生命の起源と地球外生命の可能性 - 長沼毅「生命の星・エウロパ」

http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200803211858&page=2
土星の衛星タイタンの地下には海があるというのは前々から言われていたけれど、今回、データの裏付けがとれたと言うことでニュースになっている。このニュースを見て、ちょっと前に読んだこの本を思い出した。

生命の星・エウロパ (NHKブックス)

生命の星・エウロパ (NHKブックス)

長沼氏の本については以前にも紹介したことがある。
長沼毅「深海生物学への招待」 - Close to the Wall
前著では海底の熱水噴出孔生物群集の間近に迫る深海探査を取り上げ太陽を必ずしも必要としない驚くべき生態系の存在を取り上げ、彼らこそが地球最初の生命であり、生命の起源にかんする重大な手がかりなのではないかという考察を行っていた。

生命の起源 - Wikipedia 表面代謝説の項を参照

そしてこの本では前著で探査、考察した、光合成ではなく化学合成によって成立する生態系である深海底の熱水噴出孔生物群集の例をはじめ、地球のバイオマスのかなりの部分を占める地中の生態系、などなどの地球の極限環境で生育する生命たちの存在によって太陽のみにとらわれない生命の多様性を示し、地球の極限環境と共通点の存在するエウロパ環境にも、生命が存在できる可能性はあるのではないか、と推測する。

一般に、生命が生存するためには豊富な太陽光と、水と酸素が必要だと考えられているけれど、生命の可能性はもっと大きく、多様だということを実感させられる。もちろん、生命があるとしても微生物などのようなものである公算が大きいだろうけれど、「地球外生命」の現実的な可能性には心躍る。

地球外生命の可能性に思いをはせると同時に、地球の極限環境についての解説も非常に面白く、地球を精査することで同時に地球外生命の可能性が浮かび上がってくるという地に足のついた構成が見事で、いってみれば素晴らしいサイエンスフィクションでもある。


で、以下ちょっと自分の知識に自信が無いので詳しい人のツッコミがあるとありがたい。

私が生命の歴史のなかでとてもワンダーだと思うのは、生命はほぼすべてDNA、RNAの自己複製システムを用いていて、遺伝子を遡っていけば、地球の生命はすべて単一の系統に属すということになるらしいということだ。言い換えると、生命は地球では一回した誕生しなかった。

これは、旧来説かれていた各地の原人などがそのままその場所で人類に進化したという説が否定され、いまや現生人類がアフリカ起源の単系統に属しているという説が極めて有力になっていることを考えると分かりやすい。

生命のシステムとしてDNAシステム以外の生命はとりあえず地球にはない。とすると、地球外生命の複製システムはいったいどんな代物なのかがとても気になってくる。もし、エウロパその他で地球外生命が発見されたとして、それがDNAシステムの生命だとすると、生命の起源の宇宙起源説というのが有力になってくるだろうし、だとすると、この宇宙における生命というのは皆DNAシステムなのか、という疑問が出てくるのではないか。生命すべてがDNAシステムだとすると、ではDNAシステムというのはいったい何なのかと、とてつもなくミステリアスになってくるんじゃないだろうか。

地球生命を単系統と言っていいのかどうかよくわからない。あまりそのことに明示的に触れた文章を読んだ覚えがないな、と思っていまちょっと検索したらちょうどこんなのが見つかった。
長沼毅先生取材レポート
南極での五十年に一度の大規模調査に先だって、調査の国際リーダーに就いている長沼氏へのインタビュー。

この本の内容とも重なっていて、これ自体面白いので是非読まれたし。とりあえず一応地球生命は単系統といっていいみたいだ。けど、それ以外の部分はどうだろう。私の文章と関係あるのはここ。というか、長沼センセイ、ずいぶん巨大なプロジェクトのリーダーになってるんだなあ。