Jethro Tull - Crest of a Knave

Crest of a Knave

Crest of a Knave

トラッドプログレ五つ目、そろそろネタ切れ。トラッドプログレといえばその代表格でフルートをロックに導入したことでも先駆的な存在であるジェスロ・タルを忘れちゃダメだろうということで、タルなのだけれど、つとに著名なトラッド三部作はまたの機会にして、今聴いている「クレスト・オブ・ア・ネイヴ」について。

ジェスロ・タルは英国本国ではかなりの名バンドらしいのだけれど、日本での人気はそれほどでもないみたいなのがちょっと不満ではある。わたしにとっては「ジェラルドの汚れなき世界」はプログレアルバムのなかでもベスト3には入る作品だと確信しているのだけれども。まあ、下品なフルート、小汚いオヤジ、クセの強い作風とあってはそうそう人気は出ないのかも知れないが。

ジェスロ・タルは70年代後期に、トラッド色を強調した三部作を発表していて、それが一般にはブリティッシュトラッド好きにはお勧めなのだけれど、それ以降の作品ではシンセが多用されデジタルな感触が強くなってくるので、作品によっては好き嫌いが分かれるところ。エディ・ジョブソンが参加した「A」などはシンセの嵐で生粋のタルファンには非常に不評な作品だったりする。

で、この「クレスト・オブ・ア・ネイヴ」は87年に発表され、何の因果かグラミー賞のハードロック・へヴィメタル部門の栄えある第一回を、ボン・ジョビ、メタリカを押しのけて受賞してしまったことでも有名な作品だ。確かにハードロックといえばいえるのだが。

作風自体はメロディの感触や曲構成的にもトラッド三部作の頃と似たものがあるので、そのころのファンの人で、80年代以降の作品を聴いていないという人はまずはこれを聴いてみると良いかも知れない。

一曲目はシンセがリフを刻みドラムマシーンを使っていて、ハードなデジタルロックといった感触があり、面食らうかも知れないが、変わらぬイアン・アンダーソンのメロディセンス、マーティン・バーのギターなどはいかにもタル調でなかなかの佳作だ。

二曲目はアンダーソンのフルートとバーのギターが大活躍するタルの真骨頂。最初緩やかにフルートでトラッドな雰囲気を出しつつ始まり、徐々にハードになっていき、中間部のインストパートでは、ギターとフルートの激しい絡みが聴くことができる。

三曲目、これもハードな路線だが、今度はフルートがソロパートで活躍。もちろんギターも負けずに弾きまくる。一曲目のシンセ色が強い奴より、やはりこういう路線がタルらしいと思う。

四曲目はしっとりしたバラード。アンダーソンの声のせいなのか、メロディセンスのせいなのか、どうにもトラッド的に聞こえる。どんな曲でもタル、という確立した個性がある。

五曲目はタルらしい軽快なユーモアが感じられる佳曲。

六曲目は十分に及ぶ大曲。スローテンポの導入部から、アコースティックで静かな中間部、後半でやっとフルート、シンセ、ギターが入ってくる。しかし、始終ミドルテンポでトラッド三部作の頃の大作のようなドラマティックさはない。結構他の人の評価が高い曲だけれど、私にはあまりぴんとこない。

七曲目はギターもハードなミドルテンポの曲で、フルートが入ってくるとヘヴィながらもトラッドっぽいというタル独特の音になる。しかもタイトルが「山の男たち」。なんて男臭い世界なんだ。

八曲目はトラッド路線の静かな曲。さして目立つわけではないが、これもまたタルらしさ。

九曲目は一曲目のようなデジタル色強めのハードな一曲。シンセがうるさいのがやはり微妙だなあ。

十曲目はボーナストラック。これはトラッド色が強く、アコギも使われているが、ハードなギターがうなるパートもあり、トラッドとロックがうまくミックスされた良曲。トラッド三部作を思わせる作風。個人的には六曲目Budapestの代わりにこれを入れたら良かったのではなどと思っている。


70年代の黄金期の諸作には及ばないとしても、聴き所も多く、タル作品のなかでも上位に位置するアルバムだと思われる。やはり、このバンドはアンダーソンのフルートとバーのギターが肝です。


一曲目「Steel Monkey」PV。オヤジ大集合。

二曲目「Farm On The Freeway」の91年ライブ。アンダーソンのルックスに引かないように。
なお、このアルバムに限らず、2000年以降にリマスターされたタルのカタログはHMVでは740円とかいう破格の値段で買えるので、そっちをお勧め。ただ、トラッド三部作などは時期が悪かったのか輸入盤は全部CCCDのようなので、国内盤を買うしかないようだ。
Crest of a Knave

日本唯一?のジェスロ・タルファンサイト。
j-tull.jp