田中哲弥 - ミッションスクール

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)

田中哲弥七年ぶりの新作短篇集。今は亡きラノベ雑誌「電撃hp」(第一号持ってたよ)などに発表していた短篇と書き下ろしを含んだ全五篇。

田中哲弥といえば電撃文庫の大久保町シリーズが代表作(ほぼすべてハヤカワ文庫で再刊)で、饒舌な語りとナンセンスな設定・展開、そしてやけにさわやかだったりするわりと正統なジュヴナイルストーリーが渾然一体となった異色の書き手だ。高校時分、電撃読者だったころに、そのあまりに胡散臭いあとがきに惹かれて読み出したのがはじまりで、デビュー作に当たる「朝ごはんが食べたい」*1も読んでいたというくらいには好きだったけれど、ディ・キャンプの超訳はスルーしていた程度のファンだった。

特に印象的だったのはその饒舌すぎる文体で、ライトノベルとしては当時かなり破格のノリだったような印象がある。

で、この作品、出た当時に買っていたのに、ようやく読み終えた。約三年暖めていたことになるが、読んでみてやはり田中哲弥田中哲弥だなあというような作品集。

なにしろ、冒頭の「ミッションスクール」など、書き出しが

下痢のため一刻も早く排便したいのですなどと十七歳の女子高生が人前で言うはずがないのだ。

なんていうふざけた代物だから堪らない。そしてこのミッションスクールという短篇自体が、ミッションスクールを舞台に学生に扮したスパイが潜入工作をするという、missionの二つの意味を掛けたダジャレをそのままやってしまうというきわめて下らない発想で書かれている。

さらにはその学園は「聖メヒラス学園」などというふざけた名前で、以下他の作品でもすべてウルトラマンシリーズに出てくる異星人の名をもじったペガツサ、キユラソなどという学園名になっているというふざけぶり。

おまえはふざけているのか、と言えば当然のごとく「はい、ふざけています」と答えが返ってきそうだ。

吉本興業で台本作家をしていたという経歴が生かされているのか、そういう舞台コント的な演出を用いている感触もある。ナンセンスなギャグなのだけれど、書き下ろしの「スクーリング・インフェルノ」の寂寥感はそんな笑いの中に一点の冷たさを感じさせるところもある。また、始終荒唐無稽な展開のナンセンスギャグの「ポルターガイスト」では結構人があっさり死ぬし、なによりヒロインの友人が冒頭でヒロインのせいで死んでしまっているという展開を含んでいて、軽く笑い飛ばせない陰惨さがたまに差し挟まれるのが興味深い。

集中では、子供たちの小さな大冒険といった風の「ステーショナリー・クエスト」が特に読後感爽やかで好きだ。良い意味でとてもラノベらしい作品だと思う。

余談だけれど、わたなべさんが「文体だけなら日本人作家で三本のゆびに入るくらい好きな作家」だと言っているのがとても意外で面白かった。誰に勧めれば良いのか分からない、というのには同意してしまう。

なんとなく深堀骨を思い出す。そしてまた余談だけれど、矢上裕が漫画化するとピッタリかななんて思うのだけれど、どうだろう。

で、この短篇集を三年近く暖めているうちになんと新作が。

猿駅/初恋 (想像力の文学)

猿駅/初恋 (想像力の文学)

*1:星新一がやっていたショートショートコンテストの入選作で、「ショートショートの広場」のどれかに入っている。ナンセンスながらもほのぼのとしているギャップが印象的な名作