Flairck - Sleight of Hand


オランダのアコースティックトラッドバンド、フレアーク。かなりマイナーな存在だと思われる。amazonで「Flairck」「フレアーク」を検索しても計四作しかヒットせず、1985年作のこのアルバムはamazonにない。注文の際にはHMVがお勧め。
http://www.hmv.co.jp/search/artist/000000000042571/

このアルバムはMike Oldfieldの「Moonlight Shadow」や「To France」「Family Man」「North Point」などでヴォーカルを取ったマギー・ライリーが数曲参加していることで、一部の人は知っているかと思われる。私も知ったのはMike Oldfieldレビューのここからだったりする。

基本はトラッドをアレンジしてアコースティック編成で演奏するインストバンドのようなのだけれど、今作では打ち込みドラムなどを使っていて80年代的サウンドが聴ける。アコースティックサウンドとの取り合わせが微妙な部分もあるが、演奏のテンションが高くテクニカルなアンサンブルはいわばアコースティックプログレといえる部分もあり、プログレファンに受けているバンドでもあるらしい。

またマギー・ライリーが参加した曲は、打ち込みサウンドもあいまってかなり80年代Mike Oldfieldっぽくて楽しめる。しかし、この打ち込みドラムやマギー・ライリーの参加はこのバンドとしてはかなり異色のアプローチのようなので、このバンドの代表作というには語弊がある。このバンドに打ち込みサウンドは不要だと思う。

メンバーは皆楽器を複数演奏するマルチプレイヤー。ただ、このアルバムでは各人二つ程度に抑えている。バイオリン、ハープで一人、フルート、パンパイプで一人、ギター、ブズーキで一人、ダブルベースというのが一人、チェンバロ、パーカッションが一人。そしてヴォーカルマギー・ライリー。あとフェアライトのプログラミングがクレジットされている。


一曲目はトラッドをアレンジした曲で、マギーがヴォーカルを取る。雰囲気的に「North Point」ぽくもある。

次曲のタイトル曲、日本語にすると「スライハンド」はいきなりハイテンションのアンサンブルが炸裂するアップテンポな一曲。フルートの速いパッセージが聴き物。アコギの素早いカッティングの後、フルートがリードする非常に印象的なメロディが奏でられる。フルートとバイオリンのデュオがメロディを変奏したり、またもアコギを挾んだり、パイプのような音色も聞こえたり、中盤以降のめまぐるしく展開が変わるなかもハイテンションの演奏が持続する様はすさまじい。ちょっと笑ってしまうほどの演奏だ。アコースティックサウンドと聴いて退屈なんじゃないかと思うロック好きはこれを聴いてひっくり返れ。

三曲目はゆったりとパイプかフルートかが平原か森かという自然のイメージを想起させる印象的なメロディが光る。

四曲目と五曲目はマギー・ライリーによるヴォーカルソング。四曲目は前曲からのメドレーで始まり、わりとポップでOldfieldのアルバムに入れてもOKなような雰囲気で良曲。間奏のフルートが良い。次曲はぐっと落ち着いたミディアムテンポの歌で、これも水準作。

六曲目はアコギとハープの伴奏にバイオリンとフルートが入る。後半、突如リズム隊が加わり、テンポアップしハープの早弾きが披露される。またもやフルートによるメインメロディが奏でられ、最後はどんどんテンポが速くなり、爆発音みたいなSEで終わる。

七曲目フルートとバイオリンのテンションの高い演奏が聴ける。これ、変拍子入ってないかな。

八曲目、バイオリンが哀しげなメロディを奏でる小品。

九曲目は一曲目のリプライズ。郷愁を誘うメロディに、メンバーによるコーラスが入って一曲目の歌が戻ってくるところは結構感動的。


ブラックスミス組曲で最初と最後が挾まれていて、最後まで聴くと名盤だなあとため息が出る。トラッド色豊かな美しいメロディ、マギー・ライリーのヴォーカルがすばらしい。さらにはアコースティック楽器の音色がすばらしく、いくつかの曲ではテンションの高いアグレッシブな演奏まで見せてくれるので、ロックフィールドのリスナーも度肝を抜かれるような面を見せてくれるのが良い。

しかし、やはり打ち込みサウンドは邪魔に思えるのと、ヴォーカルが参加したアルバムはこれだけのようなので、これでフレアークを判断するのは早計だろう。(勘違い。ヴォーカルが参加したアルバムは他にも結構あります。)

アコースティックでプログレ的な音といえば、このブログでも取り上げたアコースティック・アストゥーリアスがあるが、アコアスがクラシックよりなのに比べて、フレアークはトラッドよりといえる。アコアス大山氏がフレアークを聴いたらどういう感想を持つのか非常に興味深いところだ。


で、このバンドは最近それまでの活動を総決算する22枚組のBoxセットを出した。興味はあったが流石にいきなりボックスを買うのもどうかと思われたので、まずはこのアルバムから買ってみたのだけれど、かなりの出来だったので、早速ボックスセットを購入。

最初にHMVのリンクを貼ったけど、このボックスセット、22枚組ながらHMVマルチバイ価格なんと9000円を切るという驚愕の価格設定。ボックスセットなんて、ベスト盤にレアトラックをちょっと足して四枚組で一万とかいうのも珍しくないのに、この一枚あたり400円という安さはすごすぎる。EMIから出ているのは2006年リマスターだけど、ボックスセットはさらにリマスターをやり直しているので、このボックスセットがフレアークの音源としてはベストだろうと思われる。HMVで私が注文したときは三週間ほどかかったのだけれど、そのときに複数仕入れたのか、いまは在庫ありで即出荷可能状態になっている。数のあるセットではないと思うので、気になる人はお早めに(宣伝か)。

これからちょっとずつ聴いていきます。

解説とディスコグラフィについては以下を参照。
FLAIRCK
アルバムガイド ロックヴァイオリン−Flairck篇

http://www.flairck.com/