佐伯昭志監督 - 放課後のプレアデス

放課後のプレアデス / SUBARU x GAINAX Animation Project
まだ折り返し点、半クールしか放映していないけれども、傑作なのにもかかわらず思ったより見られていない感じがするので、早めに記事を書く。アニメ作品単独で記事を上げるのは「戦国コレクション」以来三年ぶりという点で、思い入れを察して頂くと同時に、つまりは現時点でも個人的には数年に一つとかそういう作品。

これは元々2011年にyoutubeで公開されていた計約20分のOVAが、ようやくテレビシリーズとしてスタートしたもので、長年かかっていたのがうかがえる完成度になっている。

魔法使いとSF・理科的な詩情

話はいわゆる魔法少女もの(劇中では「魔法使い」)で、五人の中学生の少女が、プレアデス星人の乗ってきた、壊れた宇宙船のエンジンのかけらを集めるために協力していこう、というあらすじ。自動車メーカーのスバルとガイナックスの共同企画のため、少女たちが乗るのは、ほうきならぬエンジン音も喧しいドライブシャフトというアイテムになっており、またスバル=プレアデス星団にちなんで主人公のすばるは天文マニアで、物語も月はもとより土星へと範囲を広げるSFファンタジーでもある。

とりあえずある特定の層にパッと伝わる言い方をすると、アニメ「ストライクウィッチーズ」の一期と二期でエイラ・サーニャ*1のコンテ脚本(演出)をやった佐伯昭志が今作の監督で、その監督が脚本演出(連名で)をして、エイラの声優大橋歩夕がやってる役が主人公と仲直りする第二話が、佐伯回を思わせる百合めいた傑作回なので是非見るべき、というか。今作は「ストライクウィッチーズ」佐伯回からミリタリーと過剰なエロさを抜いてメルヘンと天文を足したような作風といえばいいだろうか。

この二話ですね、二話。一話は、youtube版の設定を変えたリテイクに近いところもあって、助走という感じで見ていたのだけれど、二話の出来の良さと演出に感嘆したのが、居住まいを正してみるきっかけだった。縁が遠くなってしまった友達と、「魔法使い」になってかけらを集める、ということで再会したはいいものの、しこりを残したままだったのが、ちょっとしたきっかけと、昔の良く歌った歌でコンビネーションを働かせることで仲直りする、というのをうまく描いていたのがこの話数で、しかも引用しているのが宮澤賢治星めぐりの歌」、というセンス。理科的イメージを取り込んだ詩情ということ。

この、理科的な詩情ということでは特に四話「ソの夢」が突出していて、音楽が全体のキーになっているばかりか、話全体を非常にメルヘンに仕立てていて、SF的ロマンとメルヘン的世界観をうまく溶け合わせていた。聡明で天才肌な子の、小さな頃からの小さいけれども大きな悩み、を宇宙的スケールで描き出す、近年まれに見る傑作。よく、宇宙に比べれば人の悩みなんて小さい、というけれど、本作はそういう「アフリカに比べれば日本の貧困は理論」ではなくて、宇宙スケールのなかで子供のちいさい悩みを解きほぐしていく、とても優しい作品になっているのがいい。脚本がもっとも秀逸なのがこの回だろうか。かなり練り込んだのだろう、三人連名の脚本はあまりみたことがない。セリフのやりとりも印象的。

最新の科学データでの背景

夢で月を食べるメルヘンの四話から、天体をデザートにたとえる五話は、最大のSF度の濃さで、監督の発言にもあるように、国立天文台の監修の元、最新の天文学知識を元にした、土星の輪のウェイク構造を反映したCGモデルで背景を作っているというから驚きだ。しかも、かけらを探すやりかたが、輪のなかで模様の疎密が変わるプロペラ構造を利用したものだったりして、マニアックな天文知識を導入しているのが面白い。

4D2U Project Website
SF、魔法、メルヘン、をかけあわせて、ダイナミックで、なんでもありの展開を実現させているのがうまい。特にこの回は背景だけではなく、キャラクターのCGと作画をかなり違和感なく溶け込ませていると思う。顔を映すシーンとかは作画だろうけれど、動きのある所とか遠景とかはCGのはずなのに、その継ぎ目がよくわからないくらいになっている。序盤だともっと違いが分りやすかった。

児童文学的構成

深海と宇宙空間を遊泳で繋ぐダイナミズムと、何者でもない未熟な自分たちを描く繊細さの三話もいいんだけれど、細かいことを書き出すと長くなるのでやめておくとして、全体として非常に出来が良い。キャラがかわいくて、作画が良くて、というアニメはたくさんあるし、今作もその点ではかなり良いし、話も面白い、感動的なというのもまああるんだけれど、ここまでポエジー、リリシズムで正面から殴ってくる作品は、そうはなかったと思う。二話と四話の傑出ぶりといったらない。ライバルが居ても、悪や敵がいないという全体に優しい雰囲気なのも、とてもいい。

一話見返すと、未熟で未完成な自分たちが何者で何なのか、という子供の自意識と不安を丁寧に扱った作品だというのがよくわかる。放課後、とかに象徴的だけれど大きなフォーマットが児童文学なんだな、これ。すばるとあおいの友情・百合っぽいやりとりと、不思議な少年みなと君との初恋めいた出会い、そしてみんなとの空への冒険、と確かにこれは秀逸な配置。
放課後だけの魔法使い!すばるとなぞの少年 GAINAX(原著) - 学研教育出版 | 版元ドットコム

放課後だけの魔法使い!すばるとなぞの少年

放課後だけの魔法使い!すばるとなぞの少年

配信等

「放課後のプレアデス」1話~5話振り返り上映会 - 2015/05/16 20:00開始 - ニコニコ生放送
ニコニコ生放送の一話から五話の一挙放送の方では、アンケートで良評価がまあまあ納得の95%だった。お前ら通常放送では傑作の二話に74%とか、四話に84%とかだったじゃねーかくそが。プレミアム会員ならタイムシフトで今週土曜まではまだ見られます。以下ウェブ配信。
「放課後のプレアデス」 | バンダイチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/sbr_gx
怠惰な視聴者なので私はアニメって二度見ないのに、全話二周以上したのは「ゆゆ式」が「カブトボーグ」以来だったという話は前にもして、「戦国コレクション」も個々の話数では二回三回見ている話も少なくないけれど、四回以上見ているとなると「ミルキィホームズ」一期の四話以来、「アイドルマスターシンデレラガールズ」の十一話が久しぶりでこれは今年最高だと思っていたら、プレアデスは二話以降はだいたい四回以上見ているので本当に記憶にないなあ。まあ、この好みに応じてこの記事の評価を判断して下さいと。

さすがにディスクは買えないので、柄にもなくドラマCD付き特装版なんてものを買ってしまった。アイキャッチで定評のある作家による漫画版。しかし、水着表紙ってさすがに……。特装版って別に通常版の表紙が付いている訳じゃないんだよね。表紙だけこっちにすることはできないんでしょうか。


配信第六話見たら、半クールかけてyoutube版に合流する流れでビックリするとともに、メカデザインで貞本義行が参加していて、やっぱりガイナックスじゃねーか、って。動画でエヴァに参加したのが佐伯監督のキャリアスタートで、元ガイナの高村監督の「ストライクウィッチーズ」もエヴァっぽさあったし、プレアデスもやっぱりガイナックスだなーってなったなあ。

幾多の魔法少女アニメに賞を与えてきたあるSF賞はこれをスルーなんてことはないとは思うんですけれども……

5/26 twitterの発言者を分かりやすくするために記事を整え、ボタンを設置(ボタンを設置しないとtwitter埋め込めないというはてだ仕様のアレさ)。

*1:ニコ動で改めて課金視聴してみたら、この二話は期をまたいでほとんど続篇みたいになっていて、どちらも非常にロマンチックな話だったし、やっぱり歌の演出がどっちも非常に印象的な話でやっぱり作家性みたいなのが強烈に感じられるし、いくつかのモチーフ、演出が今作に持ち越され、あるいは応答を果たしている。