一噌幸弘・しらせ - よしのぼり

よしのぼり : しらせ (一噌幸弘) | HMV&BOOKS online - TOHYOHYO003

一噌幸弘によるアコースティックグループ、しらせのセカンドアルバム、2008年リリース。前作よりも二人メンバーを増やし、さらなるアンサンブルの厚みを得てのスタジオ盤リリース。増えたのは、能管・篠笛の山田路子と、チェロの村中俊之。山田氏は一噌幸弘の弟子らしい新進の演奏家

1.メトリエ
チェロのイントロから雪崩れ込むようにスタートするメインテーマが素晴らしい。ドラマティックでシリアスなメロディから始まって、怒濤のアンサンブルをこれでもかと叩きつける凄まじい展開。ソロは控えめに、緊密な構成とメロディの魅力で長尺を聴かせ切る。個人的に、これほど素晴らしいインストはそうはない、というレベルの楽曲で、間違いなく名曲。

2.ヤマカガシ
前曲よりもややテンポは落とした物の、それでも高速なパッセージが出現する和風な曲。ここではヴァイオリンがワウを効かせたソロをとっていて面白い。このメンバー中ではエレクトリック楽器を用いるのはヴァイオリンくらいだ。

3.行の風
チェロによるイントロがとてもクラシカルで、笛が出てくると、寂しく牧歌的な情景が浮かぶ。

4.ゲタ山4DR
4WDをこよなく愛するらしい一噌幸弘の趣味の出たタイトルで、師弟による笛コンビネーションが聴ける。どこか祭囃子にも聞こえてくる楽曲だ。

5.ひうほったん
緩やかなテンポでのイントロから軽快なスピードの印象的なメインテーマが走り出すところがとても気持ちいい。そして中盤からのヴァイオリンソロがまた格好良い。

6.よしのぼり
非常にクラシカル、というか室内楽的なイントロから始まる。メロディもなんだかクラシック風。リズム隊なしだと、チェロ、ヴァイオリン、笛という編成になるわけで、まさに室内楽編成になる。ここで一噌幸弘は自ら考案した田楽笛(江戸時代の笛を復活させたもの、と言う人もいる)を使っている。これは篠笛の音域で能管の音が出せるというものらしい。

7.総田楽の舞
これは初っ端から祭囃子に聞こえる。テンポのゆったりとした囃子が、途中からどんどん早くなっていき、怒濤の笛ソロへ。そこから太鼓ソロパートへつなぐ。太鼓ソロのあとは各楽器のソロの応酬となり、怒濤の展開。

8.バッサ・カスティーリャ
グリエルムス作曲の15世紀の舞踏曲らしい。笛も凄いが、中盤のヴァイオリンとチェロのソロの応酬がまた凄い。また途中では多重録音ではない、笛の二つ、三つ同時吹きが行われているらしい。笛はもう二人いるのに、まだ吹くかと思わざるを得ない。しかし、ブックレットに載っている笛を三本くわえた一噌氏の写真はやや衝撃的。手は二つしかないわけで、丸一本宙に浮いてる感じ。

前作に引き続き名盤。特に一曲目が傑出していて素晴らしすぎる。ただ、今作は前作での和風情緒の側面はやや後退し、どちらかというとシリアスな印象が強くなった。牧歌的な雰囲気は前作のほうが強いと思う。そこは好みの問題か。

とにかく、素晴らしいグループだ。激しいアコースティックサウンドを求める人には絶好の音なんではないかと思う。