上海アリス幻樂団 - 東方地霊殿 〜 Subterranean Animism.

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2008年発表のSTGゲーム*1上海アリス幻樂団というのはZUN氏の個人サークルで、プログラム、イラスト、音楽とゲーム制作のほぼすべてを個人で行っているという驚愕すべき同人作品。同人ならではの、すべて自分の裁量によって決定できることから、難易度の高さやキャラデザインはもとより、登場キャラがすべて少女という独特の趣味が全開の一見さんお断りなゲームになっている。

このブログでも何度かゲーム音楽は記事にしてきたけど、東方の楽曲は多くのゲーム音楽のなかでかなり好きな部類に入る。メロディ主体の音楽性で、各曲には必ず印象的な部分があり、STGゲームのBGMという性質上アップテンポでハイテンション、そこに洪水のような打ち込みを生かしたピアノの早弾きが襲いかかる。特に叙情的だったり感情の感じられるメロディセンスが良い。これとは違う作品だけれど、特に「上海紅茶館」はFF6の崩壊後のフィールド曲「仲間を求めて」級に好きな曲だ。

余談だけれど、私が東方に手を出したのは三年くらい前で、その時はFragleOnlineというプログレアレンジサークルのCDを聴いたのがはじめてだった。ある友人がゲーム音楽好きで、コミケなどにもよく行っていて、そいつが持ってた「冥土行進曲」というのが最初に聴いた奴だった。なお、その友人はプログレにも東方にもあんまり興味はない。

それから、東方のゲームも買わずに(ネットの体験版程度はやっていた)、FragleOnlineのものは友人に買ってきてもらうということをやっていたのが数年前(あのクソでかいジャケットの「百鬼夜行」や、FragleOnlineの人がやってたプロジェクト、Shinsekaiの世界最後のソノシート付きアルバムなども持ってます)。で、最近はすっかり忘れていたのだけれど、ニコニコ動画での盛り上がりを見て思い出し、今夏発表の地霊殿で、はじめてリアルタイムで東方の新作をプレイしてみる、ということになった。

で、この地霊殿は今までの作風と比べて、やや異なった雰囲気を持っていると思う。地底に潜り、封じられた妖怪や、忘れられた旧都といったステージが出てくる設定上、暗い叙情が覆っていて、全体的にミドルテンポで暗いのが特色だ。東方らしくないという曲もあり、いわば異色作という評価がある。

全体で見ると、特に道中曲が良いと思う。東方の音楽は、基本的に一ステージ二曲の構成になっていて、ステージごとの曲である道中曲と、そのステージでのボスキャラクタのテーマ曲、という風になっている。その他、タイトルやエンディングなどの曲がある。東方はボステーマ曲にハードでアップテンポな曲を用意し、道中曲にメロディアスで叙情的な曲を持ってくるという感じがするので、私は道中曲の方が好きな場合が多い。

一、二面の暗く寂しい曲も良いし、メロディがトリッキーな四面の「ハートフェルトファンシー」も面白い。エクストラの「ラストリモート」は後半のソロパートへの盛り上がりが非常に印象的。けれども特に印象的なのは、三面の「旧地獄街道を行く」と、五面の「廃獄ララバイ」、六面の「業火マントル」。

「旧地獄街道を行く」は、江戸っぽい雰囲気を出そうとした感があって楽しげな雰囲気が良い。メロディがパッと頭に残る。曲後半の展開がまた良い。

「廃獄ララバイ」は東方には珍しく、アコギの音から始まる寂寥感が全開の曲。これは特に人気がある曲のようでアレンジもいくつか出ている。

以下のアイリッシュ楽器による演奏は、かなり原曲の印象に近い。というか、この一人アイリッシュバンドの人は凄すぎる。

なお、FragileOnlineの人のアレンジもあって、これ、途中から四人囃子の「一触即発」パロになってしまうというプログレ仕様。サムネ絵が秀逸。

そして「業火マントル」はたぶん地霊殿で一番好きな曲。これも寂しさの感じられるメロディだけれど、最終面の曲らしい迫力ある曲調にそのメロディが乗ることで、とてもアンビバレントな絶妙な曲になっていると思う。これは、一人アイリッシュバンドの人の演奏が素晴らしい。圧迫感を抑えて、メロディの叙情性を際立たせた素晴らしいアレンジ。

ボステーマでは、二面ボス曲の「緑眼のジェラシー」が、ピアノを基調にした悲しげな曲で、ボス曲としては珍しいアプローチなのが良い。三面ボス「華のさかづき大江山」は道中曲とセットな感じの明るい曲。

以下の動画は、五面の道中曲「廃獄ララバイ」とボス曲「死体旅行」をつなげたアレンジで、ケルト風の民族音楽仕様になっていて素晴らしい。打ち込みでもこのレベル。

この動画作者のサークル、オーライフジャパンのアレンジCDの「東方温泉祭」は世界各地の民族音楽風アレンジが仕込まれた非常に秀逸なCDで、アレンジものとしてはかなり名盤だと思う。あっという間に売り切れてたけれど、同人ショップなどで販売再開されたみたい

「廃獄ララバイ」と「業火マントル」のアイリッシュアレンジのKou Ogataさんは、ウェブサイトがあり、そこでオリジナル曲を公開している。このアイリッシュなオリジナル曲の出来がまた良いので、アイリッシュ音楽好きにお勧め。一人でアイリッシュバンドの音を作れて曲もこのレベルのものを作れるとは、凄い人だ。クロノクロスのアレンジCDを出してるみたいだけれど、是非聴いてみたい。
k-waves LAB & KIWI | Kou Ogataによるクラフトビールとアイリッシュ楽器と録音音楽のサイト。

なんか、東方アレンジ紹介みたいになってるな。

なお、東方projectのゲームはどれも、全体のほぼ半分にあたる三面までの体験版が出ているので、興味を持たれた方は公式サイトへ。曲も最近のものはwaveで収録されているので、体験版だといっても曲の質は落ちていない。

*1:サントラ、とタグ付けたけど、このゲームにサントラはないので、ゲームで聴ける音源が対象。