2020年見ていたアニメ

今年見ていたアニメのなかで各クール10数作程度をピックアップして、ツイッターにその都度書いていたことを元にしたりしなかったりしながら記憶などに基づいてまとめたもの。ネタバレを気にせず最終話の感想も書いてるのもあれば、ある程度未見に配慮しているものもあって、気分次第に書いている。項目を立てて書いた本数は50本ちょっと。(2021.01.18 A3!、おちこぼれフルーツタルト、禍つヴァールハイト、池袋ウエストゲートパークの項を加筆)

2020年アニメ10選

昨年同様最初にベストテンを挙げておく。放送時期順。

SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!
恋する小惑星
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
プリンセスコネクト!Re:Dive
ミュークルドリーミー
Lapis Re:LiGHTs
放課後ていぼう日誌
アサルトリリィ BOUQUET
ご注文はうさぎですか? BLOOM
ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

美少女アニメ揃いで、選者の趣味が良く出ていますね。今年の一作選ぶならここはすんなりましゅまいれっしゅになるかなと思ったら夏に毎日のように見返していたラピスリライツがあったことを感想書きながら思った。

冬(1-3月)

SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!
音楽アプリゲーム発のアニメシリーズ第三作(ショートアニメを入れないなら)、前までのプラズマジカからメンバーを一新して始められた新作。前までの池添隆博監督、待田堂子構成、ボンズ制作のスタッフが、孫承希監督、田沢大典構成、キネマシトラス制作へと変わった。前作キャラクターも登場するけれども、演奏シーンになると二頭身のミューモンと呼ばれる体型になるってことだけ覚えていればこれから見ても大丈夫だと思う。一言でいえば、アンダーノースザワなる下北沢的な音楽の街を舞台に、故郷から上京した少女たちが出会い、それぞれの個性を認め合いながらバンドを組んでステージで演奏する、青春バンドアニメというところか。百合。冬アニメで一番良かったと思うし、2020年のアニソンで一番よく聴いていたのがこのアニメの楽曲だった。主人公らのバンド以外にも複数バンドが出てきて、落ちこぼれ男子たちで組まれたDOKONJOFINGERの曲、チャリで来たこと「移動手段はバイクです」はとりわけカッコイイ。アイドルもの、音楽もののアニメはいくつかあったけれど、楽曲面で一番良かったのはこれ。EDクレジットなどで書かれてるように、劇中でどのキャラが作曲、作詞したのかが明示されていて、その意味合いもなかなかインパクトがある。
 物語は、オーディションを受けるためにきつね族のほわんという少女が雪国の田舎から電車に乗って上京するところから始まるんだけど、家族に見送られて発車したところでまっしろスタートラインという曲がかかる、その時点でとても良かった。このほわんと過去の経験からバンド活動に鬱屈を抱えている素直になれない縞々猫族のマシマヒメコ、狼娘族のルフユ、デビルミント鬼龍族のデルミンとが出会い、バンドを組むことになる。基本耳やら尻尾やらツノやらついてるケモノキャラで、耳や尻尾がピコピコ動くのもポイントで、EDのしっぽの動きを見よ。ヒメコとほわんの関係を中心にしつつ、他二人もまたいろいろな事情がありつつ、特に印象的なのは六話。他人が怖い寂しがりがそれ故に嫌われようと相手を遠ざける面倒くささを絵に描いたようなヒメコの壁を崩すにはそれ以上の圧で相手を肯定しつづけていくほわんの度量があり、過去の事情をいっさい回想しないのも必要なのは今って感じで良かった。この回、下北沢に海はねえ!って思ったけど、平然と下北徒歩圏内に海を置く、これがフィクションだといわんばかりの豪腕には圧倒される。かのけいおんも京都から京都へ修学旅行に行ったという故事を思い出させる。10話のメンバーで実家帰省回も、一話でほわんが見た同じ窓から同じオーロラを見て、そしてあのプラットホームからあの時のように家族村人に見送られて、もう一度、今度はみんなで再出発する、良すぎるね。村に帰ってくると木琴アレンジのまっしろスタートラインがかかってるのがとても良い。出発のための帰還だから。人は反復に弱い。ヒメコのトラウマは人格を無視した才能のみへの期待と失望だとすると、ほわんはヒメコ自身にも見えてないヒメコの変わらないものを見ることができ、それは村人たちの何をするのかは知らなくてもほわんを応援する絶対の信頼にも培われていて、その暖かさに応えてヒメコも奮起できる。最終回は、これから演奏って言う時に、バンドの決め台詞言って拳ぶつけあってるとき誰か笑っちゃってるのがめちゃくちゃ良かった。恥ずかしくなっちゃったのか楽しくなっちゃったのか、演出なのかアドリブなのかもわからないけど、今・私たち・少しの照れ、ここの感触が素晴らしかった。「あの光に向かってください」も名台詞だ。しかし、ほわんが人気バンドの付き人やる回で、その人気バンドのごちそうタイムってバンドがファンを食っちゃうやつが公然とイベント化してるのマジでロックしててビビった。ほわんの声はカラフルパストラーレでもメインを演じた遠野ひかる、癖になる気の抜け方してて、デルミン役和多田美咲も特徴ある声しててすぐわかるし、ルフユ役山根綺はテンションの振り幅が広くてツッコミ役という感じで、ヒメコ以外みんな声に濁点ついてる感じなのコメディに強くていい。マシマヒメコ役の夏吉ゆうこは、この後も面倒くさい系キャラをたくさん演じてて今年の新人として目立った活躍をしている一人だろう。キャラ、声、話、絵、曲、どれも良かった。ほわんのスマホの着信音がムックリの音っぽくて、十年ぶりくらいに持ってるムックリを引っ張り出してビヨンビヨンやってたらヒモがちぎれた。
 余談、「移動手段はバイクです」、曲名がチャリで来た、の言い換えだとすれば他の歌詞もそういうギミックがあるんだろうか。「具に香る本能を刺激するpackage」、これ唐揚げ弁当のことですよね? 「移動手段はバイクで、行こうぜ未練の回収へ、地雷や黒いまま埋められなかった不燃性ごみ」、これ自転車で黒歴史の入った燃えないゴミを回収しに行ってます? 謎はつきない。

●恋する小惑星
きらら系天文・地学漫画原作で、子供の時にみらという小惑星はあるのに、あおという小惑星はないね、という話から小惑星を見つけてあおという名前を付けようと約束した二人が高校生になって再会し、その夢を実現しようと学びながら、周囲の天文、地球科学好きの部員たちと日々を過ごしていく、監督構成制作ともに私に天使が舞い降りたスタッフによるアニメ。劇中で天文部と地質研が合併してひとつの部になっているという設定がことのほか意味を持っていて、宇宙を夢みることと、地面に目を下ろして地質、地球を見つめることが星という点で繋がるというのもそうだけれど、夢がある人、ない人、気づいた人、過去にあった人、とさまざまな現在を描くことにも繋がってくる。OPも絵が天地に分かれた演出の後で上にも下にも未来があると歌われるの、地球科学アニメのOPとして良すぎた。そしてかぐや様の千花EDを担当した中山直哉コンテEDもまた非常にエモーショナルな出来で、下から伸びる手が上の手との握手から星空へパンしていく、あおという地上の名前を二人で空に送り出す話らしい。星空へのロマンとともに、子供の時は相手を男の子だと思っていたみらとあおの強い繋がりをめぐる百合アニメでもある。空と地というものを結びつけるテーマは二話のサブタイ「河原の天の川」というところにも現われている。今作も中盤くらいまでは夢のハードルの高さと日常的な軽さの相性がちょっと悪いなという感触もあったんだけど、みらあおの同居あたりからぐっと本気になった感じがある。引っ越し、試験失敗などの別離展開を無理矢理超えてくるのを幾度も仕込んでて、意地でも食らいつくのが面白いし、この遠いところだと思えたものや困難への挑戦が、分割と結合の演出として機能している。地質標本館、JAXA、地学オリンピック、沖縄での小惑星発見イベントなどなど、いろいろな施設イベントを活用していく学習漫画的な側面もあって、成果がなくても報告は大事で情報の積み上げこそが前に進む土台となることなども描いている科学、学問を感じられるアニメでもあった。

●痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。
友人に誘われてあるVRゲームを素人がプレイしてみたら、防御に極振りしたことや色んな偶然からチートじみたスキルなどもゲットしてトントン拍子に最強クラスになってしまう女性主人公なろう系原作アニメ。大沼心、湊未來監督のシルバーリンク制作。防御力が異様に強くなって毒攻撃スキルもゲットして、無邪気に邪悪で人の心がないような戦術も笑顔で展開していくヤバイ主人公メイプルと、メイプルの言うことならなんでも聞く忠犬のようなサリーと、彼女たちの元に集ったメンバーでギルドを組んで、他のギルドと大規模な戦闘イベントをこなしていくことになるストーリー。そんなことで強くなるのかよ、とゲームとしてはすごい穴のある設計にしかみえないしどうなんだろうと思うところはあるけれど、特に序盤のメイプルとサリーの元から親しい友人同士がゲーム世界で二人っきりのデートをしてるみたいな感触は不思議と良くて、結構な百合アニメでもあると思った。CMではメイプルが「サリーじゃなくて犬だったかー」という凄まじい一言をぶっ放すのが世人に衝撃を与えたとか与えなかったとか……。主人公本条楓の声優が本渡楓だという面白ポイント。
 二話がご都合のんびり天然最強さんと仲良し手練れ友人とのVRゲーエンジョイ日記かと思ったら、三話ではサリーがいつでもメイプルを守れるスキルを習得するという話から、お化け屋敷の後は夕陽の浜辺で戯れて、夜空の綺麗な場所でディナーを、っていやこれ全部デートでしょ、一緒にいるのが当たり前の二人が延々平然といちゃついてるという百合アニメでびっくりした。仲の良さや信頼、距離の近さがフラットに描かれてる。メイプルがいない間に購入資金を貯めて家選びもギルドメンバー選びも全部メイプルに任せて自然にリーダーへ押し上げているサリーのメイプル愛の強さ。また、毎回佐々木李子の良い感じの挿入歌Good Nightが流れて作業パートをさくさく見せつつ、終盤にはキレのあるアクション作画でボスと戦うというパターンを組んでいるのもなかなか面白い。防振りのアクション、同じシルバーリンクの賢者の孫の動かし型のセンスをもっと枚数増やした感じかなと思ってたら、そもそも賢者のメインアニメーターと防振りのアクションアニメーターが同じ人たちだった。伊藤浩二、米田紘、この人たちはシルバーリンクでちょこちょこ名前を見る。そして二期が決定した。

●マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝
まどマギのアプリゲームを原作としたアニメで、主人公環いろはが魔法少女になったきっかけのはずの病気の妹が消えているという謎とともに、神浜市の魔法少女たちがさまざまな謎を追っていく。まどマギで異空間を演出した劇団イヌカレー(泥犬)が総監督とシリーズ構成を担当し、シャフトが引き続き制作となっている。まどマギに関わっていた動画工房谷口淳一郎がキャラデザ。魔法少女になるための願いとそれが歪曲して実現される不穏な世界で、少女たちの思春期的な感情のこじれに加え、怪異怪談要素が大きく増している。百合だね。挿入歌がJ・A・シーザーで演劇実験室万有引力が出てくるのには驚いた。
 頑ななやちよと献身的ないろはの、中学生に救われる大学生というなかなかな関係を軸にしつつ、みかづき荘に仲間たちが次第に集まってくるのはRPGらしいところ。特に良かったのは序盤レナとかえでの話と、サナの回。関係のこじれから絶交階段にかえでの名前を書いてしまったレナの話では、三話の天邪鬼で自縄自縛で自分が大嫌いなレナをそのままで肯定する「友達」が強い。自己否定のモノローグから告白と肯定のダイアローグへの解放感。嫌われ者の振るまいが自己否定の弱さから来ていることを告白する、「友達にしてごめんね」の顔と声が良すぎた。色んな姿を取りつつもそれが全部自己否定だという鬱屈して自縄自縛のレナの合わせ鏡の世界(変身バンクのモチーフも)を打ち砕くかえでの声。映っているノートをよく読むと、レナは別人に変わる力が欲しいと願って変身能力を得たらしい。でも嫌いなレナ自身は何にも変わらない、というのが鏡像の自己否定の場面で、かえでと話した後の最後の一撃では鏡に全部レナ自身が映っているという形で自己肯定への転換を描いている。九話では、自殺したいと願った少女とそれを受けとめる捨てられたAIの二人だけの世界が描かれ、幻想的な死出の旅から帰還し、幸福な現実への一歩を踏み出す話になっていた。AIにアイという名をつけたこの話を受けて、10話では、さなを呼ぶアイから始まり、さながアイちゃんと呼び、いろはがさなちゃんと呼ぶ、アバンはほぼこれだけというのが印象的だった。まどマギだと魔女になったりしそうなところできっちり受けとめる誰かが現われて仲間になるプロセスを繰り返すところがいい。そうしてみかづき荘という場に仲間が増えていく。ひだまり荘ではない。
 ドラッグを思わせるような幸運水というアイテムとか、魔法少女もので百合と怪談をヤクザ的なショバ争いの枠組みで語られるのはなかなか面白いけど不思議で、ヤクザものといえばホモソーシャルの極みで同性間の強い感情のぶつかりあいだからかなとか、妹を探している=兄貴の仇とかそういうものかとも思ったけど、そういえばまどマギでほむらが武器かっぱらってきたのヤクザからだったから正統進化だった。2nd Season Coming Soonと予告されて既に一年近くが経っているけれども、それはいつなんでしょうか。

●ネコぱら
エロゲー?原作の猫擬人化美少女アニメで、人型のネコが人に飼われ一緒に生活している世界を舞台に、ケーキ屋店主嘉祥とその飼いネコたちとの日常を描くコメディ。山本靖貴監督、雑破業構成、FelixFilm制作。元がエロゲということで男性主人公がいて、ネコという人間的知性を持ちつつ人に飼われ、外出にも許可がいるという原作の性質にも由来する設定はかなかなかにえぐいところはあるけれど、基本的にはネコ同士の関係を描く形になってて嘉祥のかかわりもかなりまともな感じなのが面白い。作画の地味な細部の良さもあるし、特に七話なんかのねじの外れ方は良くて、童話昔話パロや小ネタを小気味よくぶっ放しまくって、ひたすらどうでもいい話をしててかなり楽しかった。テンポとキャラ性とネタがどうでもよい楽しさのためだけに駆使されていて感じが良い。なかなか表現が難しいけれども、これが萌えアニメだという力強いパワーにあふれているのと、ちょいちょい演出にセンスがあって良い。11話、アバンからショコラバニラの親バカぶりが描かれながらカカオの外泊で子供同士の仲を深めたかと思ったら、外の家で改めて知った二人への感謝をちよの絵と、二人がまさにカカオに手渡した口下手でも気持ちを伝えられる手紙、この二つに学んで返してきたのが完璧だった。最終話は海には来たけど普段通りの日々が普段通りに終わって最終回というのもなかなか味がある。最終回らしいところのない最終回で、ゆえに永遠に続いて欲しいと思わせる。ネコがいる生活ほど素晴らしいものはありませんからね。それはそう。飼ったことないけど。土田霞という未知の脚本家がいて、これは誰だ、誰かの変名ではという噂もあったけど、普通に新人さんなんでしょうか。土田霞はこの後夏に猛威を振るうことになる。

●ID: INVADED イド:インヴェイデッド
舞城王太郎脚本であおきえい監督、NAZ制作のオリジナルアニメ。舞城アニメといえば龍の歯医者にはまったく関心を惹かれなかった記憶があるけれど、これはずいぶん面白かった。殺人者をある装置に乗せ、殺人者の残留思念から作った仮装イドという仮想世界にダイブさせ、そこから情報を探って推理をしていく、というなかなか込み入った構造を持っている。酒井戸、穴井戸、聖井戸と名探偵のキャラクターも面白いし、彼らの関係も良かった。元警官の殺人犯で「名探偵」酒井戸役を津田健次郎がやっていて、これが非常に良いというのがある。大河元気とのラジオで演技について話していて、アフレコ時には映像できてるんだけど尺に合わないなと思ったら監督から全部無視していいですと言われて、出来てる映像全無視しましたと楽しそうに喋っていた。六話の行き場のない円環のモチーフのやるせない感触や、九話の杉田智和との対決もなかなか印象的。最終話、独特な設定について酒井戸が、死者が「名前と仕事を教えてくれる」そして「この世界の全てに意味があると。俺の生にも意味があり、彼女の死にも意味がある」と述べるモノローグが印象的。世界に意味を与える死者とその意味を読解する名探偵という精読者、この説自体は結構有名な話ではあるか。なお、ブレーキブロークンという漫画版がアニメの直接の続篇でなかなか面白かったけど、アニメ見てる人もあんまり読んでる感じがないのが惜しい。

とある科学の超電磁砲T
去年は一方通行の外伝がやってたけど、今年はとあるシリーズ外伝の七年ぶりの第三期。コロナの関係で二クールの放送が九月末にまでずれ込んだ。なんかやはり微妙に古さを感じるところはあるんだけど、やっぱりきちんと面白いなと思わされる。クローンドリーまわりの話や、佐天とフレンダ、ドッペルゲンガーと悲しい別れの百合エピソードが多くて、そういやこれは男性主人公ハーレムものラノベの外伝がやたら百合になるやつの代表格的な一作でもあったことを思い出した。後期ED曲の青嵐のあとで、という曲がまさにそういう別れを歌った曲で、PVも百合だった。

●群れなせ!シートン学園
博史池畠監督による擬人化動物ギャグ漫画原作アニメ。動物嫌いの主人公が、異なる種族間の争いが絶えない、「弱肉強食の精神を育むための神聖なる檻」シートン学園に入って、というギャグアニメ。動物擬人化といっても、メスは人型なのにオスは直立する動物のままなので、種差以上に性別で取り扱いが違いすぎるところはまあ美少女作品なんだなという前提はあるにしろ、テンポも画面の細かい動きも楽しいし動物豆知識を細かく盛り込みながら展開していく手際がなかなか良い。狼娘ランカの声優の木野日菜あそびあそばせでも活躍していた個性的な声でインパクトがあるし、ED曲の破壊力もなかなかのものがある。同期の異種族レビュアーズとハイエナ両性具有ネタ被るとか、そのハイエナ役津田美波が、モブレギュラーの津田健次郎と津田共演だと思ったら親子役だったのは笑ってしまった。

●宝石商リチャード氏の謎鑑定
ライト文芸ジャンルの宝石にまつわるミステリ小説原作アニメ。櫻井孝宏の金髪碧眼イギリス人宝石商という強すぎるキャラと、中田正義という正義を名に持つ青年とのBL風味もありつつ、多様性と正義にまつわる物語を展開する。宝石という美しいけれども同時に詐欺や盗難の歴史を持つ存在について、鑑定を通してその真実をたどり、さまざまな人に対する偏見や、性急な正義感の陥穽を描きながら、自己肯定感の低さゆえの正義感は同時に他人の軽視にもなりうるとして、自己もまた相手も肯定する理路を探っていく。生まれ変わったらあなたのようになりたい、という恋愛とはまた別の最上級の好意の表現、やっぱBLですね。

●虚構推理
後藤圭二監督でブレインズベース制作、戦国コレクションを思い出す。妖怪に知恵の神になることを求められ、片目片足を失った岩永琴子と、妖怪の肉を食べて不死になった桜川九郎のコンビが、多重推理ならぬ納得感のためにでっち上げられる「虚構推理」を駆使して事件を解決する。鬼頭明里のヒロイン琴子がなかなか良いキャラしてて悪くないんだけど、アニメで大部分を占めていた鋼人七瀬篇が長すぎた。元カノ今カノが織りなすラブコメ要素と琴子の顔のほうが推理より面白いのは良いのか悪いのか。しかし、事実かどうかというよりもそれが確からしいとより多くの人々に信じられているかどうかという話をしてるけど、つまり信憑性の話で、この作品が怪異を扱っているのは「憑」の字に拠り所と霊がつくの二通りの意味があることを意識しているからだとしたら上手いな。

●22/7
秋元康プロデュースのアイドルプロジェクトが数年前から走っていて、これはそのアニメ作品。盾の勇者の監督阿保孝雄、堀口悠紀子キャラデザ、 A-1 Pictures制作で、正直作品全体の出来についてはかなり否定的だ。しかし七話ゆえに無視することはできない。全体について言えば、このアニメの主軸になるのが壁の指令というものに従ってメンバーもプロジェクトも動かしていく、という絶対権力者秋元康を思わせてしまうような設定になっていて、そのうえで大人なんてとか、言わせてるのが「大人が仕組む掌の上の反抗」ポーズに過ぎる。佐藤麗華回の六話なんかは、父子家庭で家計の足しにと事務所に入った少女がアイドルの期待に応えるという同調圧力と経済的プレッシャーで望まぬ水着撮影をさせられる話になっちゃってる。壁の絶対的指示が最初にあるものだから、それぞれの自主的決断がすべて壁に都合の良い行動をさせられているだけ、という根本的欺瞞に行き着く構造があり、最終話も壁を壊すのは当然として壁の先が壁の用意したステージだったの、お前ふざけてんのって思った。仲間とファンがいれば、というけどアイドルには資本の下支えがいるということを示唆して終わる。破壊活動にためらいがない滝川みうは面白いしほぼ脱獄の絵は笑ったけど、アイドルで人々を動かせるか、という動員の実験だったというの現実に総合プロデューサーが政権に近いところにいると何もかもが邪悪だとしか言いようがなくなる。彼女たちの物語としては悪くないけど、システムに結局乗ってしまう無批判さで描かれると、なるほどそういう政治性かあとは思ってしまう。結局反逆をポーズとして飼い慣らすということなんだな。牙を抜かれた安全な反逆イメージの消費。秋元康コンテンツってのはそういうことなのかね。掌の上でまさに踊っている踊らされている、っていう。アイドルもアイドルで踊らされてばかりではなくてそれを踏み台にしてたりするけど。OPの語りや終盤で、ずっと大人がどうとか語らせてるけど子供がそんなに大人のことばかり考えてるなんていう自意識過剰をやめたほうがいいんじゃない?って思う。
 とはいえ、七話戸田ジュン回は今年トップレベルの一話だった。難病の友人との離別というベタな物語ではあるんだけれど、それを大胆に演出する絵作りは鮮烈だった。始まってすぐにわかる明暗、色、大きい余白等々の画面づくりは非常にインパクトがあり、二人で一緒に歌ったアイドルソングからアイドルになっていく流れが自然だったのと、快活な戸田ジュンのいまと過去の暗さとの対比も、話を重くしすぎずバランスが良い。半身を失って、幻の半身とともに生きる話なんですよ。「交換」というように今の戸田ジュンの半分は松永悠でできている。ジュンの相手をコピーする特技が、ここにいない相手を想像する思考法によるものだとすると、悠の影響とともにいまもなお生きているわけで。EDのワルツのモチーフも相手と入れかわる要素だ。また、挿入歌の「未来はそんな悪くないよ」と「ツキを呼ぶには笑顔を見せる」と「あなたとどこかで愛し合える予感」という話の根幹にかかわる詞を歌いながらイヤホン分け合って手を固く握りしめる百合の絵がメチャクチャ強かったというのもある。このコンテンツとしては22/7計算中という、演者がCGのガワを使って映るバラエティ番組があって、これはなかなか面白いし、滝川みうのキャラクターがアニメとは全然違う陰属性でとても面白い。

その他――
ダーウィンズゲームNexus制作、徳本善信監督のこみっくがーるずスタッフによる、デスゲーム系能力バトル漫画原作アニメ。B級的チープさを整った作画に乗せた感じだけど、わりと楽しめる作品だった。上田麗奈ヒロインとか花守ゆみり少女少年二役とかも良い。
ランウェイで笑って、身長足りなくてパリコレモデルになれない少女と経済的問題でデザイナーへの道を諦めていた少年の出会いから始まるマガジンの漫画原作アニメ。少女漫画的な題材を少年漫画で料理している感じがなかなか面白い。花守ゆみり主役だと思ったら花江夏樹のメイン二人の花コンビだ。
異種族レビュアーズ、異種族風俗嬢を男たちがレビューし点数付けする漫画原作アニメ。多様性という言葉で本作を評価する向きがあるけれど、性癖カタログのバラエティではあっても、宝石商リチャード氏にあったような意味での多様性はあまりないと思う。そもそも男たちで風俗嬢をジャッジするホモソーシャル感がなかなかアレだけど、実際にこの作品で見る者にジャッジされているのはレビュアーの彼らのほうで、それはクロスレビューという形式上の必然でもある。
りばあすブシロードのカードゲーム原作ショートアニメ、原作・キャラ原案・構成の西あすかって格ゲー百合漫画描いてた人だったと思う。なかなか面白くてずっと見てるけど、五話のLINEのやりとりをいっさい読み上げずにちょっとした息づかいとか吹き出すところだけ声入れてトークしてるのは良い描写だった。
ドラマ ゆるキャン△、実写版ながらアニメ版をなぞったような印象なんだけど、ドローンを使った撮影はなかなか面白く、その点が原作の魚眼レンズなどを駆使したレイアウトの再現をバッサリカットしたアニメに比べてアドバンテージになっているなと思った。もちろん、実地にキャンプ地を映せるという点も。大垣役の人の顔で持ってるところがある。

春(4-6月)

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
タイトル通りのなろう系異世界転生もので、乙女ゲーム世界に死後転生してしまった主人公が、ゲームでの破滅フラグを回避しようと奮闘するコメディアニメ。シルバーリンク制作女性主人公なろう系アニメとしては防振りに続く二期決定作品でもある。枠組みはリプレイものにも近いんだけど、その世界の常識を共有しないことで偏見がなく、自分の破滅を防ぐという利己的な動機で動いてるはずなのに持ち前の善性と能天気な前向きさで、周囲の人を救ってしまう掛け違えの喜劇という、とても楽しい話になっている。内田真礼の声がやたらとはまってる。乙女ゲームなので男性キャラもたくさん出てくるけど幼少期の主人公カタリナに救われて丸くなっているし、恋敵になるはずの女性キャラもカタリナとの絆を育てて、男女ハーレムものになっているのが珍しく、そしてとても良いところ。最初の数話の幼少期篇なんかは、メイン登場人物に女性声優しかいないし既に実質百合ハーレムだった。カタリナは恋愛よりも食べることだ第一だし、食べ過ぎで二度トイレ退席するうえに拾い食いする令嬢なのも笑ってしまう。破滅して追放されても大丈夫なように農作業を学んで行くわけだし、八話を見ると、カタリナの食欲がゲーム=魔法書の枠を破って自由を得て皆を助ける、というメタ構造が見てとれる。恋愛幻想=フィクションを食欲で調伏する。花より団子精神が周囲を救い、逆の意味でハーレムを形成して修羅場を招いているというコメディ。
 カタリナの前世を描いた七話では、そりゃ死ぬよなというドジぶりが描かれ、前世と今世のつながりを担う別のキャラの視点から、かけがえのない友人に死別された悲しさと、再会する願いが叶ったことを転生後の本人は覚えていないという切ない百合回だった。九話、転生百合の次は主従百合で、カタリナの放埒な自由さに直面することで道具になりきれない自分自身が露呈するというのは感動的だった。おはようからおやすみまで、生活のすべてを見守る愛が重い。破滅フラグを回避しようとすることや当人の自由さが、ゲームのフレームを壊したり周囲の「キャラ」的な役割性から「人間」を露呈させるという全体構造は今話のような脇筋でむしろ見やすい。11話は、前世との関係が再度描かれ、皆が願い帰りを待つ場所に帰るためのあっちゃんとの別れは、攻略対象としての「キャラ」を「人間」にしてきたカタリナが、この世界を「ゲーム」から「現実」へとかえるために必要な過程だろう。前世は前世として心残りを果たすことはできた二人の奇跡は泣ける。本当の別れは本当のカタリナへの生まれ変わりとなる。そして指先ひとつの小さな繋がりはソフィアを通じていまもカタリナとともにある。

●プリンセスコネクト!Re:Dive
スマホゲー原作アニメ、この素晴らしい世界に祝福を!の金﨑貴臣監督・構成で、サイゲームスのアニメ制作部門、CygamesPictures制作。記憶喪失になったばかりか精神年齢も幼子のようになってしまって目覚めたユウキという少年と、彼を保護する少女コッコロが、能天気な強キャラペコリーヌ、秘密を抱えたらしいキャルらと出会い、美食殿というギルドを組んで冒険する、という話で、このすば監督というところから期待していたものが出てきた感じで、序盤いろいろ違うけどだいぶこのすばだった気がした。労働とクエスト、馬小屋と野宿。福島潤稲田徹高橋李依金田朋子。このすばでは。ギャグ、コメディのキレがやはり突出していて、とにかく楽しいアニメだったしキャルにとにかくいろんな表情と格好をさせたいという熱意に満ちている。また、主人公たちは美食殿だし、サブタイが食べ物縛りで一話から食事が重要な場面になってて、食べることは生きること、一緒に食べると言うことは一緒に生きることという話なんですね。EDも、落ちこぼれが集まってとか、足を引っ張りあいながら君と歩いて行くっていう歌詞で、曲提供が同じ人だしやっぱりきれいなこのすば感がある。生活、食事、悩みを抱えたキャルをも仲間として認め、そして多数のおじさんキャラたちがランドソルという街の人間として関わり合い、最終話への伏線を固めていく。13話は、話は終わってないのにアニメはものすごく綺麗に終わった。城から忘れられた姫が街の人々に忘れられないペコリーヌになるのとともにコッコロ、キャルに抱き返されるまでのそれぞれの孤独が美食殿という新しい絆に救われるまで、そしてそれを支えるユウキ。作画も良すぎる。日常描写メインの構成をペコリーヌの失われた生活からきちんと意味づけてくる。ペコリーヌを愛するおっさんたちがアニメに必要だったわけだ。抱き留めることとコネクトというのを重ねてきたようなテーマソングによる特殊ED、コネクトという人との繋がり。食堂に帰ってくるし食事場面で終わるアニメだった。プリコネ、食は人を繋ぐという話なんですよね、私は毎食一人で食べますけど。

●ミュークルドリーミー
サンリオ原作のキッズ向け通年アニメだけど、桜井弘明監督、JCスタッフ制作とアニメまちカドまぞくとも似たスタッフで、まぞく同様狂騒的なテンポで押すかなり楽しいアニメになっている。中学一年生の日向ゆめという少女が入学式の前に空から落ちてきた喋る人形を拾って、夢のなかに入れる能力を得るのとともに、人の暗い感情を暴走させるブラックアビスを使うゆにたちの起こした騒動を夢のなかに入れる能力で解決していく物語で、テンポ感やセリフの密度にまちカドまぞくが浮かぶのはそうだけど画面内存在をとにかく動かすのはクロマティ高校を思い出す。ゆめが憧れる先輩との恋愛と、隣に住む幼馴染みの朝陽少年がいて、幼馴染みとの関係というのが先輩にもあって、二組の幼馴染みが人間側の主軸だろうか。お笑い好きのまいら、機械いじりが好きな天才ことこという三人に、ときわという快活な少女も加わって、というのが序盤のメインの人形持ちメンバー。
 六話がことこの家の教育資本の高さを描写しながら、ありえないことがありえるということを「学んだ」という勉強、学習のテーマに落とし込む回なのは上手かったし、テンポが良いという点では「トントン拍子?」「知らんか?トントン拍子」「まあいいや」このいっさい無駄なやりとりがあえて挾まれるのも面白い。ことこがラブレター見ながらつま先トントンさせてるのは何故かと思ったら、手紙を開くまでは上履き履いてたのに、ワンカット挾んだら既に靴を履いていて、外靴を下駄箱から出して履く、という動作を省略しつつ外靴履いてることに注意を促して外に出ることに違和感を与えない演出かなと思ったけど、その後の話数を見ると、ラブレターをもらうという恋愛に巻きこまれることへの苛立ちもあったと見るのがいいかな。そのほかでも、TMRHOT LIMITの衣装を着て現われる朝陽君とかの親世代へのネタも笑った。好き嫌いするなというのを善意の押しつけを超えた支配欲として描くかのようなプチトマトマンをやりすごして大人になれば食べられるかもねと優しく決着させる17話、てーきゅうみたいなテンポというか切り替えの速さでポンポン異常なものがでてきて台詞回しの絶妙なセンスもあいまってわかるけどわからない異様な視聴感に襲われる18話を経て、幼馴染みの朝陽少年がメインのメンバーに加わるのがなかなか面白い。魔法少女アニメの文脈ぽくもあるけど、そうではないので少年もメインに加入する。他にもいろいろあるけど、本作ではやはり28話、まいらの亡き母をめぐる家族の話が良かった。誕生日が母の命日という運命を背負ったまいらとその父の、命日の様子を描きながら悲しい場面をほとんど映さず、しかし夢のなかで家族一緒の姿を見せるという夢のテーマを活かした話になっていた。夢と時間が交錯するなかから母をまいらに出会わせるのと、誕生日には(私の)思い出のバウムクーヘンより、自分自身の誕生日を祝って欲しいというケーキが出てくる。まだ二年前の出来事で、悲しみから癒えたはずもないんだけれど、父も壁の向こうでだけ涙を流しててまいらも自分の部屋で眠りながら涙を落とす、という強さのなかの弱さもさらっと起きつつ、「夢ってええな、会いたい人にまた会えるもんな」で締められる。母と同じギャグを持ちネタにしながら、お笑いを目指すまいらの姿。最初にまいらが誕生日と命日のことを言ってなかったっけ、ととぼけるシーンがあるけど、まあ当然言ってないことを覚えてないわけがないよな。その後の牧場での話も、このエピソードを意識しつつ、まいらは何でも持っている、とうらやむ少女の悩みを描きながら、その人にはその人の積み上げてきたものがあるということを描く回で、母の死を意識させつつ劇中では言及されない語り口だった。

ガンダムビルドダイバーズRe:RISE
去年末に1stシーズンを今年四月から2ndシーズンをスタートさせたガンダムビルドシリーズ最新作。1stシーズンの衝撃的なクライマックスから続いて、堅実な物語を着実に進めていくという感じで、絵的にそんな突出したところは感じないんだけど、地味ながらもとても良い作品だったと思うし、ビルドシリーズとしてもウェブアニメだったからか、なぜか異様に見られていない様子なのが不思議な作品だった。全体に、バーチャルやごっこ・神話という偽物・フィクションがさまざまな過程と再起を経て本物になっていく物語で、ゲーム、遊びだと思っていたのがそうではなかったことに直面し、挫折、痛みを抱えた人たちが再起する、VRと現実の二層構造がある。ヒロトとヒナタが最後まで直接かかわらないんだけど、ゲームだと思っていたら繋がっていたように、まがい物だったビルドダイバーズが認められ、ヒロトとヒナタの別の場所での戦いをネット配信が隣り合わせにするっていうのを描いて、さまざまな別の場所からのコメントを動画に映し出す25話は綺麗な流れだ。そして全員合体。定番と言えば定番だけど、仲間との信頼にくわえ、隔てられたもの同士の関係、境界をずっと描いてきたからこその強度がある。最終回は「時を超えて私たちの命を見守ってくれる存在」への感謝を捧げる空渡しが、アルスの再会とイヴの再生としてのメイを繋げる。この再生がありつつ、宇宙に浮かぶイヴの願いを思わせるアーマーを映して終わるの、イヴの喪失から始まった物語を感じさせる。空にあるそれと一つ目の敵対の終わりで綺麗に閉じられた感じ。とにかくも、派手だけど大味単調で途中から興味が持てなくなっていく前作までに対し、地味ながら非常に丁寧なアニメだった。

かぐや様は告らせたい?〜天才たちの恋愛頭脳戦〜
ブコメ漫画原作アニメの二期、安定の出来で今期はリア充ヘイトの石上の物語を終盤のメインに据えてなかなかだった。話数としては三話、月と竹取物語の話しながら、言葉の裏を読んで何百年経ってもかぐや姫を諦めない、と強烈な作品性ごと絡めたメッセージをぶつけてくる回で、白銀の天文学者になりたい、というのも月にたどり着きたい、という含意だ。最終回にやるような話を三話で重ねて、新しい始まりを告げる、強い。七話、馬鹿みたいな話を圧倒的テンポで繰り出すギャグ回の冴えもありつつ11話、不器用な正義とみんなへの絶望からの回復、圧巻な回だった。あの石上が真のリア充は性格も良い、と知るまでにいたる物語、応援団が本当に人の背中を押す応援団だったのは良いな。石上の顔を隠す長い髪をかき分ける白銀と、前を向いた先に見える応援団の面々の顔、の顔の話。トレンディドラマ劇伴を万能楽曲として使い回すのここぞというタイミングで笑わせてくれる。最終回はかぐやのケータイ壊れた話から、失った自分だけの写真とスマホで共有されたそのみんなとのより多い写真、いい話だった。前半いい話すぎたので後半、もしやと思ったら予想以上にひどいものが来て、バカバカしい話からバカバカしい演出で出番なかったキャラ総出演させてジエンド、良いんじゃないですか。

白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE
スマホゲームを原作としたアニメで、 神保昌登監督による全話脚本、project No.9制作。タイトルで本篇の前日譚なのはわかるけれど、完全オリジナルではなく原作ゲームに存在するイベントが元になっているらしい。白と黒の均衡を保とうという白と、この世界を変えてみせる黒の王子、秩序の白と混沌の黒。この二つの地上と天上の勢力があり、双方の主役格の人物同士が交錯し、そして、という物語だけど、地味ながらも何か独特のセンスがあり、セリフ回りの個性やとりわけ七話は絶大なインパクトがあった。二つの勢力がとりあえずの共闘で敵を倒した後、交流会が開かれて、衣装を交換したり味付けの違う両国の料理を混ぜるとよりうまくなるというかたちで両国の交流が描かれる六話の次回予告が、山菜しか映らない映像とともに「山菜採り」というサブタイトルが出てくる次回予告が嘘でしょってくらい面白い。しばらく前まで魔物と戦争やってたノリのままのBGMで「山菜採り」って出してくる。この世界タラの芽とか蕗の薹があるのか、と三話で突っこんだ時はこんな本気の山菜回がぶち込まれてくるとは思わなかった。そして七話、素晴らしい山菜だった。前回に対し今回は採取調理喫食の全過程を通じて文化や生活をともに体験するという異文化理解の掘り下げとなってて、通商の話も出たり戦後の平和的交流の意味を描く。ここが一番平和な回だった。シーマとアデルの、民の違いではなく個人の違いだと他者の理解レベルがあがる場面の直前にシーマの名を呼んでるのがテーマと繋がってて、また「このくらいの違いなら問題ない」と言うのも個性の違いの話で、似た言葉をアイリスが繰り返す。三度やるのはギャグだけど二回言うのは重要だからだ。しかし不平等の固定という「均衡」への闇の怒りが噴出して、白と黒がまた分かたれ、上と下の貧富の格差が強調され、最終的には白と黒の隔絶が崩壊し、空の上の島と暗闇の地上が混じって陽が差す大地が現われる神話的結末を迎える。

八男って、それはないでしょう!
なろう系異世界転生小説原作アニメで、サラリーマンがある朝目覚めたら異世界の五歳児になっており、それが僻地の貧乏貴族の八男だったということから始まる話で、この貧乏貴族の成り上がり物語、とにかく何かしらおかしい要素があって、ある種のトンチキさという点では傑出したアニメだったと思う。三浦辰夫監督、シンエイ動画制作。成り上がりつつある主人公のまわりが側室希望者とか友達を部下にしたりといった封建的関係ばかりなのはややアレだな、と思うところはあって、この話を真面目に語るとそうとう厳しいものになるんじゃないか、という原作の難点や稚拙さをとにかく面白くしようとしているアニメなんじゃないかと思った。原作は知らないけど。いろいろ面白いけど特に九話は毎分なにかしら面白い絵面や演技がでてくる楽しさが最後まで続いてなにか確変起こしたみたいな回だった。息つく暇がない。とにかくものを食べるヴィルマという新しい婚約者が自分を養うに足る甲斐性を持っているかを観察していたという話から、カマトロカマトロカマトロカマトロの場面、あるいは小さいヴィルマが巨大なマグロを一匹持ち上げて部屋に入ってくる絵はめちゃくちゃ面白かった。八男九話、で画像検索すると出てくる。10話の鉄の塊がとつぜん出てくるのもかなりいい。最終話も、懸案の兄との確執が演出も演技も過剰さと茶番感で笑うしかない場面になっているのも面白かったけど、キメの場面でOPがかかる定番演出が、このアニメだとゆっくりとフェードインしてくるのはちょっと類を見なくて笑った。異世界で所帯じみた和食へのこだわりが独特のおかしみを出しているんだけど、知らない土地に味噌醤油工場を建て、転生前に食べようと思った豚バラ味噌炒めをみなで食べることができるというのが、この世界に馴染むための方法だったというオチになる。デーモン小暮のOPもだけど、EDが新居昭乃AKINOAKINO from bless4とのコラボってダジャレ企画というのもかなり遊んでる。

●ギャルと恐竜
ギャルと平然と一緒に住んでる恐竜、という漫画原作アニメで、ポプテピピックとも一部共通するスタッフによって制作されており、前半のおそらく原作に準じたアニメパートと、ポプテピ同様さまざまな技法で制作されたショートアニメ、そして実写パートで構成されている。賛否分かれるのは後半の実写パートで、ギャルと見栄晴を置き換えた、見栄晴と恐竜の共同生活が描かれる部分と、蒼井翔太が出てきてポプテピピックネタと繋げたところだろう。ギャルの元彼が翔太だから蒼井翔太なんだろうとは思うしポプテピピックネタはさすがに私もちょっと、と思ったけれど、見栄晴パートは良いと思った。なぜかおじさんと恐竜のほんわか同居生活ドラマがぶち込まれて、なんか楽しそうでこれはアニメではレアなポイントを突いてきたなと。ギャルで描かれるようなポジティブな生活を年のいったおじさんがやっててもいいじゃん、みたいな。男の趣味を女子高生がやるネタは数多あるけど、ギャル生活をおじさんがやるというのはあまり見なかったのでその点で面白みがある。とはいえ、見栄晴が出なくなるとよくわからん芸人の厳しいネタとかになったりしたのはちょっとどうかと思った。新型コロナの影響で今クールで七話まで放送され、秋クールにリスタートし最後まで放送されたのは、この後半の実写ドラマの撮影に苦慮したからかと思われ、終盤では猫で十分持たせるとか、当初の予定ではなかったのではと思うところもある。ネコと恐竜がじゃれあうだけで10分持つだろの精神、間違ってない。最終話は、見栄晴は恐竜と無駄な時間を過ごす幸福さをもう得られないけど、その幻の思い出が暖かいマフラーに象徴される締めだった。

●A3!
冬クールに放送開始したものの、工程上の問題と新型コロナウィルスの影響で四月から仕切り直して放送された。P.A.WORKSStudio 3Hzの共同制作で、今年のPAアニメとして話題になったのは別のアニメだけど、安定感があり面白いのはこれだったんじゃないかと思う。役者育成ゲーム原作アニメで、演劇の街、天鵞絨町で取り壊し間近の劇団MANKAIカンパニーを復興させるために主人公が主宰兼総監督にとつぜん任命され、メンバー集めから始めることになる話。春夏秋冬と四つの組に分かれ、四月からのクールで春組と夏組、秋からの二クール目で秋組と冬組の話となっていて、各組六話ずつ四部構成の作品となっている。演劇をめぐる四つの物語で、始まりの春組でベースを作って、夏組ではドラマと演劇の違いを演劇がリテイクできない一回限りのもので最高の自分を見せられないというトラウマを克服する話で、一回限りだけど何回だって舞台には立てる、というのも面白い。秋組は沢城千春と武内俊輔、カリギュラのコンビで、そこそこできても熱意がない、熱意があっても技術が足りない、デコボココンビが良かった。冬組はまた個性が強い上に、SF設定でループが始まって驚いたけど、演劇は幾度も再演するものだし、OPがCircle of Seasonsと四季の円環を示唆するモチーフ、なるほどループものときわめて親和性が高い。韻を踏む、もそうだ。冬は心を覗くメガネとかファンタジー要素が強く、ややキャラの掘り下げにアンバランスなところがあったけれど、よくある話でも引き込まれる劇中劇の強さと大団円で終わった。組ごとで言えば、マイポートレイトでの告白劇を展開にうまく使った秋組が印象深い。

四月一日さん家と
Vtuberがドラマをやる独特の企画の二期。生子という血のつながりがある妹かも知れないキャラの新登場と、二葉がカラオケバーの雇われママをやることで、人にも場所にも新しいものが増えた。家族の色んなヤバイ話がぼろぼろ出てくるのもなかなか面白かったけど、三話はあの樽美酒研二で一話やり通す。「私今樽美酒さんに会えるレベルの女じゃない!」という三樹の面倒くさいファンぶりが出まくってて笑ったけど、一花がざっくりと電話切るタイミングでめちゃくちゃ笑ってしまった。狂気を感じる瞬間だった。四話の恒例となった漫才回では練りに練った三樹のテクニカルな漫才対生子の一発ギャグの構図が、一花と生子の思いつきに高度な解釈者がツッコミを入れるという形に落ち着くのが面白い。「バンダイナムコガンダム」ってネタはかなり面白かったけど、演者の人が採用されたのに驚いてるってことはアドリブだったんだろうか? 作中でアドリブ芸をやるところでマジのアドリブ入れるの、gdgd系の発想を上手く消化した感がある。そういえば、一期のモチーフが先送り・遅延だったとすれば、二期のモチーフは別れた・失ったものが帰ってくる、というものだったのではないか。父、ドミノ、生子とか。

●継つぐもも
お色気バトルアクション漫画原作アニメの二期。だいたいいつも通りという感じだけど、三話は百合回としてなかなか印象深い。憧れの相手が入れかわる二段構えの話運びが相思相愛の百合に帰結する。男を介して友達に勝ちたいという同性しか目に入ってない話かと思ったらお互いがお互いに憧れてて、どちらも相手を目指すことでいまの自分ができている。他人で自分を計ろうとするなというのを結論と思わせて、自分の価値をお互いに預けた同士の二人という関係性を出し、最後にまたしろうの価値判断の一貫性を見せる対比になっている。で、たぶんしろうは自分の価値に対してブレがないからこそ恋人ができない。それはそれとしてしろうはクズ。終盤の展開は母親をめぐる重いエピソードで、死んだはずの母親があまそぎとして復活することで、これまでやってきたすそがえしの仕組みがかずやの最大のハードルとして立ちはだかる、いいクライマックスだ。ちょっとエヴァを思い出すなと思ってたら「でも、母さんなんでしょ?」のかずやの演技が一瞬シンジくんに聞こえた。とはいえ、一名の犠牲者を出し再起不能のパートナーを抱えて、これから厳しい修業に向かうエンドは締めくくりとしては暗い。作中で三年の時限を切ってるけど、実際にこの三年後に三期をやったらすごいとは思う。

●グレイプニル
ゲーマーズ、Just BecauseのPINE JAM制作、魔法少女なん てもういいですからや鬼灯の冷徹の米田和弘監督による、バイオレンスアクション漫画原作アニメ。今年で言えばダーウィンズゲームとも近い感触だけど、着ぐるみに変身する主人公のなかにヒロインが入って、合体して興奮しながら相手と戦う性と死が直結する趣向がある。二話のアクションのコンテが結構特徴的でよう動くと思ったらコンテに江畑諒真。話の筋が頭に入らなくなるような絶対笑っちゃう場面と性的嗜好のオンパレードが展開される回があったり、ダーウィンズゲームにある程度あった知能要素をエロに全取っ替えしたみたいな感触だ。夏、廃墟、薄着、血と体液と汗と臭いのフェティッシュが張り巡らされたアニメで、ワンクールで全然終わってないけど、なかなか楽しい。

●球詠
きららフォワードの野球百合漫画原作アニメ、事前の絵柄がなかなか、と思ったらこのすばの菊田幸一キャラデザでなるほどとなった。すごいガタイのいいキャラデザで、原作の絵柄の筋肉質なところをより強調した感じだ。百合漫画要素とともに野球の戦略をかなり真面目にやってて面白いけど、時折場面が手早く進みすぎて何がどうなったか飲み込めないところもある。野球そんなに詳しくないので。七話はのんびり野球同好会をやるifルートでも楽しかったかもというの、きらら系列の今作自体のこととも読めるし、どちらの可能性も否定せずに今ここにいることの肯定がいい。しかし、自分たちだけで楽しくやりたいという影森の理論、百合漫画だから出てくるアイデアって気がする。だから投球を真似るのが嫌がらせになる。相手カップルを揺さぶる戦術。一応原作漫画も配信で追ってるんだけれど、ざっと読んでると誰が誰だかわからなくなってしまうので、アニメで整理されるのはわかりやすいな。

本好きの下剋上
二期というか2クール目は階級社会で生き抜く平民をやっていく神殿篇。安定して面白いけれど、「働かざる者食うべからず」というフレーズが二度ほど出てくるのは結構気になった。18話で、人権思想のない時代に救貧事業をいかに行なうか、というところでこれまでさんざん描かれたマイン自身のエゴイズムを理由にするのは説得力があるんだけど、何度か死にかけてるマインが孤児の話で働かざる者食うべからず、と唱和するのはグロテスクな響きがある。労働と生存を結びつけるとたやすく反転してしまうからだ。ここで気づいたんだけど、この作品、本質的に起業家の話だと。思えば今作はずっと発明とビジネスの話なわけで福祉事業もその一環だということかな。そうすると孤児の解決と働かざる者、の理念が結構重要な背骨のような気がする。身体が弱いことと知的労働では高い能力を持つことと怠惰を排するマインドがあわさると案外にきわどいかも知れないところはある。終盤で貴族パートが始まって、ファンタジー色が一気に強くなった。トロンベの正体とかこの世界設定の裏側がいろいろざっと出てきて、世界が広がっていく。そしてやはり転生ものは前世との別れの再確認でクライマックス。階級社会の上昇が無傷でできるわけもなくマインは二度家族と別れることになる。

その他――
シャドウバース、カードゲーム原作アニメで来年もまだ続く。アリスとミモリという二人をめぐる四話や八話の百合風味回が良いんだけど、全体的なストーリーは三クール目でなんだか大味になって今ひとつ興味が持てなくなった。
アニメぷそ煮コミおかわり田辺留依主演ショートアニメ、今期もなかなか楽しいし、デフォルメの感じが良い。
波よ聞いてくれ、沙村弘明の漫画原作、サンライズ制作アニメ。主人公が喋り倒してすごいけど、こう言うノリが好きか嫌いかでいえば嫌い成分多め。まあそれなりに見られると思ったら、終盤、北海道の地震が扱われる。異常に本番に強い主人公が生放送のその場にいることを踏まえて災害時インフラとしてのラジオの意味を描いてくるのは感動的だった。ライフラインが寸断されても繋がる波としてのラジオ。面白いけどややしゃらくさいなと思ってたら最終話で急に真面目になるのはズルい。
神之塔 -Tower of God-、韓国漫画原作アニメで、一話はピンとこなくて見ないかなと思ったんだけど二話からは個性的な仲間たちが増えてコミカルな能力バトル・試験ものとしてわりと楽しくなってくる。ザハードの姫二人の関係も結構百合めいているけど、トカゲさんやワニさんがなかなか萌えキャラしてて良かった。
俺の指で乱れろ、今期僧侶枠は美容室が舞台で、僧侶枠でメガネヒロインは初だろうか。カナメ君という当て馬キャラが言い寄ってくるかと思ったらただ楽しくゲームの話して主人公に自信を持たせる役回りになってんのびっくりした。僧侶枠で当て馬のほうが倫理的だった例、初めて? たんにすごくまともな人間だったゆえに当て馬役がこれだけ応援される僧侶枠も珍しい一作だった。幼い頃の関係から今にいたる物語も、強引に襲うところがなければ綺麗なんだけど、これ僧侶枠なのよね。CMで今作を見ているというカナメ君、ドMか何か?
啄木鳥探偵処石川啄木が探偵をやるという推理小説原作アニメで、石川啄木がいかにクズかということをこれでもかと描写するところが面白く、そんな彼に付き添い、時に喧嘩したりもしながら啄木を愛してやまない金田一京助を描いたBLアニメのおもむき。文豪とアルケミストも四話五話の本という恋人に心奪われていることに嫉妬する内山昴輝が出てくるBLパートがなかなか面白かった。借金文豪クズ逸話、こっちは太宰と檀一雄

気になった
かくしごと
久米田康治原作。 村野佑太監督で亜細亜堂制作は異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術の組み合わせ。畑健二郎は新婚漫画を描き、久米田は親子漫画を描く。父子家庭で父は下ネタギャグ漫画を描いてることを娘に隠していて、という書く仕事も隠し事も両方フィクションにかかわってる組み立てでまあまあ面白いんだけど、気になるところも多い。金持ちの貧乏ごっこと無自覚ハーレムを掛け合わせるところとか、隠し事含め父は娘のためを言いながら娘の気持ちを無視していて、娘こそ父をケアしてる構図になっているところとか。これ見よがしのヘイトを集める編集キャラで話を回すのも結構どうかと思った。今作への違和感は、作家の繊細ぶった自虐という自己中心的振る舞いを娘の聡明さが支えている上に、一方的に振り回した挙句に娘に自身を肯定させる美談というのは、さすがに作家に甘すぎないか、というところ。編集の描き方にしろ、なんかそういうだらしなさを感じてしまう。七年経っているとはいえ目の前の娘が誰かわからないところとか、姫が一番大事だといいながら漫画を通じてしか思い出せなかったところとかの、絶妙に可久士を言ってることとやってることが違う人間として描いてるようなところ、意図的なんだろうかよくわからない。

夏(7-9月)

●Lapis Re:LiGHTs
「ラピスリライツ 〜この世界のアイドルは魔法が使える〜」というメディアミックスアイドルプロジェクトでゲーム、コミックス、ライブその他で展開されるうちのアニメ作品。ゲームはまだ出てないけれどジャンルがRPGで、アイドルと魔法を掛け合わせたコンセプトがあって、魔女と呼ばれるファンタジー世界でのアイドルは魔獣とも戦う存在でもある。監督はゆるゆりOVAや三期、最近、妹のようすがちょっとおかしいんだが。の畑博之、シリーズ構成はラノベ作家のあさのハジメと、アニメネコぱらの各話脚本の土田霞、キャラデザは池上たろう、制作は30分アニメのテレビシリーズの元請けとしては初?となる、横浜アニメーションラボ。夏アニメで一番良いと思った作品で、本数がやや少なめだった時期なのもあって、毎話四五回は見返していたので今年一番周回したアニメだった。何が良いかというと、前半はとにかくたくさんキャラが出てくる美少女アニメでひたすら魔法を使ったドタバタコメディをやる楽しさがあることだった。ファンタジー世界の背景とあわせてキャラデザや作画含めた全体的な絵づくりの良さとともに、メインキャラクターでも六ユニット二〇人を数えるという多キャラを巧みに捌いていくのも鮮やかで、一話の魔法学園風景の面白さや二話で街のなかをアヒルを追って走り回る舞台紹介のあと、魔法ドッジボールで各キャラを魔法や特技の紹介とともに性格もあわせて描写する三話がとりわけ面白くて、美少女アニメとして求められるものすべてが詰め込まれてる!と感激していた。とにかく絵がよくてテンポもいいので何度も見てしまう。
 物語としては、魔女に憧れ城を飛び出して街にやってきたティアラという少女が、王女という身分を隠してフローラ女学院に入学するところから始まり、落ちこぼれのラピスランクの魔女候補生の班に入って、退学の危機を脱するために頑張るという話。前半はそうして奮闘しつつ、既にユニットを組んでオルケストラと呼ばれる歌とダンスのライブ活動を行なっている学生たちとふれあう様子が描かれていて、その段階では自分たちもまだオルケストラをやる、という意識はなかったんだけど、各ユニットの回を経てオルケストラを多く目の当たりにしたことで、ティアラたちもまたオルケストラをやろうという意識が生まれて、これまでかかわってきた別ユニットの人たちとともに一歩歩き出そうとする。ここまでで七話をかける前半戦となる。
 LiGHTsというのがティアラたちのユニット名で、ティアラが憧れる伝説のユニットがRayという名で、本作では光がメインモチーフになっているとおり、昼や夜、そしてそのあいだの無数の段階の光加減の光景が綺麗に描かれてもいる。七話はユエの背中を押すエリザの場面で提灯に灯がともり、直後の夕陽が映される場面では二人が夕陽を中心に場所を入れ替え、立場を変えるのは、輝きをめぐって歌に込められた思いを語る象徴的な絵だ。このシーンはその前のエリザとユエのシーンから立ち位置が繋がっていて、右にいる送り手と左にいる受け手の立場が入れかわる、つまりエリザに対してユエが受け手から送り手に成り代わったようにティアラもまたそうなる、というシーケンスになっている。光を受取り、光を放つ側になるということ。次話の八話で自分たちのユニット名を決める時に、展望台で悩んでいる間に少しずつ陽が沈んでいく様子のあと、街の灯がついたのを見てLiGHTsという名前が決まるのはRayからLiGHTsへという流れを現わしていて、この街の光になる、という意思が込められている。オルケストラというものが街に活力を賦活し、それのみならず外部の魔獣から街を防衛する力にもなるという設定はここから意味を持ちはじめる。そして終盤はオルケストラの成功にもかかわらず、得点範囲外のため本当に退学させられてしまう展開になる。ティアラが王女だという真実、街の子としてのLiGHTsが街の外へ一端追い出される、という展開を経て、自分たちのやるべきことを見つめ直す過程になっていく。そういうシリアスな話なのに、そもそも退学の危機にいたるところに理事長室から地図を盗んだ減点も大きかったし、王城への不法侵入はやるし、ティアラと合流したと思ったら王宮のごちそう食べてのんびりくつろいでるすっとぼけた様子が描かれたりするのが本当に面白い。このアニメ、アイドルものに魔法を組合わせたことよりも主人公チームがアウトローの限りをつくすほうが新しい要素なんじゃないだろうかと思う。長くなったのでここら辺にするけど、ラピスリライツの魔獣はある種の自然現象というか、個人的には心理現象の寓意みたいに捉えて見ていた。魔獣に象徴される陰鬱さに、輝き、明るさで対抗するという構図、つねに不安と恐れとに苛まれがちな精神を賦活する輝きとしてのアイドル。ライブでの盛り上がりが魔獣という陰鬱なものを吹っ飛ばす、これほどわかりやすい設定もない。厳しくも優しい世界で、前半の日常も後半の苦境でもつねに楽しさを忘れないつくりはとても良かった。生きていくために必要なことの話というか。そう思っていたらノベル版を読むとまさにそういう設定で、アニメでも終盤の展開はそれを踏まえたものとなる。自分自身のことを理解して、目標を正しく見定め、できることをできる範囲でやって、そのために他人と協同していく、というとなんかひたすらベタな話だったかも知れない。個人の自立や自己の確立は他人との協同なしにはできない、という。世界設定自体がライブによって生きる、生かされるというテーマがあるのに情勢からライブが難しくなってしまったのはよりテーマ性が際立つことになったようにも思う。なんにしろ、とても楽しく、良いアニメだったという印象がある。夏は延々ラピスリライツのことについて書いていたので、以下ツイログも参照。ツイログで三ページあるのも他のアニメの数倍なんだけど、各ツイートに連結で長々書いてたりするのでさらに数倍いろいろ書いてる。
東條慎生になりつつある(@inthewall81)/「ラピスリライツ」の検索結果 - Twilog
主題歌もすごい良いし、劇中歌収録のアルバムも良い。LiGHTsの曲が700,000,000,000,000,000,000,000の空、という巨大スケールなのも面白いし、セブンハンドレッドセクスティリオンから6000日、五億秒、という莫大な数がつねに一歩、一番とという「一」と対比されてて、最後に一日、新しい一日目というところに収斂していくのが印象的だった。いやしかし、キャバレー部とか、電気あんまとかはなかなかすごかったな。電気あんま、完全にプレイじゃん。

●放課後ていぼう日誌
女子釣り漫画原作アニメで、大隈孝晴監督、志茂文彦構成、 熊谷勝弘キャラデザ、動画工房制作。熊本県芦北町がモデルになっているらしく、熊本県出身の篠原侑神田川JET GIRLSに続いて熊本弁キャラとして今度は低い声のキャラで活躍しているのも見所。主人公陽渚が父の故郷の熊本に越してきたところから始まり、堤防で釣りをしていた黒岩部長と遭遇したことで、強引にていぼう部と呼ばれる釣り部に入ることになり、この初心者陽渚を含めた部員少女四人が釣りをする。ややレトロさを感じる絵柄はチャンピオン系列の雑誌連載らしいとも思われ、そして釣りそのものやり方や海釣りの注意点、安全講習などもしっかりと時間を取って描かれている。
 七話が部にも慣れてきた陽渚と幼い頃に遊んでいた夏海という二人の関係を掘り下げる回で、陽渚の表情が多彩なのに加え、日焼けした快活な夏海が眼鏡を掛けてて成績も良いというギャップを出してくるのがなかなかの良さ。夏海をなめてかかってた陽渚の良い性格ともども面白い。ここで魚のぬいぐるみ、毛糸のルアー、手芸趣味と釣り趣味が二人を通じて重なって、部と日常も釣りで繋がる。九話は水難事故と環境問題が扱われ、海釣りの危険性と救命講習会でのライフジャケット着用の大事さが描かれ、後半では釣り糸が絡まったアオサギを見かけ、環境問題に心悩ませる陽渚が自分には大きすぎる問題を自分のスケールで向き合う、釣りの危険と害の話になっていたのも趣味漫画として非常に真面目な姿勢だ。11話では自分なりの方法を自分で見つけることと、部長の教育者ぶりが描かれていて、虫餌でも虫嫌いでも釣り方に貴賤はなく、方法は違うだけでそれぞれのやり方がある、というバランス感覚は最終話で陽渚の元々の趣味の手芸に戻ってくる、という形でも発揮されていて、陽渚が釣りにはまった物語だけどその土台には手芸趣味があってというのを大事にし、陽渚は楽しいことが一つ増えたと帰結するのは上手いオチだった。「ぎゃんしてぎゃんしてこぎゃんすれば」の熊本方言のリズム感あるフレーズが非常に面白かった。

●魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜
小説家になろうで発表され電撃文庫から刊行されたラノベ原作で、アンジュヴィエルジュつうかあの田村正文監督、田中仁構成、シルバーリンク制作で総監督が大沼心というスタッフ。平和を夢みて2000年後に転生した暴虐の魔王が自分の知っている歴史とは異なる歴史が支配しており、魔王の血を継ぐ者こそが高貴という差別的社会にもかかわらず魔王本人が不適合者とされてしまう謎を追って話が展開していく。強大な力を持つ魔王アノスがその物怖じしない行動で騒ぎを起こしつつ、くだくだしい説明よりも面白絵面を爆速で見せていくテンポのよさで進んでいくのが面白くて、二話の城を片手でコマのように回していく場面や三話の壁をただ普通に歩いていってぶち壊して進んでいく場面は今作のおかしな魅力を象徴する箇所だろう。序盤は最初の友達で寡黙なミーシャと、その双子の姉サーシャをめぐる問題を解決していくんだけれど、ミーシャとサーシャをめぐるこじれた姉妹百合でもあって、マシマヒメコ役夏吉ゆうこがここでも金髪で屈折した性格のサーシャをやっていて、役柄が明確になってきた感がある。相手が助かるためにずっと嫌われようとしていたほど好きだったそんな少女の仲を取り持つ魔王には過激派百合オタクも文句は言わない、かも知れない。七話ではアノスのファンユニオンという存在の感動的な姿が描かれていて印象深い。頭おかしい応援歌がシリアスな状況でまさに自分たちを鼓舞する歌として現われるのは随一の良い場面だった。前世の因縁から勇者と魔王の転生BLの様相を呈してくる終盤戦から最終話で、魔王と勇者が手に手を取って憎悪の循環を断ち切る良い話になった。「人間が魔族を憎んだのではない、お前がおれを憎んだのだ」、差別と憎悪とその煽動を切り離す主語の確定。ファンユニオンの応援歌とともに愛が世界を救う、をマジでやる強さがある。徳の高い話ですよ。「殺したぐらいで、俺が死ぬとでも思ったか?」のようなセリフを恒例にする鈴木達央魔王がなかなか面白く、一度OPの歌唱を乗っ取ったのは笑ったし、それはラジオでゲストに来たCIVILIANの人が言うには自分から言い出したことだったという。

●異常生物見聞録
中国のウェブ小説を原作にするアニメで、音楽少女の西本由紀夫監督など一部のスタッフ以外は中国で制作されていると思われる。久々の中国アニメで、これがなかなか楽しい。天地無用をちょっと思わせるような、異種族との同居とSFスケールの設定が絡んだ話だけれど、異種族を「異常生物」と名づける倫理感のない用語法は中国語ならそこまで変に感じないのかどうかがちょっとわからない。お人好しの主人公好人が両親の残した一軒家の部屋を人に貸すことで生計を立てようとしていたところに転がり込んできた人狼のリリと、人の血を吸わない吸血鬼ヴィヴィアンたちとの生活というところから始まるんだけど、どう見ても日本ではなさそうな一話の情景が「八王子」となっていたり、中国アニメらしい絶妙にトンチキなセンスが楽しく、リリとヴィヴィアンの喧嘩百合めいたやりとりも良い感じで、ポンコツかトンチキしかないゆるっゆるな空間で、昨日靴下替えてない人がいる!とか無限に下らないやりとりが湧いてくる良さがある。中盤ちょっとだらっとしたところもあるんだけど、一瞬シリアスな曲もかかっても最後まで気の抜けた曲が鳴り続けてて緊張感がまるでないところもこのアニメの特徴の一つで、宇宙に行くにも惑星に墜落するにも劇伴がほのぼの日常楽曲で通されてるのが凄すぎる。劇伴が全てをギャグにする! これはなかなかないですよ。11話の好人たちの戦いと全然無用な工員たちとの麻雀を小刻みに映していくセンスはすごくて、ここで麻雀が映る意味が全然わからないんですよ。でも麻雀なんですね、卓を囲むという。同族だから、とリリを攫いに来た連中の一点張りに対する、異族でも家族だから一緒に居る、と応えるあたりに芯がある話でもあった。お人好しの大家さんのために頑張って家に灯りと食べ物を用意してくれるみんなの暖かさが良い話すぎる最終回で、メンツも揃ってこっから本番だろ。続きをやれと思った。ハーレムものっぽい構図なのに、好人にいっさいラブコメが始まらないのも独特で、気が抜けていて緩くて暖かい作品だった。そしてリリ洲崎綾とヴィヴィアン夏吉ゆうこの異種族百合です。しかし、これは良い意味で言うんだけどこんな気の抜けたゆるい話が中国で大人気なのかと思ったらPVは2100万で、霊剣山の20億と比べたらさすがに桁が違っていた。悪偶とか銀の墓守りとかが億単位なのでそれに比べれば小粒ではあるか。中国語ミニアニメパートもなかなか印象的で、「私が貧乏なのは宇宙の意思ですわ」は名言のひとつ。

●GIBIATE
2030年、ジビエと呼ばれる怪物になってしまう感染症が広まった終末世界に、江戸時代からサムライ、ニンジャ、僧兵がタイムスリップしてきて、現代世界の人間たちと生き残りを賭けた戦いが始まるオリジナルアニメ。 天野喜孝古代祐三SUGIZOといった有名クリエイターを集め「和」をアピールするビッグプロジェクトの感がありながらもアニメは非常にB級感あふれる風合いで、それも合わせて色んな意味で面白いアニメだった。普通の意味で人に勧めるアニメではないんだけど、期せずして時事的になってしまったテーマ性とオモシロアニメーションぶりはやはり一見の価値がある。2020年をある意味で代表する一作で、ジビエートの残したインパクトはそう簡単には忘れられないだろう。一話は配信版を見たせいでOPとEDをほとんどフル尺流す暴挙にすべてが押し流された。OPのダイジェスト映像がいつまで経っても終わらないのに笑いが止まらなくなり、大黒摩季のEDで最後に天野喜孝古代祐三SUGIZO吉田兄弟大黒摩季を実写紹介する映像が流れてとどめを刺された。この一話では作品を踏み台にして有名クリエイターの宣伝やってんじゃねえよと怒りを感じるところもあったんだけど、二話の前回フルで流れたOPが20秒程度で終わった衝撃、「また焼酎あげるよ」「芋しか受け付けねえぜ」「蕎麦も良いぞ」のやりとり、時代劇BGM、大空に笑顔、何もかもが面白く、豪華スタッフ陣から送り出されるB級アニメの味わいに気づいてからは終始楽しく見られるようになった。四話のOPから本篇が始まる演出は驚きで、OPを半分以下にカットした回があったと思ったらOPに本篇の内容を突っこんでくるの、やることが自由すぎないか? 爆弾魔が料理を習ったら何からでもカツカレーができる、というわけのわからないくだりも面白い。火薬とカレー粉が似てるから両方作れるっていうのは、ほんと、どういう?粉を混ぜるからか?作画にしろロジックにしろ、とにかく独特のものがある。池田秀一の声も面白くてちょっと浮いてると思ったら実際に異質な存在だったという展開も笑うんだけど、「こういう結末もアリってことだ!」のあたりの締めの展開はちょっとどうかと思うところがありつつも、「こんな世の中だからこそ、希望を持つんだろ」「また会おう」。終わり良ければすべて良し、というラストだった。一話でも無駄とも思える戦いについて、ヒロインが「意味がないとは思わないわ。だってね、私たちはまだ生きてる。明日もまたきっと、生きるために戦っているんだから」、そういうアニメ。吉田兄弟のOPはかっこいい。

モンスター娘のお医者さん
ラノベを原作とする、異種族を治療する医者を題材にしたお色気アニメだけれど、エロ要素だけでない内容もあり、なかなか悪くない。岩崎良明監督、白根秀樹構成、アルボアニメーション制作。主人公の声、ちょっと石田彰に聞こえる時がある、土岐隼一って人。モンスター娘という通り女性を診察という医療行為の体でエロを入れつつ(ここが倫理的にはアレだけど)、患者やその種族の特性などを描いていく話。アラクネのアラーニャが親友の思い人を寝取ることで親友との繋がりを一生消えないものにしようとするの、男を介した百合というやつだろうか。アラーニャのバイセクシャル性や、自分を隠して相手を試すような行動を繰り返すところ、マイノリティの性格描写にも見える。

炎炎ノ消防隊 弐ノ章
昨年に続き二クールで放送された二期。世界の謎に迫りつつ独特のセンスがあって、シリアスな時に入るギャグにちょっと中国アニメ感がある。騎士の妄想で本当に強くなるアーサーが「バカで良かったー!」とか、個性の尊重の仕方に個性があるんだけど、特に今期で印象的だったのは17話。弱いものをいたぶるのが好きなイカレ野郎が、強くなれ完璧になれと親からのプレッシャーに押し潰されかけていた子供に、お前はまだまだ子供だ弱くあれ、といって救ってしまうというのがうっかり感動してしまうエピソードだった。弱いものいじめの悪役が子守をして月が壊れるの、ピッコロと孫悟飯を思いだす。17話の「少年よ、弱くあれ」は名サブタイトルだと思う。こういうひねくれたトリッキーな倫理性は今作の特徴のように思う。最終話の「アーグ大隊長の死は、ドMということもあり自殺として処理されることになった」という真面目なモノローグっぽく言うところもメチャクチャで笑ってしまう。

その他――
ゴッドオブハイスクール、朴性厚監督、MAPPA制作による韓国漫画原作アニメで、格闘バトルものをMAPPAらしく凄まじい作画と独特のギャグセンスで描く。中盤あたりまでは仲間同士の関係や、38歳の高校生などの話も面白かったけど、終盤はどんどんスケールがでかくなっていってよく分からない感じになる難点がある。
恋とプロデューサー〜EVOL×LOVE〜、中国ゲーム原作アニメで、境宗久監督、MAPPA制作、アバンで主人公の少女が車に轢かれそうになるところがゾンビランドサガ感。格好良くて社会的地位もある男たちがどんどん主人公ちゃんを助けていく乙女ゲーム感がある。服装や髪型も変わる主人公の良さや、異能力を持った男子たちとの因縁のエピソードの面白さもあるけど、プリンをファーウェイ(ではない)CEOがすり替えてまで食べたのにまずい、の一言ですげえ笑った。
デカダンス、一話はおおと思わせて二話でんん?と冷めてからはまあ面白いんじゃないですか?みたいな距離感のままだった。まあ良くできている面白いアニメだとは思うんだけど、あんまり思うところがない。デカいデカダンスでダンスすればもっと好きになれたかも知れない。
Re:ゼロから始める異世界生活、二期前半部分は白鯨戦直後からの一期の直接の続き。二期四話、29話の親子の話はとても良かったと思う。この和解劇自体がやろうともできない不可能なことだというのが悲しく、プレッシャーに潰されて無理をしてキャラを作ってあの感じが出てるスバルのリアリティは結構なものがある。父親のセンスを意識してできてない感というか。とはいえ違和感も結構強く、キャラに圧を掛ければいいってわけじゃないなと思うし、展開で追いつめまくったスバルの極限の感情表現が感情がこもっているがゆえに、見ていて「うるせえな」って思っちゃう。
巨人族の花嫁、今期僧侶枠。九話構成で展開されるBL僧侶枠。異世界から高校生晃一が巨人族カイウスに召喚されて花嫁になって子供を生んでくれと言われるすげえ導入。異世界、異種族、異性じゃない、三つのハードルを一挙に越えてくる豪胆さがある。設定も結構凝ってるファンタジーBLで、僧侶枠と言えば男が強引、時に無理矢理迫る展開がお得意なのにBLものだと展開に丁寧さが出てくる。わりとしっかりした設定の異世界らしさとエロ展開の便宜という相反する二面性があって、独特の視聴感をもたらしてくる。ロマンチックな伝承と重ね合わされた、世界を超えて結ばれる二人を描きつつ、傷ついた晃一の願いに対し死の時まで守ると約束するカイウス、やたら良い話だった。間男ポジが普通についてくるの笑う。
オオカミさんは食べられたい、九話のあとに三話構成の短篇を挾む形の今期僧侶枠二つ目。赤頭巾モチーフで、オオカミヒロインが赤頭巾主人公に私を食べてと強引に迫ってくる僧侶枠初の肉食ヒロインもの。スカート奪取おじさんという絶大なインパクトの存在から始まってスカート奪取おじさんで終わるの笑った。僧侶枠にしては暴行がないけどかわりに教師生徒の倫理面での問題が発生する。
宇崎ちゃんは遊びたい!大空直美が良い。

気になった
●彼女、お借りします
マガジンのラブコメ漫画原作だけども、風俗嬢に入れ込んでしまった話ベースで展開するのが驚かされる。和也は女性に振られた鬱屈から自分で頼んだレンタル彼女を非難して、その要因に祖母に彼女を見せたいというのがあるけど、その祖母は彼女を見てすぐ体の相性の話してるの発想が妊娠出産と直結しててアレだ。主人公が性欲駆動の人なだけじゃなくて祖母も含めて作品を駆動する価値観にモテ至上主義的、性欲先行のニュアンスがあるし、ミソジニーが何かを解説する話でも作ってるんだろうかと思わされるところがある。男の幼さをロマンチストだとして肯定するセリフを女性に言わせるし、瑠夏を虚言癖だと言ったのに男同士で嘘はつけないというのとか、悪い意味ですごいと思ってしまう。これはこれでありうる等身大の大学生なのかも知れない。それが面白いかは別として。とはいえキャラ作画やデフォルメ含めて絵的な面はとてもよい。

●天晴爛漫!
橋本昌和監督・構成のP.A.WORKSのオリジナルアニメで、明治後期のアメリカに漂着した発明好きの日本人と武士が、大陸横断レースに参加して日本に帰るための資金を得ようとする物語。序盤はなかなか面白いと思ったし、三話のブーストロケットは爽快で笑ったんだけど、話が進むに従って面白くなくなっていくアニメだった。キャラやら演出やら作画やらはさすがになかなか良かったりするんだけど、中盤あたりでなんかイベントのためのイベントが起こってる感じのする展開で、レースと相性の悪い話してるなあと思ったら、いつまでもレースに専念せず、動いたかと思ったら止まることの繰り返しばかりで、どうしようもなくフラストレーションがたまる。全員が立ち止まったなかでぺらい悪役が大得意で喋りまくるとか、レースを舞台にしているのに重要なところで棒立ち演説が入って動きを全て止めてしまうのは、作品の根本的な設計が失敗している気がしてならない。長距離レースのはずなのに、最終話Bパートみたいな短距離レースのメソッドしかないから途中に余計な話を入れたように見える。物語が題材を邪魔するようにしか組み立てられていなくて見てて苛立ってしまうので、出来以上に印象が悪い。

秋(10-12月)

コロナ関連で延期なりなったアニメがここに集中したのか非常に見る数が多いうえに一つ一つパワーがあるアニメが大変多かった。今年唯一、週に見ているアニメが30後半の数になった。まだ最終話見てないものもいくつか。上から体操ザムライあたりまではどれも年間ベストに入れても良いような作品が揃ったクールだった。見終わってない作品が幾つかあり、後に加筆するかも。

●アサルトリリィ BOUQUET
10年以上前から存在しているアクションドールシリーズがあり、近年舞台やアニメなどでメディアミックス展開がなされているもののアニメ版。放課後のプレアデス佐伯昭志が監督および全話脚本、あいうら灰と幻想のグリムガルの細居美恵子キャラデザ、シャフト制作。佐伯監督と聞いて普段アマゾンプライム独占配信アニメは見ないんだけれど、これは加入せざるを得なかった。ヒュージと呼ばれる巨大生命体が襲来する近未来、それを倒せるチャームと呼ばれる兵器と感応性が高い10代の少女がリリィと呼ばれ活躍している。ドールがそうだったこともあり、ふとももがとても強調された独特のキャラデザは印象的で、誰も彼もがスレンダーだった去年のアサシンズプライドと好対照になるかのようなデザイン。甲州撤退戦と呼ばれる戦いで自分を助けてくれた白井夢結への憧れから、主人公一柳梨璃が鎌倉にある百合ヶ丘学園(藤沢から小田急百合ヶ丘とは別の方向に向かって百合ヶ丘に着くのがちょい面白い)に向かうところから始まる。リリィで百合ヶ丘学園で、ユユとリリで百合百合だし、シュッツエンゲルという上級生との姉妹制度があり、百合押しがめちゃくちゃ強い。設定はストライクウィッチーズあたりの話と似ていて、この手のセンスはちょっと一昔前だなと思ったらじっさいにそうだった。序盤はなかなか良いとは思ってももう一歩欲しい感じもしたけれど、婚姻届を出したけど死別した前妻への未練もあって情緒不安定なのを受けとめてくれる後妻とのケーキ入刀かのようなシュッツエンゲル結成の巻の三話で一区切りがついて以後の四話五話あたりで非常に良いと思えるようになり、監督が言うように、話数ごとに夢結と梨璃の関係が少しずつ変わっていく話の密度や着実な積み重ねと、楓・J・ヌーベルの魅力など、さすがの出来で、特に八話の結梨のバトル作画は圧倒的でもあった。シュッツエンゲルという古典的な設定を用いて、夢結が既に一度シュッツエンゲルを結んだ姉を失っているというトラウマをいかに受けとめるか、という話にもなっていて、四話では自分に何もないと思ってる梨璃が自信がない雨嘉を見て奮起して神琳と雨嘉のすれ違いをかみ合わせる歯車になる回で、お互いを真に信じるからできる、物騒な対話劇が通じて、改めて背中を預けられる関係が描かれるように、二者関係がさまざまなパーツを用いつつ、真に相手を肯定し、受けとめるということに賭けられている。これはまたヒュージとリリィの関係もそうだろう。特に印象的な五話は、夢結が梨璃の故郷を訪れ、誕生日に彼女の好きなラムネを買ってくるという話が、梨璃の旅路を自らも往還することで相手のことを考えることと自分のことを考えることが描かれる。夢結の表情と心情描写に丁寧に尺を割いてて良い話数だ。中盤はヒュージから生まれた結梨という二人の娘?をめぐる物語になっていて、二人がケーキ入刀してヒュージを倒したから子供が生まれるのも当然?という文脈がある。このダブルアウトサイダーの子供は、自分が何なのかと言うことを問い、人間とヒュージの境界は何かを問う。そして結梨をめぐって百合ヶ丘学園のリリィたちが守るために動く、という個人と集団の協同が描かれるのも、ノインヴェルト戦術という協同作戦のモチーフと絡んでいる。結梨が海に消える九話は、生活の一断面としての朝の散髪から始まって赤い夕陽で終わるショッキングな回で、梨璃と結梨を照らす逆光が冒頭からEDでまで丁寧にリフレインされて、その光のなかに消えていく。ヒュージから生まれた人造リリィというダブルアウトサイダーが人として生きたことを証する過程。自分が自分でいることの矜持はこの話数での楓・J・ヌーベルもまたそうだった。11話での「自分自身を認められない人間はどうなると思う。憎むんだ。自分と自分以外のものすべて」が美鈴の自己否定の呪いとしてあり、夢結もまた囚われている。カリスマというレアスキルが支配と支援の表裏一体になっているのが人間の関係のそれとも重なっていて、その肯定に向けてお互いの関係が問い直される。ヒュージとリリィ、カリスマの性質、表裏一体の二面性ということでは美鈴の性格もそうだし夢結もそうで、二人のそうあろうとすることとそうあってほしいという関係はシュッツエンゲルの師弟的な関係のもつ性質でもあって、相手の身だしなみを整える描写の反復がそこを強調する。自分一人では自分を認めることはできないので他人との関係において自分の姿もまた変わってくる。最終話は上級生と下級生の混浴で梨璃と夢結がはじめて一緒に入る、というところから制服ポッドでの服を脱いだ素肌での髪と指を絡めた対話へ至る。ここで梨璃の夢結の元姉への解釈が語られるところが二人の関係の帰結だろうか。しかし、最終回も風呂を貫き通すアサルトリリィを見て、二者関係が重要な点でもかなりアンジュヴィエルジュを思い出させるものがあった。今年の新人としては百合アニメなどでめざましい活躍をした夏吉ゆうこと、この人が頑張っていると加点してしまう赤尾ひかるの二人なのは強いな。二人デュエットの五話のEDは良かった。

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
ラブライブの新作はゲームを原作とした外伝的な一作。河村智之監督で横田拓己キャラデザ、EDのめばちは三ツ星カラーズの組み合わせで、そこに八月のシンデレラナインの田中仁が構成として入る布陣。キャラデザも大幅に変わり、そもそも今作ではラブライブの大会に参加しないという方針がとられ、グループアイドルではなく、個々人一人一人がアイドルとして活動するという、さまざまな意味でラブライブの「外伝」的性格の話となっている。九人のスクールアイドルをそれぞれ個別回を使って描くという破格の構成もゲーム原作らしさがある。
 一話からなかなか強くて、優木せつ菜というスクールアイドルを見た主人公高咲侑をフックに、かわいいものが好きな歩夢が自らもアイドルをやることを決意する一話だけど、幼馴染み同士が無限にいちゃついたと思ったら同じ夢を見ようと告白していつだって隣にいると返して綺麗に結ばれた話だった。ここで歩夢が「私の夢を一緒に見てくれる?」と聞いてるのが後半の伏線にもなる。二話の中須かすみ回で、侑が歩夢との間に最少のアイドルとファンの構図を設定し、みんなを誑し込んでいくのかという感じで二人に生じた少しのズレをとりもつ役目も果たし、かすみが同好会をいろいろな価値観を受け入れる場所にしたいとたどり着く。同時にかすみは自分が一番だと叫ぶことも忘れないのが良い。かすみは全話通して良いキャラで、相良茉優の独特の声もあって作画も恵まれている。三話のせつ菜回、生徒会長とアイドルの二面性を水と炎の属性を使ったライブや、暗所に光が差す表現がずっと続いていたのが雲間から差す光になって、私だけの光と歌うライブイメージで海中にまでも差し込む強い光になるのがとてもいい。みな、ライブやるとき決意とともに必ず上に昇る、階段を上る行動が挾まるのがとても「ステージ」っぽい。そしてここで、それぞれが自らの色で輝くという虹のモチーフが、ラブライブの競争に勝ち抜くためにはメンバーが一つの色にまとまることを拒否する理路になる。次の四話では、同好会という個々人の楽しいことの集まりのなかで、ソロはハードルが高いという愛が、みんなと一緒、ステージは一人じゃないからと言って、階段を昇るのではなく降りて、同じ平面でステージをやる、という自分のやり方を見つけ出して、ここまでとは別のやり方を見せてくる。そして果林と一対一で見つめ合うエマを経て、六話の璃奈回は個別回では特に印象的で、日常生活においてもアイドルにおいても障碍となる表情が変わらないというハンデを負った彼女が、表情を変化させるスクリーン付きマスクを被ってアイドルをやるという、ハードルを技術でクリアする話になっていてかなり興味深い。ネットを意識した繋がるという言葉通り、まさに通信こそ遠隔距離を越えて繋がる技術の歴史なわけだし、ハードルを技術で越えるという意味では正しい帰結だ。七話の彼方は姉妹関係が描かれるのとともに、中山直哉演出のダンスパートが印象的で、楽曲もとりわけ良いと思った。十話からは歩夢と侑の話に戻り、いろんなアイドルを支援してきた侑が、歩夢の側を離れていってしまう恐れから自分だけを見て、という感情が爆発する11話の圧のある演出は圧巻でもあった。ちょっと重すぎる気はするけど。そして歩夢の夢は侑から、侑の夢は歩夢から始まってる二人の話。みんなで歩夢のために作るステージでファンの姿を見ることで、侑との関係を依存とは違った明確な形にして捉えることができた感じ。二人が横の位置に立つカットが多用され、歩夢の夢を見る侑から、二人が別の夢を見ながら隣り合って前に進むという最終話の構図へと流れ込む。最終回のライブはこれまで支えてくれたあなた=侑の為に、個々の一人だった全員がはじめて一緒に歌う、というここに賭けられた一作という感がある。スタッフとして駆け回っていた侑はじめ多くのファンと会場スタッフ、そしてこれはゲームのプレイヤーのためのアニメだったのかも知れない。最終話は雨が降っても超常的に晴れをもたらす一期の神話性とは別のかたちを意図したようで、雨は急には止まない人間の物語としてあり、アイドルでない侑の夢をも並列に置く地上の物語だった。

ご注文はうさぎですか? BLOOM
OVAなどを挾んで既に三期となったごちうさの新作。主要スタッフは変わらぬながら、制作会社はホワイトフォックスキネマシトラスを経てエンカレッジフィルムズとなり、今まで以上にパワーアップした感がある。今まではきらら系の萌えアニメの極北という印象があったけれど、今作を見て、このアニメこんなに面白かったのかと大きく認識を改めた。元々、かわいさを突き詰めた作風でもあったけれど、三期に至る蓄積を経て、年も学校もバラバラな各人たちがそれぞれの進路を考えるという岐路に直面し、そのなかで親世代との関係や友人との関係が改めて描かれる。各回、最初くだらないようなことではしゃいでいた面々の描写が、後半になってガッとエモーショナルな情感に回収されていくような構成力は半端ないものがあり、毎回のように驚かされる。とりわけ五話、街中を走り回る二つのエピソードの騒がしいだけのようにも見えた話が、誰かが誰かを追いかける憧れや、子供が大人を、大人が子供を追いかけたり、大人が子供に戻ることなどの時間の循環を、回転木馬という円のモチーフに収束させるのはとても見事でびっくりした。この円のモチーフはOPの「くるんとひとまわり」という歌詞やEDの「○」というところにも通じているようで、中心的なテーマなのかも知れない。そしてこのアニメはいろんな服や制服を着換えていくのが着せ替えの楽しさ以外にも、未来、過去、あり得た可能性を纏い、いつもと違う顔を見せる、その他その他さまざまな意味を担って縦横に駆使されているのがすごい。服が時間を越え、親世代の話にも繋がっていく。私服のバリエーション自体も豊富だけど、プライベート、学校、バイトの多彩な面をそれぞれ着替えることで展開していく。ここまで服が作劇に用いられているアニメ、あんまり覚えがないな、自分が注意してないだけかもだけど。二人で踏み出せる、外の世界への新たな一歩、で終わるの、憎いね。

ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN
これもまた数年ぶりの三期、制作会社はdavid productionに変わっての新作となった。足にストライカーユニットという飛行装置を付けて空を飛ぶウィッチと呼ばれる少女らが、今期はベルリンに居座る敵性体ネウロイから祖国を奪取するという話で、話的には停滞していた印象の二期に比べて、明確な目標があるのがいい。特に二話は三期という蓄積があるからこそできるまるで最終回のような盛り上がりで圧巻だった。通常兵器のおじさん軍人達が決死の覚悟で意地を見せるAパートの息もつかせぬ緊迫感からB冒頭のいよいよの宮藤の発進、ピンチでの501結集と王道の展開を見せきる。四話は、一話掛けて描いてきた大切なバイクを一瞬で足場にしてルッキーニを助けるシャーリーの厳然たる優先順位が描かれる。スピードを操るには決断が早くなければならないわけだ。バイクもユニットも乗り換えるのは誰かを守るためだから、に落着する良い回、脚本は築地俊彦。六話はあれ、それってつまり減量?と思ったら鍛え上げた肉体で減量することで高速機動ネウロイに立ち向かう、という当人たちはクソ真面目だけど外から見るとギャグにしか見えない展開でかなり面白かった。最初の接敵BGMも格好いいし、基地でも静かな曲のままシャーリー出撃して抑えた雰囲気出してたら、最後のシックスパックムキムキバルクホルンでキャラソンがかかってそんなんありかっていう空中素手バトルに雪崩れ込むのも雰囲気作りがうまい。まあ絶対入らないようなパンツのなかから銃も出てくるだろうこの雰囲気ならと思わせる。真面目さ、ギャグっぽさ、頓知で乗り切る脚本、とってもアニメって感じがする回の脚本は浦畑達彦、この人のはなんかスト魔女だなって感じがする。終盤のベルリン戦では、巨大戦車ラーテに乗るパットン将軍CV玄田哲章がなかなか似合ってて、将軍まわりの描写が良かった。無謀な軍人に見えて大きな組織の一員でしかない側面と、前線に立つものとしての意地が魔法力のない宮藤のラーテ乗車とも通じている。全体に宮藤の力の抑制に困ったような印象があるけど、まあとにかく往年のアニメの意地を見せたような出来だったと思う。それにすごく出来の良いエヴァフォロワーアニメって感じがある。正体不明の敵があれやこれやで攻めてくるとか、ミリタリーとか、巨大物の映し方の特撮感とか。そして、露骨にパンツを見せてくる衣装とアングル、久々に見るとマジで気が狂ってるんだけど、美少女ミリタリーもののありようを何一つ誤魔化すことなく見せている点で正気の証左なのかもしれない。キワモノとしての自意識。萌えミリタリーというジャンルが性欲と戦争を結びつける、異様で下世話で下らないものだ、という出自の強調にも見える。だからOKとは言いがたいし古臭いとも思うけど、後発ものに比べるとそういう自覚はまだあるように見える。

●NOBLESSE -ノブレス-
貴族と呼ばれる超常的な存在がいる現代世界で、その貴族たちの守護者「ノブレス」のライジェルという絶対的な力を持つ存在が数百年の眠りから覚め、彼に仕えるフランケンシュタインの計らいによって高校に通うことになる……。何年か前に作られた単発OVAの直接の続篇になっていて、各サイトで無料配信されていると思うので、まずはそこから見るべき。スタミュ監督多田俊介が総監督、ネコぱら監督山本靖貴が監督で、ハラダサヤカ構成、キャラデザ石井明治プロダクションIG制作。今年多くアニメ化されている韓国のウェブ漫画が原作で、人間を襲うユニオンという組織、人間を守ろうとするライジェルたち、そして貴族らとライジェルとの緊迫した関係が軸になるダークファンタジーだけれども、シリアスな要素とともに絶大な力を持つライジェルがラーメンの麺がのびるのを量が増えると思って食べる時必ずのばして食べる描写を代表に、美形揃いのキャラたちが現代人間社会と絶妙にズレているギャグセンスが卓越している。人間と貴族と改造人間とといった異種間の関係をベースに、気高さ、高潔さをめぐって話が展開していくんだけれど、高貴な超俗の存在にも俗な要素が同居しているということ、また危険な戦いに身を投じたとしても常に戻ってくるべき平穏な場としてのトンチキなギャグ描写が作品必須の要素となってて、非常に良いアニメになっている。
 ざっくり前半が学校・人間篇で後半が貴族篇と言えると思う。目覚めたライジェルが学校に通い、田代たち人間の学友と仲良くなりつつ、そこにやってきた敵対勢力との戦いを通じて、誰かのために戦う者を尊重し、誰かを踏みつけにする者が否定される、確固とした倫理が人間、改造人間、貴族へと通じ、ライジェルがその高貴さに応じて姿を現わす。七話が、戦いを終えた日常のなかで人間と貴族の叶わぬ恋愛が描かれつつ、危機を招かないために人間たちの記憶を消す、という話になる。ライジェルたちが二人を守って、これからも危険から守るために記憶を消す、優しさゆえの別れ。田代が誰かを守るために立ち上がって、田代たちを守るためにM21やレジスたちが戦い、そして皆のためにまたライジェルもやってくる、だからこそ、田代はライジェルの言うことを否定できない。田代もまた自ら望むことをしたまでだから。「ありのままでいる」ことが行動に繋がって、田代とライジェルたちはここで、同じ高貴さを持つ者として並んでもいる。そしてOVAで既に一度記憶改変が行なわれているからこそ、ライジェルたちへの「気持ち」が失われていない、だから今ここにいる、という爽やかな記憶消去が描かれた印象的な話数。八話以降はフランケンがなぜライジェルに仕えているかの回想を踏まえて、ライジェルをめぐる貴族たちの内紛を描き、ここでも高貴、高潔さについての物語が展開される。12話は、「魂が卑怯であってはならぬ」とラエルを叱責する兄、ラスクレアが先代の心を思うことをせず「臆病な自尊心」に駆られていると指摘するゲシュテルら貴族たちの気高さと未熟さのせめぎあいのなかで彼らと渡り合えるフランケンが仕えるライジェルが現われる貫禄の構成のうえにいつもの面白Cパートがやはり笑わされてしまう。終わってみると「絶大」とされた力を持つライジェルとその力の責任を描いた話だったように思う。慕う臣下が居りその者たちのために力を正しく使うことでライジェルに傷をつけることができる、という上に立つ者としてのあり方を実地にロードに教え諭すことで、ノブレスの貴族を守り裁くという役割を確かに果たすライジェルは、ロードとノブレスの権力分立のシステムの体現だった。永遠の存在は自らの地位を去り、若者へと場を譲っていく未来と変化への願いを込めた委譲はやはり権力とその腐敗を防ぐ話。そしてライジェルはラーメンが食べられる日常に戻っていくわけで、田代たちとの学校という平和な場所をこそ守るための力としてあった。

●いわかける!- Sport Climbing Girls -
人工的に設置された壁を登るスポーツクライミングに挑む高校生女子を描く漫画原作アニメ。パズルゲーマーとして名を馳せたものの引きこもりだった主人公が、ホールドをどう掴んで登っていくか、というクライミングの「岩のパズル」に面白さを見出してハマっていく。最初は露出の多い女子を描くお色気アニメなのかなと思っていたら、競技面での資質、体格や才能や弱点をめぐって各自色んな課題に取り組みつつ克服していくドラマをきっちりやってきてて、非常に見応えのある作品だった。今時「~でやんす」と喋る女子高生その他、アクの強い他校のキャラクターがガンガン出てくるところは、ああこれはクライミング咲-Saki-なんだなと思えるところもありつつ、キャラ性のセンスがそれよりぐっと古い感じなのは笑ってしまうし、そういう突飛さ、絶妙に変なセンスをまじえつつ、スポーツのドラマにもまた硬い芯があり、今期有数のアニメだったと思う。変なセンスは枚挙にいとまがないけど、「君がそうならそこをそうさせていただく」というちょっと頭悪いキャラの放ったこのセリフはめちゃくちゃ面白かった。そいつのメンバーたちが公園にある動物遊具に乗ってる絵でホーンの音がしてレディース感を出してるシーンはかなりとんでもなかった。
 体が小さい上級生がその生まれた時からのハンデ故に涙を流す五話や、真面目にやろうとするあまり楽しさという要素を不真面目さとして排除してしまった苦い過去の七話、サブキャラの視点を通してそんなことで潰れるんならずっと下から見ていた自分はなんだったんだ、っていう敗者のプライドをぶつける九話、パズルゲーマーだった主人公だからゲームの話で自分の殻を破るフィクション的な頓知が効いているくだりや、怪我を押して出場しようとする仲間をぐちゃぐちゃの声で止める富田美憂の演技が心を抉ってくる11話、言ってみれば壁を登るだけ、自分と壁だけの世界という個人競技だけど、そこにはつねに仲間がいて切磋琢磨と応援がある、というのがアンネ個人には勝てなくてもリードで、団体で全国一位を勝ち取る執念として結実する最終話。普通に何度か泣かされそうになる。アミノテツロ監督といえばDTエイトロンの監督として名前を覚えている人だったけど、あれから数十年経っても健在だというのが感慨深い。待田堂子構成、BLADE制作。

●体操ザムライ
MAPPA制作、村越繁構成、深川可純キャラデザ、とゾンビランドサガとも似たスタッフで作られたオリジナル体操アニメ。2002年頃が舞台で、サムライとあだ名された体操選手の荒垣城太郎は怪我による成績不振で引退を勧告されたものの、映画村で出会ったニンジャを名乗る外国人レオナルドや娘玲の為にも「引退しませ、ぬ」と会見の土壇場で引退を撤回し、体操を続けていくことを決意する。このレオや言葉を喋るでかい鳥ビッグバードなど、ちょこちょこ突飛な要素も出てくるんだけれど、そういう素材も作中に頻出する映画ネタとからめて綺麗にコントロールした感じで、女優だった妻を亡くした主人公城太郎の体操、父を応援する娘の玲、ニンジャを名乗る謎の外国人レオの三者、大人、若者、子供のそれぞれの夢への物語を見事に描いている。城太郎のマイペースな不思議な感じのように、最初はどういう作品なのかとらえがたくて、静かに始まった印象があるんだけれど、マイペースながらも真面目な芯があり、そして城太郎が方針転換して試みるようになった細部にも意識を向けた丁寧な演技そのもののように、着実に積み上げていってきっちり着地してみせる。妻を亡くした夫の話とともに、母を亡くした娘の話でもあって、父子家庭で父を応援する玲の小学生というにはできすぎた我慢強い玲のエピソードが四話で描かれ、これはこれで良いんだけどちょっと物足りないなと思ったら、六話で完璧な姿を見せていた母親がじつは他のところではそうではなかったと知り、母を見習って完璧であろうと装っていた玲が、大人の真似=演技を一端辞めてみることではじめて一つ、できることが増えるという積み重ねがくる。こうして玲まわりの話を少しずつ固めていって、その後キティ・チャンていう面白すぎる名前の中国人が現われて、彼女がここで父の応援以外の玲自身の夢を導くのがとても良い。父の応援という家庭から飛び出して、「ワールドクラス」への夢を見る。最終話では三者それぞれの「演技」を描き、城太郎も、玲も、レオも、一級の役者ぶりを見せる。玲は母の演技、映画のなかの演技を改めて模倣するという再演の多重性もいいんだけど、城太郎は誰も見たことのない演技をやるという競技の違いの対比も良い。

魔王城でおやすみ
少年サンデー連載漫画原作の、人間界からさらわれてきた姫が、魔王城でなんとか安眠を勝ち取ろうとする奮闘を描くファンタジーコメディアニメ。山﨑みつえ監督、中村能子構成、菊池愛キャラデザの動画工房制作。人質が安眠を求めるばかりか、普通に牢を脱け出てあまつさえ素材として城内のモンスターを普通に殺してしまう(けど生き返る)のがナチュラルなホラーでもあり、姫もまた安眠を求めるあまり溶岩に落ちて普通に死ぬ(けど生き返る)、というコミカルな見た目からは意外なほど殺伐としてもいる。OPもEDもなかなか良くて、ファンシーでファンタジーで、姫の何ごとも意に介さないスタイルで生きていく力強い話だ。でびあくまが良いね。魔王城の面々でもうほとんど親や親戚のように姫に優しいのもだけど、魔王城は勇者をちゃんと魔王城に来るように誘導したりセッティングしたりしている点で、人間側より優位かつ優しい感じがある。そういやなんで姫を攫ったんだろ。とはいえ、最終話は無神経な実家の親戚概念に苦しめられつつも親に成長した姿を見せ、王族たる責任を果たし混乱した状況を果然と復元し、子供の学芸会を温かく見守る図の魔族たちのいる城へと戻っていく、騒々しくも楽しい綺麗な最終回だった。いやー、良いアニメでしたね。小澤亜李が出てくると良いアニメな気がしてくるし。

●おちこぼれフルーツタルト
きらら系四コマ漫画原作のアイドルアニメで、川口敬一郎監督、監督と髙橋龍也の協同構成で、プレアデス五話の二人原画のひとり木野下澄江キャラデザ、feel制作。弱小アイドル事務所に所属した少女たちが、生活している寮の存続を賭けて地道に頑張っていく、というアイドルものなんだけど、画面の適度なポップさとかデフォルメのパターンがいくつもある楽しさとともに、お色気要素多めというか、主人公はじめ出てくる女性キャラたちがみな何かしらのフェチや嗜癖の持ち主の性欲駆動アニメーションになっているのが最大の特徴。ろこどるのfeelだし、東小金井を舞台にした地元アニメでもあるんだけど、これはもう東小金井に謝った方が、という感じで笑ってしまう。楽しいは楽しいんだけど、マネージャーがアイドルの実家からの高値の仕送りをかすめ取ってたり、権力関係をたてにハラスメントかますアレさがあって、そこは気になる。新田ひよりの主演アニメは久々で、最近はガルラジがメインでは聞いたくらいだった。このキャラの変態ぶりの一環は、衣乃のきららファンタジア衣装を見るとわかる。それ変態仮面ですよね? 衣乃の緊張すると催してしまう定番ネタでトイレが頻出するばかりか、いろんな変態がたくさんでてくるので、ある回で「へんたいあらわる」というサブタイだったときには一体誰がその変態だったのかが誰にもわからず騒然となった。このアニメ、噓でしょ?って思う場面が多々あって、最終回でも屋外なのに平気で水着でやってきた大人集団の絵面自体もだけど、水着の理由が特に説明されなかったままだったのには驚いてしまった。アイドルがエロい目で見られることよりも変態だらけのアイドルが仲間をエロい目で見てるほうが多い気がする……。と思ったら最後はオチを付けてきた。良い感じの挿入歌に「邪な感情をぶつける」って歌詞があって、まったくこのアニメのことだ。金に目が眩んだ大人と欲に駆られたアイドルが織りなす汚れたタペストリー、黒く輝いていたよ。

●D4DJ First Mix
ブシロードのDJテーマのメディアミックス企画で、水島精二監督、雑破業構成、サンジゲン制作のCGアニメ。10月から始まったので年内に終わるアニメではないのでここに入れて良いかと迷いはするけど、とりあえず八話時点までの。最初、WOW WAR TONIGHTがEDだし最初のきっかけだし、これに重心置いてるのマジで?ってびっくりしてしまった。こういう楽曲でマス層にアピールする戦略はブシロードらしくてアレだなあと思ったけど、アニメ自体は二話なんかが技術的な細部とコンテストでの扱いで真秀のレベルを描写し、りんくのダンス訓練で歌えるという部分にも説得力を与えつつ、ミニライブの成功でひとまずのコンビが二人の手とともにきちんと繋がる堅実さでこれは結構ちゃんとしていて面白いと思った。一話のBPMを感じとるセンスというりんくの才能めいたものはまだ素人なので生かす余地がまだなく、とりあえず壇上で踊ってろというあたりに落ち着く、できることとできないことの配置が堅実さの内実というか。主人公りんくもテンション高いけど記憶力と心情の機微に聡い性格してたり、DJをテーマにしつつ、ホビーアニメかアイドルアニメかみたいな文脈の良いアニメではある。いやちゃんと面白いのはいいんだけど、ステージ上がって面白げな歌とダンスを披露してるの、盛り上がれば盛り上がるほどDJとは???と思って面白くなってしまうんだけど、なんだろうやっぱりキッズアニメのトンチキさがある。崩し、デフォルメ絵はアニメの良いところの代表的なものだけど、手抜きや気が抜けた感触が伝わる手描きでのその種の表現に対して、CGで七話くらいやるのはむしろ頑張ってるねって感じがあって、表現としては逆の感触がある。それも含めて、CGモデルで微妙な表情の付け方がかなりできるようになってて、特に八話でステージでボタンを押した時のりんくをみる真秀の表情、この話数での思い詰めた感情がこもった感じが表現されてて印象的だった。サンジゲンのCGアニメもかなりレベルが上がっている感じ。

●禍つヴァールハイト -ZUERST-
ラピスリライツと同じKLabGamesが作っているゲーム原作アニメで、だからかラピスリライツと同様横浜アニメーションラボが制作、はたらく魔王さま未来日記細田直人が監督構成をやっている。配送屋のイヌマエルと帝国軍人のレオカディオという二人を主人公にして、数奇な運命から指名手配され抵抗組織ヘッドキーパーとともに行動するようになるイヌと、レオとが双方からこの国で行なわれている陰謀に迫っていくファンタジーアニメ。ドイツ語のサブタイトル通り原作ゲームの前日譚らしいからそこに繋がるんだろうけれど、ラピスリライツ同様、ファンタジー世界の絵作りがとても綺麗で、かつRPG的な巻きこまれストーリーから真実が見えてくるストーリー自体はありがちではあるんだけど、レオとイヌの因果から始まって合流して共闘してというのが地味なおっさん多めで展開される全体の雰囲気がなかなか良い。反体制組織に巻きこまれ次第に国を揺るがす事件に発展し、皇帝に会うために奔走する、まさにRPGだ。原作がRPGだし正しいね。OPがヴォカリーズだけのインストかと思ってる人いるかも知れないけど、公式のMV見るとOPの部分が終わったら急に別の曲になる瞬間は一回体験してみることを勧める。最終回で対決はあったもののレオとイヌの関係はゲームに持ち越されるくさいのはちょっと物足りないんだけど、その場面の作画の見せ所やどんなになっても存在感を失わなかったヘルマン隊長は面白かった。一話で違法な武器を背負い込んでしまったように今度は皇帝の子を受け取るし、怪物化の因子やペンダントなど、さまざまなものを受け継ぎ受け渡す、これがRPGの主人公だっていう感じがらしい。しかしヒロインの座をイルマに明け渡したシャアケ、後半存在感が薄い。「おっさんも付き合うよ!」、このアニメらしいセリフが良かった。崩壊の描写は諸星大二郎の生物都市を思い出した。EDでドカーンとイントロが鳴って「引き返せない」と歌われる瞬間がこのアニメのサビという感がある。

●キングスレイド 意志を継ぐものたち
ゲーム原作アニメで、うたプリダメプリの星野真監督、破滅フラグの清水恵構成、OLM×SUNRISE BEYOND制作。こちらはファンタジーアニメでも王道感があり、主人公カーセルたち一行が聖剣の封印を解いていく旅とともに、オルベルリアでは被差別種族ダークエルフの一団が政治的策謀から貴族と共にクーデターを計画しているという両サイドの物語が進んでいく。地味ながら丁寧に進められていく物語と、派手すぎないけれども細かなこだわりが感じられるキレのあるアクション作画が魅力だ。両親を殺され人間に復讐を誓うダークエルフ側にも人間と仲良くなる者もいたり、着実に悲劇の予兆を組み立てている。話数で言えば八話の親を亡くして一人ふさぎ込む少女をめぐる話数や、妻がアンデッドと化してしまった男の悲劇を露悪趣味にも行かず真摯に描いててとりわけ見応えのある九話が良い。絶望的な状況をわかっていてもわかりたくなかった心情を描きながら、死者と生者に分かたれた戦災のあとを生きるというテーマも感じられる。クレオ小澤亜李の魔法使いが地味な作品性に華を添えていて良い。

●神達に拾われた男
過酷な生活のなかで急死した男が、神様に拾われて、異世界で穏やかな第二の人生を送る、という異世界転生スローライフものなろう系原作アニメ。異世界スマホの柳瀬雄之監督で、漫画はガンガンオンラインで読んでるし、うちの娘アニメのスタジオMAHO FILMで、と想定外の要素もなく、なかなかちょうどいい感じの出来だと思った。おじさんから少年に転生して、スライムを従魔にして研究していたリョウマが、親切な公爵と知り合い一人暮らしの洞窟を出て街に住んで、自分の特技を活かしてクリーニング屋を始めるという、まあそれだけの話ではあるんだけど、田所あずさの少年主人公が楽しめるし、寝る前にふらっと見るには良い感じなんだ。一話は監督直々の一人原画回で、柳瀬監督は同スタジオの別アニメでも一人原画回をやっていて、このスタジオ、柳瀬雄之がコアなところを握って、低予算でも成立するようにクオリティコントロールしてる感じなのかな。いろいろ面白いところだ。

●魔女の旅々
個人的にはメガCDのLUNAR ETERNAL BLUEキャラデザとして覚えている窪岡俊之監督、はるかなレシーブやひとりぼっちの○○生活のスタジオC2C制作による、小説原作アニメ。イレイナという魔女がいろんな土地を旅する話で、キノの旅の影響が色濃いといえばだいたいどんな作品か分かるかと思う。ただキノほど話の出来が良くない印象で、しかしそれゆえキノの私が嫌いなその国々を見下したような感触、が薄いのは怪我の功名かも知れない。本渡楓黒沢ともよ花澤香菜日笠陽子といったメインキャストや作画背景その他絵作りの良さ、コメディ展開の楽しさはあって悪くないとはいえるんだけれど、シリアスな話の物足りなさ、もっといえば魔女とそれ以外の人間とに明らかに格差があるような無神経な切断線の存在が気になる。その点、イレイナが十数人に分裂したアニメ最終話の、イレイナは本当に旅が好きなのかという疑念に対して、自己愛百合や「鏡を見たことないんですか?私のくせに」など自分大好きイレイナという解答をぶつけてくるのは笑うしかない。自己愛百合のナルシスティックさもあり、悲しい体験をしなかった自分を願ってここにきたとか、旅で出会った相手とかより、自分のことしか考えてない自分探しの旅だという点をスタッフこそよくわかってこの回になったと思った。

その他――
冬は質も量も多くて、ここまででずいぶん長くなってしまったのであとは短く。
戦翼のシグルドリーヴァ、プロペラ機でスト魔女をやるみたいなミリタリ美少女もので、キャラや一話などの日常芝居の作画の良さは良いんだけど、男連中の使い方というか、裸男軍団出してきてギャグですってやるノリさすがにキツすぎた。軍人のノリがそうなんだけど、やってるほうは盛り上がってる軍人ごっこを見せられてる感じがあって、軍人描写がパロディのパロディみたいに感じられてしまう。スト魔女もそれなりにフィクショナルだけど上滑りしている感じはないのにこれ同じ人が関わってるんだよな。最終話はなんだかラピュタっぽかった。ただ、帰還したところでオペレーターに「みんな無事で」と言わせたのはほんと、どうかと思った。まあアズズは良いキャラだし作画もやたら力が入っているのはいいけど、最終回はやりすぎ。
くまクマ熊ベアー、ゲーム世界に召喚されるタイプの異世界ものなろう系小説原作で、熊の着ぐるみを与えられ、その最強の装備を着て、出会ったフィナという少女などとともにこの世界で生きていく、百合アニメ。漫画版を前からわりと楽しく読んでいて内容は知ってたから一話の内容をミスリードさせるような改変が意味不明だった。女性主人公がいろんな小さい女の子と仲良くなっていく百合ハーレムアニメでもある。防振り、破滅フラグ、これと今年は女性主人公なろう系アニメが続々と二期が決まる年だった。
100万の命の上に俺は立っている、神達と同じスタジオでスタッフもいくらか似ている、現実と異世界を行き来するタイプのアニメで、冷たく合理的な発想をするという主人公が、個々人は何度も生き返れるけどパーティが全滅すると死ぬ異世界ゲームマスターからクエストを命じられる。まあ、なんだかんだ面白いところもあるアニメなので、二期も見れたら。一話のいらすとや版はなかなかの賛否を巻き起こしたけど、本篇を先に見ているとなんでこんなにちゃんと作っているんだ、と思う。あ、これ原作の漫画でいらすとや版が無料公開していたネタでもあるのとともに、異世界をバーチャルだと思ってる主人公の認識に準じたものだったのかもしれないといま思った。
レヱル・ロマネスク、機関車擬人化ショートアニメ。まいてつというエロゲが元でそのコミカライズを読んだことがあるけど機関車を地域復興に使う話だった覚えがある。これも観光客への土産開発の話で、そこにキャラ同士の百合が同時進行していく。四話の近くにあっても気づかないこと、という視点からお土産と昆虫を絡める話や、観光客への商品開発をテーマにしてきた最後に、みんなからすずしろへの贈り物とともに「いつでも一緒」と言葉を添える綺麗な最終回などが良い。
大人にゃ恋の仕方がわからねぇ!、今期僧侶枠。大人同士で恋愛から距離ができていた二人の話で、売り言葉に買い言葉で一緒にホテルに行く流れがバトルものラノベアニメの一話みたいで笑った。題材的に結構年齢層高め向けかな。不倫でも強引でもない大人のラブコメって感じで、なかなか良い雰囲気で終わる、珍しいタイプの僧侶枠だと思う。
エタニティ ~深夜の濡恋ちゃんねる♡〜、僧侶枠でも知られるスタッフが15分枠で、毎話エタニティブックスのいろんな作品をアニメ化していくというオムニバス企画。僧侶枠に対して版元の違いなのかこちらは社会的地位が高い社長なり御曹司なりが相手役として頻出する傾向がある。そんななかでも同僚を相手にしたプリンの田中さんの回は、すれ違いのコメディセンスと「俺余裕ない……」「お財布にですか?」の思わず吹き出したやりとりが良かった。部屋に誘う意味を指摘して辞去しようとした田中さん、性的同意の概念があってまともな人間だ。強引に襲わないの珍しい。
無能なナナ、能力者が集められた孤島で、人間に害を為すと判断された能力者を、指示に従って無能力者のナナが知略で殺していく、というミステリチックな能力もの漫画原作。あんまり趣味じゃないけどまあまあ面白いかなと思っていたら、人を癒す能力を持つミチルというキャラと能力者殺しのナナとのあいだに、初めての友情ができたあとの13話、ナナがどう見ても恋してる感じで初めての友達のことを「今何してるのかな」って考えてるのは百合だったし、ワンクールをミチルとナナの物語としてまとめた感があって、親の死の責任があると思わされていたナナの呪いを解いて、人への信頼をミチルを通じて得るような回で、まあ良いところで締めるね。

気になった
池袋ウエストゲートパーク
窪塚洋介主演のドラマが人気だった石田衣良の小説を原作に動画工房がアニメ化した作品。カラーギャングというネタはさすがに古すぎるし、イエスタデイをうたってともども、動画工房が昔の作品のアニメをやるセンス、どうだろうと感じる。最初はなんか薄味で、悪くはないけどそんなに面白くもないな、と思ってたんだけど、幾つかの点で非常にダメだと思った。とりわけ五話、原作が書かれた時には技能実習生を早くに取りあげた物かも知れないけれど、2020年にこの題材で中国の貧困メインで話進めて、中国より豊かな日本に暮らせて良かったね、「この問題だらけの国に住んでいても、俺たち日本人は恵まれてるんじゃないか」って語りで締めるの正気かって思う。いま技能実習生は中国からは減っていて急増するベトナムからのが割合的には多くなっているらしいけどそれは措いても、安価な労働力を欲する企業が借金して逃げられない状態でやってきた実習生をタコ部屋で奴隷のように働かせている、という事例があることはもう既に知られてるわけですよ。話がつまんないだけならまだしも、日本における外国人の問題を扱っておいて「まるで他人事みたいに」なってんの、ちょっとどうかしてる。義理の妹ができる話だから飛ばせなかったのかもしれないけど、いまこの題材をこう描写していいと思ってるセンス、ダメでしょ。ひどいのが中国人が題材なのに中国人が日本国籍とるのは無根拠に良いと考えてないと書けない話になってるところだ。家族がいて父の病気のために金が要るというクーが、なんでそんなにあっさり養子になるのか。母国の家族のため、父の医療費のためとはいえ、日本人の養子になるって選択はものすごく悩む話でしょう。中国人に母が騙されているというほうがまだ成立する。中国人の民族意識や主体性ってものが全然存在していない。で、「俺たち日本人は恵まれてる」ことに気づくラスト。バカなんじゃないか。何度も挾まれる日本は豊かで良い国という中国人の発言を受けての、貧しくかわいそうな中国人を養子に迎える善行を行なう恵まれた日本人、に収斂するお話……。人情話、美談を作るためにいろんなものが犠牲にされてて、原作からこうなのか、端折って無惨なことになったのか。八話もシングルマザーを支援に繋げる話はいいんだけど、虐待を始めてしまった母にこのままだとあんたは子供を殺してしまうかもしれない、子供を捨てろ、と言うセリフ自体はありだと思うけど、それを子供と一緒にいる時に言うのは人の心がなさすぎてびっくりした。このアニメ、尺の関係なのか話が薄味だし、ところどころ破滅的に無神経で、根本的にやる気がないように感じる。10話の修復的司法のエピソードはわりに良かったと思うけど。五話の原作にあたる本は手元にあるので、読んだらここに加筆するかも知れない。<01.18追記>というわけでアニメ五話の原作中篇を読んだけど、やはりアニメがそうとうまずいと思う。原作の序盤、安価なカップ麺などにどれだけの血と汗や涙が注がれてるのか、というくだりや、「無関係」という言葉が反復される意味が完全に抜け落ちてしまっている。技能実習生制度は中国の都市と農村の戸籍の分断による格差で生まれた貧困を利用して、日本人もやらないような低賃金労働をさせている貧困ビジネスなわけで、当然日本も受益者だし250人に連帯責任を負わせているのも日本だと明示されているのに、この日本の当事者性がアニメではかなり薄められた。そして「無関係(メイクワンシー)」という中国語のフレーズが幾度か反復されるのは、もちろん実習生制度に関与している日本、そしてクーが働く池袋の店が売春の仲介所ということとか、リンも実習生の仲介で中抜きしている搾取の当事者そのものだということもろもろ含んで反語的に用いられていて、池袋で起こることに無関係なことなどない、とマコトが思うことに帰結する。リンがマコトの母に自分の半生を話したのは、養子展開の導線として意図したものだったくだりもある。リンの描写がアニメではだいぶ表層的になってる印象だ。そういう、一見恵まれているように見える日本も、技能実習生らの血と汗と涙を犠牲にした上にある、この表と裏というのがリンも含めた今作の仕掛けではないか。なのに原作にない「この問題だらけの国に住んでいても、俺たち日本人は恵まれてるんじゃないか」と締めるのは作意を逆転させてしまってる。原作のロジックとしてはカップ麺のくだりのように、貧困ビジネスは日本にいるマコトたちも他人事ではないからこそクーを養子にするということになるけれど、これがアニメでは極端にぼんやりしてしまっていて、あるいは反語のつもりかもしれない語りが文字通りにしか受け取れなくなってる。中篇を一話にするという尺の問題もあるけれど、尺の問題以前ではないか。原作ではカップ麺がタコ部屋奴隷労働の象徴として用いられたのに、アニメではリンが日本のラーメンを褒めていて、中国人に日本の豊かさを評価させるというのも、無理解ぶりが甚だしい印象を強めている。

今年見た過去作品

ソ・ラ・ノ・ヲ・ト
アニメが少ない時期ににGyaOの無料配信で見た。神戸守監督、吉野弘幸構成、A-1 Pictures制作の2010年作品。これは良かった。停戦下の軍人の少女たちを題材にラッパ吹きが終末ではなく停戦の音を奏でる。筋は概ねラスト二話に集約され、多くが日常描写のなかの戦争の傷跡をたどる作りが良い。音が繋ぐ縁への希望。一話を見た時、横溢する水の主題だ、と思ったけど、ノエルとアイーシャの場面は分割線を越えて触れあう二人の背後に暖炉の火が燃え皆は涙を流していて、停戦の場では炎の乙女が雪原に舞い降りることで「雪解け」を迎え、人の命を支える水が生まれる、というエレメントが配置されてる。一話と最終話で季節が冬へとなったのとあわせて、伝承とともに「炎」の意味が逆転してもいる。カナタが川に落ちるシーンで陽が沈むのは最終話の建物の上のカナタに陽が当たるシーンとの照応か。細かい芝居をよく動かす作画、各回の脚本、音楽、砦の街の雰囲気が良かったですね。一話冒頭三分ほどで感じた名作のオーラは間違いではない作品だった。一話のほかにも溺れた話とか梅雨とか精霊流しとか台風とか何かと水が鍵になる印象があって、唐突な感じのあるトイレ我慢する話もきっとそれに違いない。ポストアポカリプス的な遺物に日本が感じられたり、七話の夏と戦争のモチーフなんかとても日本的な戦争テーマにも思える。七話は戦争の記憶はそう他人に話せるものではないというちょっとした溝があって、カナタにあなたはいつでも伝えようとする、思いを言葉にすることを恐れない、というフィリシアが印象的だった。十話旅立ち前のラッパの合奏、ここがひとつのクライマックスにもなってて特にいい場面だった。最終話のあの曲が聴きたくてサントラを買った。

●邪神ちゃんドロップキック
今年二期をやっていたけど、abemaで無料配信していた一期を見た。半裸の蛇の邪神が召喚されて繰り広げるドタバタ百合?アニメで、感想もほとんどメモってなくて特に言うことはないんだけどこれは面白かった。帰宅部活動記録の佐藤光監督ノーマッド制作の漫画原作アニメ。ノーマッドふたりはミルキィホームズVENUS PROJECT -CLIMAX-のスタジオでもあったか。11話、唐突な歌が上手いの面白すぎるでしょ。これが今年いろいろなアニメで歌唱力を披露する鈴木愛奈か。最後風船で宇宙まで飛んでくのなんだこれはと思ったけどOPで宇宙からドロップキックで落ちてくるところに続く最終回。すごいオチだ。このどつきあいギャグの暴力性がリョナ趣味と隣り合ってる百合作品という線で見ると近いものにキルミーベイベーがある。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序、:破、:Q
完結篇放映間近とのことでそれまでの劇場版が全作無料配信されていた。序と破は去年見ていたけれど、記事にまとめてないのに気がついたので、今年見たのはQだけとなる。序と破は、エヴァ特有のトラウマ心理劇的要素は影を潜め、TV版の良いとこ取りで盛り上がり所をガンガンに詰め込みましたという圧倒的エンタメ感は見やすくて良い。リデザインされたメカ、使徒、アクション。使徒はCG時代を反映するようにより幾何学的に不気味になり、同時に血を流す生々しさを付加されて、また別の感触がある。TV版の展開、作画をなぞりながら、特に食事会まわりはえぐい展開にするなと思ったら、シンジとレイの物語としてポジティブな解決をみせてきたのは感慨深い。ここまでの新劇場版エヴァ、TV版序盤の健康的なロボットアニメ活劇を前面に押し出す感じ。
 と思えばQ。これはあのエヴァが帰ってきた。序破がシンジとレイの物語としてまとまってた感からするとここでこの落としぶりはなかなかのもので、Qで酷評が凄かったというのもわからないではないけど、だってエヴァじゃんこれ、って。旧作をスケール大きくして概ねなぞってる感じがある。破の最後は確かにサードインパクトだったから、そりゃこうなるか。見たことがあるような場面が別の仕方で再演されてる感もなかなか面白く、アスカがレイに置き換わってるような場面もあった。13号機のカプセル、AKIRAオマージュなのかな。原画陣もだけど動画参加した会社が日本の制作会社総力戦みたいなクレジットで圧倒的。最近放送作家として活躍している儀武ゆう子がいるのは笑った。

年間アニメ話数10選

これは今年のアニメ10選に入れなかった作品から選んだ。理由はだいたい本文に書いた。

マギアレコード三話
22/7 七話
つぐもも二期三話
白猫プロジェクト七話
超電磁砲三期15話
ジビエート二話
炎炎ノ消防隊二期17話
ストライクウィッチーズ三期六話
ノブレス七話
いわかける九話

2020年アニソン10選

一作一曲で選ぶとこう。

TrySail ごまかし(マギアレコード)
Mashumairesh!! まっしろスタートライン(ましゅまいれっしゅ)
佐々木李子 Good Night(防振り)
sajou no hana 青嵐のあとで(超電磁砲
海野高校ていぼう部 釣りの世界へ(ていぼう日誌)
angela 乙女のルートはひとつじゃない!(破滅フラグ)
ラピスリライツ・スターズ 私たちのSTARTRAIL(ラピスリライツ)
ChouCho 灰色のサーガ(魔女の旅々)
一柳梨璃&白井夢結 Heart+Heart(アサルトリリィ)
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 NEO SKY, NEO MAP!(虹ヶ咲)

今年のアニメ関連楽曲としては、リステージの関連ミニアルバムや、八月のシンデレラナインの「真夏のサイレン」、上田麗奈の「Empathy」などを聴いていた。

●おわりに
通年アニメはミュークルドリーミー以外も引き続きプリチャンを見ていて、おしゃまトリックスがライブデビューしたのが感慨深い。プリキュアは最初ワンクールほど見たあたりでピンときてなくてそこまでしか見ていない。トータルで見たアニメはショートを入れずに全部で120本くらいだろうか。

年末に一気に書いてるものだから、年始のものほど記憶が薄い状態で書いてるのがややバランスを欠くところがあるけど、年末という時限がないと書きはじめられないのも正直なところ。結局一日オーバーしてしまったし。見たのに存在を忘れてる作品もあるかも知れない。

今年もアイドルアニメがやはり強いなと思った。私たちには夢も未来も金もないけど、フィクションの世界では力強く夢を見てくれると嬉しい。