴史 (講談社学術文庫)

ロシアとソ連邦 (講談社学術文庫)

ロシアとソ連邦 (講談社学術文庫)

中公に比べればキャッチーな魅力に欠けるところはあるけれど、読みやすい概説として悪くない。他に、ギリシャ・ローマの巻のギリシャ部、清、中世ヨーロッパが文庫で出ている。

中公旧版で手薄な近現代については、池上彰の現代史シリーズが実はいいんではないかと思う。

そうだったのか!現代史 (集英社文庫)

そうだったのか!現代史 (集英社文庫)

集英社文庫から「現代史」Part1、2と「日本現代史」、「中国」、「アメリカ」の全五巻が出ている。これもわかりやすく、各記事にある程度の分量を割いているので、そこそこ詳しい。そして、何がどう問題になっているのかを非常に基礎的な部分から解説しているので、そもそもどういうことなのか、ということがわからないレベルから読んでも大丈夫だという利点がある。

わかりやすいとはいえこれでわかった気になるのもよくはないだろうと思うけれど、基礎から常識を学べるという点で重宝する。ただ、同時にこれは何が常識とされているのか、を知るためという視点で読むのが良いと思う。詳しくなくてもところどころ怪しいんじゃないか、と思えるところはあるし、この事件は聖書に予言されていた、という話をさほど批判的にではなくコラムで書いたり、相対性理論ノーベル賞を受賞していないのは、選考委員が「理解できなかったからだと言われています」と書いていたのにはアホかと思った。

アメリカ」の巻は構成がうまいのがよかった。中国の巻はやっぱり「中立」の弊害が出ていて違和感が強い。

東欧史

で、ようやく東欧史になるんだけれど、以上の本を読む前に、新書で東欧について書かれたものはいくつか読んでいた。

ドナウ河紀行―東欧・中欧の歴史と文化 (岩波新書)

ドナウ河紀行―東欧・中欧の歴史と文化 (岩波新書)

激動の東欧史―戦後政権崩壊の背景 (中公新書)

激動の東欧史―戦後政権崩壊の背景 (中公新書)

東欧 再生への模索 (岩波新書)

東欧 再生への模索 (岩波新書)

それぞれ、歴史と文化、戦後から1989までの政治史、経済、と特色ある観点から東欧を扱っていて面白い。

ややハードルがあがるけれど定番の山川の世界各国史は「東欧」という観点で見ると該当地域が新版では三つの巻に分かれてしまっている。まあ、「東欧」概念がそもそも政治的なので、ソ連社会主義体制の終焉に伴って、「東欧」が解体するのは当然だけれど、私はその「東欧」として知りたいというアナクロな人間な訳で、まずは旧版「世界各国史」の「東欧史(新版)」(ややこしい)を読んでみることにした。なかなか教科書的で読んでいて楽しいものではないけれど、面白くはある。

東欧史 (世界各国史 13)

東欧史 (世界各国史 13)

バルカン史 (世界各国史)

バルカン史 (世界各国史)

新版はとりあえず「バルカン史」だけは読んだ。これはギリシャモルドヴァもメインではないものの扱われていて、ギリシャと他のバルカン諸国の対照的な戦後史が印象的だ。

バルカン史の入門的な本としては上でも一冊紹介した加藤雅彦の本がある。

バルカン―ユーゴ悲劇の深層

バルカン―ユーゴ悲劇の深層

確かにわかりやすく読みやすいのだけれど、「バルカン化」というネガティブイメージを前提にしている感があり、バルカンの民族抗争を宿命論的に述べているところはとても気になった。わかりやすいがゆえにこの認識は問題だろうと思う。そこら辺は山川の「バルカン史」の冷静な叙述がやはりいい。

山川の世界各国史はいろんな地域をカバーしていて、一般には手薄な国、地域を知るにはいいのだけれど、読んで楽しいというよりは教科書をより詳しくしたような記述だ。その点、世界各国史の簡略版という感じのある「地域からの世界史」はわりと穴場なんではなかろうか。これ、元は週刊朝日分冊百科「世界の歴史」らしいのだけれど、見開き左側に必ず図か写真が載っていて、一冊も薄いので、ある地域をざっと囓ってみるには便利でいい。巻末の参考文献では入門書、一般書、研究書をABCで区分けされているのも初心者、入門者をきちんと考慮していて秀逸。やはり図が多いのはこういうのでは大事だと思うのでこのシリーズの編集方針は支持。執筆者もそれぞれ第一人者と思しき人が顔を連ねていて、かなり「世界各国史」とかぶってもいる。

東ヨーロッパ (地域からの世界史)

東ヨーロッパ (地域からの世界史)

地中海 (地域からの世界史)

地中海 (地域からの世界史)

このなかでは東欧の巻、地中海の巻を読んだ。

入門書、新書などだと重宝するのが、中公の「物語 ○○の歴史」シリーズ(東欧系はほとんどないけど)や、明石書店の「知るための○○章」シリーズ、新書、文庫の概説書等だ。チェコ史については以前の記事があるのでそちらを参照。
チェコ、スロヴァキア、マサリク - Close to the Wall

バルカンを知るための65章 エリア・スタディーズ

バルカンを知るための65章 エリア・スタディーズ

こちらはバルカン全体について述べているのでやや踏み込みが物足りないけれど、入門にはいい。東欧諸国では他にルーマニアハンガリーが出ている。

アルバニアについては以前も記事にした「アルバニアインターナショナル」が面白い。
井浦伊知郎 - アルバニア・インターナショナル - Close to the Wall
あと、こちらの小著もある。

アルバニア現代史 (変革の現代史シリーズ)

アルバニア現代史 (変革の現代史シリーズ)

現代史を追っていて参考になるし、巻末にはコソヴォの現代史と、著者自身がアルバニア留学した体験記がありこれがまた面白い。

ハンガリーについては文庫クセジュに単著がある。

ハンガリー (文庫クセジュ)

ハンガリー (文庫クセジュ)

薄いのと、記述が淡泊すぎてちょっと印象に残らないところがある。クセジュには他にもルーマニアとかクロアチアスロヴェニアがあるけれど未読。

ユーゴスラヴィア史は、岩波新書に定番がある他は入門的なものは類書が少ないけれど、弘文堂の「もっと知りたい」シリーズに、ユーゴスラヴィアだけを扱った本がある。東欧では他にポーランドの巻もある。ポーランドハンガリールーマニア、バルカン、チェコなら「知るための」シリーズにあるけれど、ユーゴスラヴィア単独の本というのは少ないので貴重。

もっと知りたいユーゴスラヴィア

もっと知りたいユーゴスラヴィア

「知るための」シリーズに近い印象だけれど、こちらは12章構成で章ごとに一人ずつ執筆していて、テーマごとの分量と内容の詳しさはこちらに軍配が上がる。民話を論じた章はあったけれど、現代文学を論じた章はなかったのが残念。クルレジャ(訳書はないようだ)、アンドリッチに触れた部分はあったけれどごく一部で、ユーゴ文学をもうちょっと広くカバーした文章はないものか。

その他の各国史についてはまだまだフォローし切れていない。

その他周辺

東欧に関しては、ビザンツ帝国ハプスブルク帝国オスマン帝国が重要なわけで、そこらへんは以下の本が参考になる。

ハプスブルク家 (講談社現代新書)

ハプスブルク家 (講談社現代新書)

神聖ローマ帝国 (講談社現代新書)

神聖ローマ帝国 (講談社現代新書)

オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)

オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)

オスマン帝国の解体―文化世界と国民国家 (ちくま新書)

オスマン帝国の解体―文化世界と国民国家 (ちくま新書)

イスラームとは何か〜その宗教・社会・文化 (講談社現代新書)

イスラームとは何か〜その宗教・社会・文化 (講談社現代新書)

ハプスブルク帝国を旅する (講談社現代新書)

ハプスブルク帝国を旅する (講談社現代新書)

ハプスブルク家は定番だけれど、思い入れ過ぎるところがあり、そこは菊池著が冷静な叙述になっているので併読すると見方の違いが如実で面白い。オスマン帝国はこれも定番だけれど、歴史としては物足りない。「解体」の方はあまりメジャーではないけれど、国民国家論や文明圏はラテン、キリル、アラビア、漢字等の文字圏として把握するのがいいという主張は面白い。紀行本は、第一部の鉄道の発展の歴史がとても面白く、各地の記述も軽いものから民族抗争の歴史等の重いものまで触れられている。これを読むとユーゴ北部のスロヴェニアが、ハプスブルク帝国から見るとドイツ語が通じる旅行適地として見られていて、経済的な優位性や文化によりヨーロッパに近いあたりの事情がよくわかる。

ビザンツ関係はまだ手を出していないけれど、中公新版にビザンツ・スラヴの巻があるのでそれを読むつもり。

20世紀だとナチスドイツ、ソ連が重要だけれど、ロシアの歴史で手頃な本ってあまり見つけられなかった。現代ロシアについてなら結構あるけれど。ナチスドイツ、特にホロコーストについてはやはりこれが定番だろう。

ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)

ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)

1989年の東欧革命については最近大部の本が出たけれど、新書としてはふたつある。記述が整理されているのは革命後三年経ってから出た岩波の方だけれど、ワルシャワ条約機構諸国だけを扱い、ユーゴが入っていない。講談社の方は90年に出たもの。

東欧革命―権力の内側で何が起きたか (岩波新書)

東欧革命―権力の内側で何が起きたか (岩波新書)

’89・東欧改革―何がどう変わったか (講談社現代新書)

’89・東欧改革―何がどう変わったか (講談社現代新書)

あと、世界史リブレットで参考になるのが以下。

バルカンの民族主義 (世界史リブレット)

バルカンの民族主義 (世界史リブレット)

オスマン帝国の時代 (世界史リブレット)

オスマン帝国の時代 (世界史リブレット)

あとは、彩流社の「叢書東欧」はまだ一冊も読んでいないけど、気になるものが多い。

とまあ、いろいろあるけれど、まだ読んでいない本がいろいろ溜まっているので、そのうち記事にしていくかと思う。あるいはこの記事に書き加えていくか。

ところで、歴史関係の入門書の情報を探していて見つけたこちらのブログは大いに参考にさせてもらっているのだけれど、頻繁に更新していたブログなのに震災の日以降更新が途絶えてしまっている。
万年初心者のための世界史ブックガイド
被災してしまったのか、あるいは亡くなってしまったのか。心配だ。以降更新されることがあるのかどうか。他にもこうした震災以降更新されないブログはいくつもあるんだろう。