Soul Flower Union - Winds Fairground

WINDS FAIRGROUND

WINDS FAIRGROUND

キーラ、アルタン、ドーナル・ラニーと来たら、次はもちろんソウル・フラワー・ユニオンのこの「ウィンズ・フェアグラウンド」。これは1999年リリースのサードアルバム。

SFUは日本のロックバンドで、元々はニューエスト・モデルメスカリン・ドライブというふたつのバンドが意気投合して両バンドを解散、集合したことで結成された。1993年にファーストを出してからいまも活発に活動中。

政治的メッセージを隠さない日本で希有なバンドで、反戦平和主義であるといえばそうなのだけれども、このバンドが面白いのは、その音楽がどこまでも日本的であることを隠そうとしないことにある。ヴォーカル中川敬の作る曲やメロディは昭和の大衆歌謡や演歌のような節回しで、最近の音楽を聴く人にははっきりいってかなり受け入れづらい代物だと思われる。私も最初は抵抗があり、ダサイと思っていたのだけれど、そこに慣れてしまえば、親しみやすいそのきわめて日本的なメロディのクオリティの高さに驚かされることになる。

そして、ただ日本的なだけではなく、このバンドは世界の境界的な音楽を積極的に取り込んでどこまでも雑種的であろうとする非常にアグレッシブな性質も持っている。1stアルバムはアイヌ民族抵抗史をモチーフとした「カムイ・イピリマ」で、ジェスロ・タルのような荒々しいフルートを導入し、3rdあたりからはアイリッシュミュージックを大胆に導入し、アイルランド共和国の独立歌である「Foggy Dew」や、チリのシンガーで軍事独裁政権によって虐殺されたビクトル・ハラがヴェトナムにこと寄せて歌った「平和に生きる権利」をカバーしたり、被抑圧者を支持する姿勢を一貫している。

かと思えば震災後の神戸での慰問活動で、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットとして、アコースティック楽器に持ち替え、沖縄音楽の三線(さんしん)や朝鮮音楽のチャンゴなどを用いて、被災した高齢者のために戦前戦後の流行歌、労働歌、軍歌(をインターナショナルに替え歌したものなど)や、ヤマト、沖縄、朝鮮民謡などをレパートリーにして活動した。

このようなごった煮の音楽性でありながらも、SFUの音楽はやはりとても日本的でそこが地に足がついた感じを抱かせる。というか、中川敬の酔っぱらいオヤジのような声の持つ力のせいだろうか。そして、忘れてはならないのが、伊丹英子らによるお囃子だ。ハッハッハイヤなどと繰り返される調子の良い合いの手が多用されていて、そこにチンドン太鼓やチャンゴなどが鳴らされ、自称ジャパニーズ・トラディショナル・チンドン・ソウル・パンクの面目躍如のごった煮ぶりを醸し出す。

そしてこのバンドの良いところはロックとしての王道を忘れていないところで(個人的にはストーンズっぽいロックンロールな感じ、と思ったら中川敬ストーンズマニアだそうで)、ライブ音源での演奏の盛り上がりはかなりのものだ。

と、バンドの紹介が長くなったけれど、このアルバム、じつは私がアイリッシュトラッドに興味を持つ遙かまえ(四、五年前か)に聴いていて、その時は良いことは良いんだけれど、他のアルバムまで積極的に聴く気にはならなかった。SFU自体は、革命歌が好きな友人が前述「Foggy Dew」やモノノケ・サミットの「インターナショナル」とか聴かされて知った。

で、アイリッシュトラッドを聴いてドーナル・ラニーを少し調べたら、なんとこの人、元メスカリン・ドライブSFUのメンバー、伊丹英子と結婚していると言うではないか。そして子をもうけ、沖縄に住んでいるという。昨日ドーナル・ラニーの記事で引用した在日米軍への抗議文で、子供の行っている保育園が滑走路から近いことが書かれていたが、もちろん伊丹英子との子供だ。この情報には相当驚いた。アイリッシュトラッドの大立者、英雄とまで称される人物が日本人と結婚しているとは。そして、ドーナル・ラニーがプロデュースしているこのアルバムには、ドーナル・ラニーバンド以外に、キーラ、アルタンが演奏陣として参加しているということを知ってさらに驚いた。おいおい、キーラのアルバムを聴く遙か前におれは、SFUで彼らの演奏を聴いていたのか、と(このブログでルナ・パークについての記事を書いているときにはそのことに気づいていない)。

というわけで、今作はドーナル・ラニープロデュースのアイリッシュミュージック色のかなり強いアルバムとなっている。その他のゲスト陣にはフィドル太田惠資、サックス梅津和時、キーラにも参加したHeatwave山口洋などなど、さまざまな名前がある。

1のタイトルトラック「風の市」は非常にSFUらしい名曲。これにはドーナルバンドとアルタンが参加している。アイリッシュ色の強い厚いアンサンブルが聴き物。以下の動画はシンプルなバンド編成でのライブ。アイリッシュ編成のも良いがこれも良い。このメロディラインのセンスを聴いてもらいたい。

2の「忘れられた男」はキーラ参加のバラードで、三線フィドルクラリネット、ブズーキ、パイプの音色が叙情的な歌を盛り上げる。特徴的な楽器が目白押しで聴いたときの不思議な感じはこのアルバム前半の面白いところ。
で、3はご存知「ロンドン・デリー」のカバーで、明朗でノリの良いSFUらしさ炸裂の「ホライズン・マーチ」、「イデアのアンブレラ」とギターの爽快なロックを続けたあと、再度アルタン参加でシャロン・シャノンのカバー「イーチ・リトル・シング」。これ、元はアイリッシュミュージックそのもののはずなのに、日本固有の歌にしか聞こえない。三線の音のせいだろうか。「戦火のかなた」は戦争で失われたものを嘆く反戦歌、といっていいだろう。優しいめろでぃが印象的だ。続く「ヤポネシアの赤い空」はチンドン、囃子と明るいお祭り気分の曲だ。ちなみに「ヤポネシア」は作家島尾敏雄の考案した言葉で、日本を琉球弧などを含んだ列島(nesia)として考え、いわば本土偏重の「日本観」を相対化し、「日本」を改めて捉え直す意味がある。また、これには東北出身で奄美に住んだという島尾自身の経験から、東北、琉球という中央権力から離れた場所から眺め返すという意味合いもあり、中心と周縁の構図を意識した中央権力批判の概念でもある。

ヤポネシア考―島尾敏雄対談集

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で、続く「恋のパール・ハーバー」はとても歌謡曲っぽい。しかし、このタイトル。「マージナル・サーフ」はアコーディオンクラリネット、そして篳篥などが用いられたインスト曲。おもしろい。そして「ブルー・マンデー・パレード」は二日酔いのためのロック。これがノリの良い爽快な曲。ここではフィドルが速いフレーズを弾きこなしているけれど、特にこの曲はライブでの演奏が良い。以下のシングル収録のものでは、フィドルなどもないロックバンド編成でのものだけれど、強烈な音の厚みとライブならではのハイテンションな演奏で素晴らしい。
ラヴィエベル~人生は素晴らしい!

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映像も。

太陽に灼かれて」は歪んだギターがブルージーな空気を生み出すバラード。これはレジスタンス活動を歌った曲なのだろうか。最後の「青天井のクラウン」はNHKの「みんなのうた」で放送された曲で、コミカルで悲しげな雰囲気。Youtubeに映像があって、見たことがあるのだけれど、今はなくなってしまったみたいだ。

というわけで、日本を代表する反戦平和主義ロックバンド、ソウル・フラワー・ユニオンでした。このダサ格好良さをみんな聴くべし。

なお、アルバムとしてはこれか3rd「エレクトロ・アジール・バップ」か5th「スクリューボール・コメディ」がオススメ。

そして、
http://d.hatena.ne.jp/terracao/20080225/1203960265
terracaoさんはソウル・フラワーを聴くと良いよ!

中川敬さんに聞いた(その1)
中川敬さんに聞いた(その2)

日本のミュージシャンは「政治性」を隠すよね。ちょっとややこしいアーティストやないのかとか、そういうレッテル貼られることを、みんな極端に恐れてる。特にレコード会社や事務所。簡単に言えば、それで仕事が来なくなるとかね。けど、もはやオレの場合は、もう関係ない。それにもともと仕事がない(笑)。