伊福部昭 - 伊福部昭の芸術9 祭-伊福部昭音楽祭ライヴ

伊福部昭の芸術9 伊福部昭音楽祭

伊福部昭の芸術9 伊福部昭音楽祭

和製プログレ、ではなく日本の作曲家、伊福部昭。これは2007年の伊福部昭音楽祭でのライブコンサートを収録したアルバムで、指揮は本名徹次、演奏は日本フィルハーモニー交響楽団

一般にはゴジラや特撮の人、であって私もそうした程度の認識しかなかったのだけれど、以下のきっかけで聴いた。

友人「ネギ踊りっていう動画知ってるか? 面白いぞ。」

これは凄いセンス。面白すぎる。派生動画を見ていたら変なのに出くわした。

なんだこの音楽は、土俗的でヤケに格好いいぞ、伊福部?→

伊福部最高!!

という感じ。上記動画でのシンフォニア・タプカーラは、「伊福部昭の芸術」シリーズの8に収録されている卆寿(卒寿)コンサートのものだけれど、それにはタプカーラの第三楽章しか収録されていないので、9の方を買ってみた。

これには伊福部が手がけた映画音楽などのポピュラリティの高いものから、唯一の交響楽といわれるタプカーラなどが入っている。選曲の善し悪しについては何も分からないが、一枚目が映画音楽、二枚目が長めの組曲という構成は分かりやすい。

一曲目は伊福部映画音楽の怪獣ものなどをメドレーさせた「SF交響ファンタジー第一番」。ド迫力のゴジラのテーマからスタートする。地響きがするような低音が凶暴なリズムとともにおそってくる。後半ではスピーディで勇壮なフレーズで勢いをつけ、そこにさらにゴジラの音楽を挟みこんだりして、かなりの盛り上がり。

二曲目は「銀嶺の果て」より。特撮映画的な勇壮さがここにも感じられる。

三曲目は「座頭市物語」オープニング。太鼓のリズムに悲壮なテーマが鳴り、三味線が絡む。確かにオープニングらしいこれからの予兆を感じさせる雰囲気。

四曲目は「ビルマの竪琴」メインテーマ。前曲と似た雰囲気で、悲しげで繊細な雰囲気。

五曲目は「わんぱく王子の大蛇退治」の「アメノウズメの舞」。一転して太鼓やパーカッション類が活躍し、笛系の音色が民族音楽的な雰囲気を強く押し出している。躍動感もあり、タイトルに良く似合う音になっている。

六曲目は「オーケストラのための特撮大行進曲」特撮映画からマーチを抜粋したというタイトルそのままな一曲。一曲目に続き特撮ファンが血を吹いて興奮しそうな曲だ。とにかく勇壮かつ壮麗、低音が強調された重いオーケストラサウンドがズンドコやってきます。テンション上がってくる音だ。

二枚目は組曲が二曲。
一曲目の「管弦楽のための「日本組曲」 」は盆踊り、七夕、演伶、佞武多の四楽章に分かれていて、最初の盆踊りがまずほとんど和太鼓みたいなリズムをオーケストラが奏でてくるところから驚く。土俗的、民族的な伊福部昭の特色ってのはこういうところなのかと大納得する。どう聞いても日本の祭りの音楽。でも演奏はフルオーケストラというのが凄く、プログレです。格好良すぎる。太鼓の強烈なリズムがまた凄い。メロディがかなり日本的。第三曲途中からの早いパッセージあたりの盛り上がりが最高だ。で、第四曲はメロディを反復しながら少しずつ音が大きくなり(スピードも上がり)、ラストで大爆発する。凄い。

二曲目は「シンフォニア・タプカーラ」。計30分のシンフォニー。タプカーラとはアイヌ語で「(自発的に、興が乗ってきたら)立って踊る」というような意味。ただし、この曲は特にアイヌの音楽を取り入れたというのではなく、音楽に対する姿勢に影響を受けた、ということのようだ。

まず第一楽章の序盤で切り込んでくるメロディがいきなり格好いい。このメロディを繰り返すのがオスティナートってのかな。あとこれ、変拍子入っているよね? アップテンポな演奏の盛り上がりが非常に良いです。怒濤の進行。中盤はおおらかな雰囲気の緩やかな展開。静かなパートの終盤には行ってくるチェロ(?)の悲しげなメロディが印象的。そこから冒頭のメロディが回帰。序盤で見せた大迫力のオーケストラがやってくる。そこからの展開は特撮ものを上回るような白熱したテンションで素晴らしい。第二楽章は穏やかで広大な自然を想起させるような緩やかな演奏。怒濤の演奏に耳を奪われてわりとちゃんと聴いてなかったりするのだけれど、きちんと聴いてみるとかなり良いことに気づく。で、それに耳を傾けていると、突然の第三楽章に驚くことになる。第三楽章はホントに名曲で、聴いていると時間が消える。冒頭から激しいアンサンブルで怒濤の展開を見せ、反復される妙に土俗的なメロディの格好良さ、うなる迫力の打楽器が炸裂。ややテンションを下げたパートに入っても、様々な楽器がテーマを奏で、後に控える爆発の瞬間への期待を盛り上げていく。中間部での笛(フルートだかピッコロだか)のメロディが非常にトラッド的に聞こえる。そしてやってくる冒頭メロディの回帰から始まる怒濤のクライマックスが素晴らしい。笛が鳥の鳴き声を三倍速再生しているかのように吹きまくり、ラスト直前には第一楽章のテーマがリプライズという痺れる構成、そしてそのまま怒濤のラストに向けてどんどん速度を上げていき、盛り上がりが最高潮になった瞬間にダダダン、と終わる。
なんという名曲。クラシックというのはどうにも好きになれなくて、ほとんど聴いていなかったのだけれど、これは素晴らしい。こんなに好きなクラシック曲は他にはない。ただ、この演奏は最後の方でスピードを上げすぎていて、素人耳だとどうも最後でアンサンブルが破綻しているように思える。そこが残念な感じだ。このシリーズの第二弾には評価の高いタプカーラもあるので、そのうち聞き比べてみたい。

しかし、タプカーラは最初聴いたときからプログレに聞こえて仕方ない。プログレバンドでカバーしたりすると凄く面白そうなんだけれど、日本でそんなことをやりそうなプログレバンドがあったか、というと疑問だ。

参考。
インタビュー。
伊福部 昭インタビュー
以下はコラム、ディスコグラフィーや簡単なレビューなどもあり、CDを選ぶ際の参考になる。
http://www.geocities.jp/kuki_kei/ifukube.html