今年読んだ本を10冊プラス10冊挙げてみる。
- 上田早夕里『深紅の碑文』早川書房
- オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』白水社
- 木村友祐『イサの氾濫』未來社
- 笙野頼子『会いに行って 静流藤娘紀行』講談社
- 藤野可織『ピエタとトランジ〈完全版〉』講談社
- テッド・チャン『息吹』早川書房
- 林京子『祭りの場・ギヤマン ビードロ』講談社文芸文庫
- パウル・ゴマ『ジュスタ』松籟社
- 石川博品『ボクは再生数、ボクは死』エンターブレイン
- イボ・アンドリッチ『イェレナ、いない女 他十三篇』幻戯書房
- もう10冊
- ライター仕事
- 最後に。
上田早夕里『深紅の碑文』早川書房

- 作者:上田 早夕里
- 発売日: 2013/12/19
- メディア: 単行本
上田早夕里『深紅の碑文』『夢みる葦笛』 - Close To The Wall
オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』白水社

- 作者:オルガ トカルチュク
- 発売日: 2010/10/19
- メディア: 単行本
オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』とその目次 - Close To The Wall
木村友祐『イサの氾濫』未來社
表題作は、東京で転職を繰り返してた男が震災を機に地元東北で荒くれ者として知られていた叔父イサについて調べながら、東京からもこぼれ落ちる「まづろわぬ人」として己を自覚し北からの怒りを叫ぶ叛逆の狼煙だ。切り捨てられる地方からぶつけられる濁音の響き。木村友祐『イサの氾濫』『幸福な水夫』『聖地Cs』 - Close To The Wall
笙野頼子『会いに行って 静流藤娘紀行』講談社

- 作者:笙野 頼子
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: 単行本
笙野頼子『会いに行って 静流藤娘紀行』 - Close To The Wall
藤野可織『ピエタとトランジ〈完全版〉』講談社

- 作者:藤野 可織
- 発売日: 2020/03/12
- メディア: 単行本
百合ラノベ、百合SF、百合ミステリその他、百合小説約30冊を読んだ - Close To The Wall
テッド・チャン『息吹』早川書房
日本では17年ぶりの著者二つ目の作品集で、あえていうまでもなく面白い。特に異世界で科学が世界の不穏な真実を解き明かす大ネタのものや、SF的アイデアがきわめて日常的になった世界での人間性を描き出すものが印象的で、いずれも人間、知性とは何かを問う。『傭兵剣士』『あがない』『息吹』『年刊日本SF傑作選』その他最近読んだ諸々 - Close To The Wall
林京子『祭りの場・ギヤマン ビードロ』講談社文芸文庫

- 作者:林 京子
- 発売日: 1988/08/04
- メディア: 文庫
原爆、引揚げ小説四冊 - Close To The Wall
パウル・ゴマ『ジュスタ』松籟社

- 作者:ゴマ,パウル
- 発売日: 2020/11/01
- メディア: 単行本
パウル・ゴマ『ジュスタ』 - Close To The Wall
石川博品『ボクは再生数、ボクは死』エンターブレイン

- 作者:石川 博品
- 発売日: 2020/10/30
- メディア: 単行本
石川博品『ボクは再生数、ボクは死』 - Close To The Wall
イボ・アンドリッチ『イェレナ、いない女 他十三篇』幻戯書房

- 作者:アンドリッチ,イボ
- 発売日: 2020/10/26
- メディア: 単行本
イボ・アンドリッチ『イェレナ、いない女 他十三篇』 - Close To The Wall
もう10冊
10選ぶと上のようになるけど、もうちょっと挙げておきたいのがあったので延長線。
セアラ・オーン・ジュエット『とんがりモミの木の郷 他五篇』岩波文庫

- 作者:ジュエット,セアラ・オーン
- 発売日: 2019/10/17
- メディア: 文庫
中里十『君が僕を』ガガガ文庫

- 作者:中里 十
- 発売日: 2009/07/17
- メディア: 文庫
上掲二冊は以下の記事に本文あり。
百合ラノベ、百合SF、百合ミステリその他、百合小説約30冊を読んだ - Close To The Wall
青来有一『爆心』文春文庫
長崎に住む人々を描く六篇の連作集。必ずしも原爆の被爆者ではない語り手を置くことで、土地に根付く歴史と記憶の断面がかいま見える、長崎に生きるということについて書かれている。浦上天主堂が表紙にあるように、原爆とカトリック、キリシタンが基調の連作だけれど、他にも共通するのは家族の崩れが描かれていることで、原爆という切断、空白、途絶の影響はカトリックの信仰にも家族にも亀裂を入れる。
原爆、引揚げ小説四冊 - Close To The Wall

- 作者:藤枝 静男
- メディア: 文庫
藤枝静男『凶徒津田三蔵』、『或る年の冬 或る年の夏』 - Close To The Wall
倉数茂『あがない』河出書房新社
『傭兵剣士』『あがない』『息吹』『年刊日本SF傑作選』その他最近読んだ諸々 - Close To The Wall

- 作者:コンゴリ,ファトス
- 発売日: 2020/04/30
- メディア: 単行本
ファトス・コンゴリ『敗残者』 - Close To The Wall
アドルフォ・ビオイ=カサーレス『モレルの発明』水声社

- 作者:アドルフォ ビオイ・カサーレス
- メディア: 単行本
薄い本を読むパート2 - Close To The Wall
石川宗生『ホテル・アルカディア』集英社
コテージに閉じ籠もった女性プルデンシアを外に出すために、ホテルに泊っていた七人の芸術家が数多の物語を語っていく枠を持つ連作掌篇集で、『千夜一夜物語』と天岩戸を思わせる設定通り、奇想小説のなかにさまざまな世界文学を思わせる言及が織り込まれてもいる。
石川義正『政治的動物』河出書房新社
1979年から2017年までに日本語で発表された小説のなかの「たがいに他者同士である形象」としての動物たちを、「社会の周縁に排除されてきた女性やマイノリティ、障碍者、そしてさまざまな被差別をめぐる形象」に近づいたものとして捉える批評で、特に第一部はほぼ女性作家論集にもなっているのはテーマからも必然的な構成だろう。
エリック・マコーマック『雲』東京創元社

- 作者:エリック・マコーマック
- 発売日: 2019/12/20
- メディア: 単行本
上掲三冊は以下の記事に本文あり。
秋から年末にかけて読んだ本 - Close To The Wall
ライター仕事
今年は以下の二冊の書評を図書新聞に書いた。
オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』
図書新聞にトカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』の書評が掲載 - Close To The Wall
今日あたり発売の図書新聞2020年3月7日号にて私のオルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』の書評「繰り返されないすべてのものたちの時間」が掲載されています。よろしくお願いします。以下ブログに参考文献など補足しました。https://t.co/cQDV2ykh0D pic.twitter.com/2g529SkH5W
— 東條慎生になりつつある (@inthewall81) 2020年2月29日
荻原魚雷『中年の本棚』紀伊國屋書店
図書新聞に荻原魚雷『中年の本棚』の書評が掲載 - Close To The Wall
図書新聞の今日発売の11/7日号に、荻原魚雷『中年の本棚』の書評が掲載されています。古書店通いを日課とするライターが、四〇代から五〇になる頃、中年としての生き方を多彩なジャンルの本に探し求める読書エッセイでなかなか面白いです。そして著者オススメの星野博美は確かに良かった。 pic.twitter.com/QThoGEAMfD
— 東條慎生になりつつある (@inthewall81) 2020年10月31日
最後に。
この記事で笙野頼子の一作を挙げるにあたって付言しておかねばならないのが以下の一件について。
あえて書くけど、笙野頼子さんの反「トランスジェンダリズム」を掲げたサイトに載った文章、どういう問い合わせの返事なのか引用かどうかなど文脈文責が不明瞭だけど、トランスと痴漢を同一視するかのような「侵入派」というマイノリティ加害的な言葉遣いなど、かなり支持できないものだと思います。
— 東條慎生になりつつある (@inthewall81) 2020年10月20日
ネットでは以前からあったものの、お茶の水女子大でのトランスジェンダー学生の受け入れ決定を機に反トランスジェンダーの勢力が活発化したり、「現代思想」掲載論文が反トランスだと批判された件などはある程度知られているかと思う(ものとして以下進める)。そんななか上掲の発言があり、ここ数年笙野さんから著書をお送り頂いていて、折に触れ作品を読み、感想をブログにも上げて積極的に支持していた読者ゆえにこそこれは看過するべきではないと思い、上記のように反対の旨を表明した。そうすると笙野さんからメールを頂いていくらかやりとりしたのだけれど、その文面は私には差別主義としか評価できないものだった。それなりに理解できる議論も含まれつつも、全体的にはいかに男性特権を持ってうまれた「強者」のトランス女性が女性という「マイノリティ」の脅威となっているか、という視点からのみ世界の情報をパッチワークしてできあがった、おぞましいヘイト言説としか思えない。私信の内容を明かすことはしないけれども、こうも典型的に差別のロジック、それもレイシズムに酷似したロジックを使ってしまえるという差別への警戒感のなさには唖然とした。「女性」性を身体に還元し、その「女性」のわずかな不利益になるかも知れない可能性を全力で排除し、それがいかに自ら望んだものではなくとも男性性を持つ者を排除すべきだという、セクシズムを根底に持つ、フェミニズムを仮装した差別主義というほかない。男性を叩くための、女性の側からのセクシズムではないか。巷間TERF(トランス排除的ラディカルフェミニスト)と呼ばれるスタンスが性被害や現存する女性差別への抵抗としてあるとはいえるけれども、差別主義にもとづいた言論は人権というフェミニズムの正当性が依拠する基盤そのものの破壊でしかない。「トランスコリアン」などといいだした反トランスの人がいるけれども、差別的発想がベースにあるからそりゃそうなるだろうし、トランス排除の言説はアイヌ民族を「自称アイヌ」などといってアイヌ差別を繰り返すレイシストの言説そっくりだった。氏が撤回などしない限り、以後、私にとって笙野頼子はこのトランス差別の問題を別にして評価することは難しくなった。私に送られてきたネット右翼のレイシズム言説のごときメールは、二十年近く読んできた私の氏に対する印象を破壊するに充分以上の力があった。
付言すれば、ツイッターでフェミニズム的な言動する人やリベラルな論者のなかには結構な割合でセクシズムとしか思えない発言をするものがおり、TERFと非常に親和的でじっさいに一部は同居している、というのが私の感想だ。「萌え絵」についての議論において、二言目には女性の作り手に「名誉男性」といいたそうな連中……。以前、氏の小説について、「萌え文化が非常に一方的に男性による女性への暴力として戯画化されているのは気になる」と書いたことがあるけれども、その延長にこの事態はあると思っていますよ私は。だから以前から懸念自体はあったといえるけれども、しかし。
笙野頼子 - 人喰いの国 - Close To The Wall
百合ラノベ、百合SF、百合ミステリその他、百合小説約30冊を読んだ - Close To The Wall