Donal Lunny - Journey The Best of Donal Lunny

現代アイリッシュミュージックの大立者と呼ばれるドーナル・ラニーのベスト盤、2000年リリース。

ドーナル・ラニーという人のアイリッシュミュージックにおける功績、ということについては摘み食い程度しかしていない私にはよく分からないところがあるので、経歴と業績については以下のバイオなどを参照して欲しいが、わかりやすいところを挙げると、ブズーキのアイリッシュミュージックへの導入というのがある。
http://www3.ocn.ne.jp/~zip2000/donal-lunny.htm
いまやアイリッシュケルト音楽の基本的楽器として知られているブズーキだけれど、これは元々ギリシャの民族楽器だった。中近東起源らしいのだけれど、まあ確かにややシタールにも似た音色で、オリエンタルな雰囲気がある。アイリッシュミュージックへの導入はドーナルが最初というわけではないらしいが、アイリッシュミュージックでのブズーキのいまの位置はこの人の存在を抜きには語れないのだろう。

ブズーキの音色が分かりやすいフルートとのデュオを。
Matt Molloy & Donal Lunny - Bucks of Oranmore (1977)

そしてまた、プランクシティ、ボシー・バンド、ムーヴィング・ハーツという70年代以降に現代的な形でアイリッシュミュージックを演奏してきた歴代のバンドに参加し、それ以降もU2エルヴィス・コステロケイト・ブッシュなどが参加したオムニバスアルバムをプロデュースするなど、プロデューサーのポジションで活躍していた。その後1998年にリリースした初のソロアルバムについては以前紹介した。Donal Lunny - Coolfin - Close to the Wall

というわけで、このベスト盤では70年代からソロに至るまで、そして新録、新ヴァージョンの音源などを集成した二枚組の大ヴォリュームでドーナル・ラニーの仕事を概観できる。参加バンドも多く、仕事も多岐に渡るため、この手頃なアンソロジーは便利。

特定のメロディをリフレインするお祭りみたいな雰囲気が魅力のジグやリールから、ヴォーカルが映える叙情的な曲、またホイッスルでの穏やかで広大な自然を思わせる空気感を演出するインストなどなど、密度の高いアルバムになっていて、現代版アイリッシュトラッドの入門としても良いのではないかと思う。

このアルバムの詳しい曲ごとのクレジットは以下。どのアルバムから収録されてるかがわかる。歴代三バンドからの曲は意外にも少ない。
http://www.mplant.com/irishmusic/otherinstruments.html

以下はこのアルバム一曲目の映像。
The Kesh Jig - The Bothy Band

以下、曲が多いので個別には触れないが、例えば二曲目の「The Ballymun Regatta」なんかは壮大さを感じさせつつ、とても胸を打つメロディで素晴らしい。これ、プランクシティの12インチシングルでリリースされた組曲からの抜粋でオリジナルはCD化されていないか、入手困難な代物とのこと。

あるいは「Tribute to Peadar O'Donnell」は9分の長尺曲で、パイプによる静かなソロから始まりだんだん音が厚くなりいろいろ展開していく曲なんだけど、これもメロディに独特の哀愁があって良い。ライブ版、ショートバージョン。
Moving Hearts - A tribute to Peadar O Donnell

個人的な印象なんだけど、アイリッシュミュージックのメロディって、「蛍の光」とか「遠き山に日は落ちて」をよく連想する。「蛍の光」は元々スコットランドの民謡だからまあ、当然とも言えるけど、この手の小学校唱歌みたいなノスタルジックな何かを刺激するメロディをよくアイリッシュミュージックには感じるんだよなあ。どこかとても懐かしい感じ。アイリッシュミュージックではそれをさらに高速アンサンブルでリフレインされるからたまんない。ノスタルジックで郷愁を刺激するハイスピードテクニカルナンバー。

また、ムーヴィング・ハーツは結構ロックよりのサウンドらしいのだけど、このベストでは上の曲しか収録されていないので、その側面がわからない。以下の映像を見ると、このバンドの音楽性がもうちょっと見えてくる。確かにロック寄りだ。これは面白そう。
Moving Hearts - Vicar St

先のバイオで紹介されていたBBC制作の「ブリング・イット・オール・バック・ホーム」収録曲。
Donal Lunny & Friends - April 3rd

まあ、ちょっと飛ばして二枚目の「DECLAN」は、フルートやパイプが叙情的なメロディを奏でる名曲なんだけど、これ、なんとジェフ・ベックがカバーしている。
Jeff Beck - Declan

フー・エルス!

フー・エルス!

で、この次の曲からがMillennium Suiteと題された13分に渡る新録の組曲。クールフィンでの演奏。これも有名なアコーディオン奏者シャロン・シャノンやブラスセクション、トランペットなどをゲストに迎え、高速リールやいかにもなトラッドからロックっぽいヴォーカルパート、そしてお祭りな感じのクライマックスまで目まぐるしく展開する力作。
Amazonにはない日本盤リンク。
Journey -Best Of Donal Lunny : Donal Lunny | HMV&BOOKS online - RUCD041/42

で、ドーナル・ラニーは現在沖縄在住で、在日米軍への抗議を行ったそうだ。
クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森):ドーナル・ラニィ、米軍に抗議
いいぞ、ドーナル・ラニー