The Flower Kings - Scanning The Greenhouse

スキャニング・ザ・グリーンハウス

スキャニング・ザ・グリーンハウス

スウェーデンプログレバンド、ザ・フラワー・キングス、通称「花王」の98年リリースの初期ベスト盤。フラワー・キングスは元々70年代スウェーデンで活動していたプログレバンドKAIPAのギタリストだったロイネ・ストルトが、94年に発表したソロアルバム「The Flower King」をきっかけに、その作品に参加したメンバーを中心にフラワー・キングスを結成。以来、95'「Back In The World Of Adventure」'96「Retropolis」、'97「Stardust We Are」と毎年のようにアルバムをリリースし、現在も活動中。

リーダーロイネ・ストルトは、フラワー・キングス以外にも再結成KAIPA、The Tangentなどのプロジェクトや、Spock's BeardのNeal Morse、MrillionのPete Trewavas、そしてDream TheatreのMike PortnoyとTransatlanticを結成したり、九十年代以降のプログレ界における最重要人物の一人だろうと思われる。

実はこれに収録されている曲のうち、ロイネ名義の「The Flower King」以外は持っているので、あんまり買う気はなかったのだけれど、ちょうど千円くらいで中古を見つけたので、再レコーディングされた二曲のために買ってみた。

今作はベストといいながらも全七曲、しかし収録時間はCDいっぱいの77分と、一曲十分以上は当たり前のプログレ仕様。四年間の四つのアルバムから、各作品のタイトル曲など、核となる曲ばかりを選んだために、重量級のアルバムとなり、知らない人のためのイントロダクションとして適当かどうかは不思議。

プログレ、といいながらも九十年代以降のバンドなので、当時の「プログレ」と呼ばれているジェネシス、イエス、といったバンドのやっていたような音楽を継承している。そのため、今にしてみれば時代遅れといっても良いかも知れないが、七十年代当時のプログレに嵌った人なら、非常に楽しめる音楽をやっているバンドだろう。

スティーブ・ハケットやアンディ・ラティマーあたりに影響を受けてそうな、ロイネのギターワークに、アナログキーボードを駆使した柔らかなサウンド、そこにジョン・ウェットン風のヴォーカルが乗る。そこでは肯定的、ユートピア的な優しげな世界観が繰り広げられていて、イエスのジョン・アンダーソン的とも言えるポジティブなスタンスが伺える。

このバンドの凄いところはいくつかあるが、その一つは、プログレといっても基本はポップな歌にあるところをわきまえたヴォーカル面での充実だろう。そこはイエス的だ。このバンドは歌メロがすばらしい曲がいくつもあり、優しげで叙情的なメロディラインが光るバンドでもある。それを充実した演奏陣がテクニカルなインストパートで固めて、歌としてもロックインストとしても聴き物のクオリティの高い曲を作り上げる。

この「質」に加えてより驚異的なのはその楽曲生産量で、毎年のようにアルバムを出しながら、ディスコグラフィを見ると現在までの10作中4作までが二枚組でCD容量の限界に挑戦するような収録時間であり、それ以外にも多数のバンドやプロジェクトにかかわり、その仕事中毒ぶりは恐ろしいほど。

私はまだ初期の三作しか聴いていないけれど、少しずつアルバムを集めていくのが楽しみなバンドだ。

今作の収録曲では、まず第一曲目の「In The Eyes Of The World」がハードなロックンロールで非常に格好いい導入となっている。世間の目には俺は道化師に見えるだろう、というサビを繰り返すこの曲は自身の決意表明のようでリードトラックに持ってきた意味も明らかだろう。「Stardust We Are」の一枚目の一曲目。
二曲目の「World Of Adventures」、通算二枚目のタイトル曲。優しげな歌メロが印象に残るが、インストパートのゲーム音楽のような展開も楽しくファンタジックなフラキンらしい曲。
三曲目、「The Flower King (re-recorded)」はフラキンの原点ともいえる1stのタイトル曲、私はここで初聴。広がりのあるコーラスが被さるやはり優しげな歌メロは聴き物。「Stardust We Are」のフラキンの名バラード「Church of Your Heart」が収録されないのはこの曲と印象がかぶるからかな。
四曲目「There Is More To This World」は「Retropolis」から。
五曲目「Stardust We Are Part3」。元々25分の長尺曲の最終パートを抜き出した物。ライブでもよくこの部分だけを演奏している模様。やはり長すぎたスタジオ版から良い感じに短縮し、かつ歌のパートは演奏を控えめにして歌を生かすアレンジになされていて、これはこれで新鮮。
六曲目「Retropolis」。インスト曲だが、非常に聴き応えのある初期の名曲。途中、オリエンタルなフレーズが顔を出したりしてバラエティ豊かで楽しい。このベストのなかではもっともスリリングな曲調。
七曲目はボーナストラックとしてジェネシスの「Cinema Show」のカバー。

思い入れがあるというわけではないが、しばしば凄く聴きたくなるバンドではある。質量ともに高水準を維持するバンドなので、安心感があり、どれを聴いても楽しめそうだ。


ディスコグラフィと簡単な紹介は以下のサイトが良い。
http://members.jcom.home.ne.jp/j-takahashi-1114/TFK_Disco.htm