ここ四五年、単発的に読む以外に全然SFを読んでいなかったので、積んでるSFが増えすぎた。先月フリマの作業が終了してから、延々SFを読んでいたので、まとめて軽く感想を書く。
カレル・チャペック「ロボット(R・U・R)」
- 作者: カレル・チャペック,Karel Capek,千野栄一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/03/14
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アイザック・アシモフ「われはロボット」「ロボットの時代」
われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)
- 作者: アイザック・アシモフ,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: 文庫
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ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)
- 作者: アイザック・アシモフ,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/08/06
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いわゆる「ロボット工学三原則」を軸にした短篇群で、三原則という前提と、そこからは起こるはずがない事件にどういう道筋をつけるのか、というロジカルなパズルが面白い。これらも一種のSFミステリ作品群。
アシモフはチャペック、フランケンシュタイン的なロボットを、工学的技術的発想においてコントローラブルなものとして捉え返したのが新しかったのかな。未来への楽観視、あるいは理性的なものへの信頼が感じられるこのスタンスは今からするとやはり古いとは言えるけれど、ヒューマニスティックな視点がつねに感じられるのはいい。市長の話とか。
そういえば、「ロボットの時代」の解説で、ロボットが労働生産現場に投入されることはなく、宇宙開発や政策の場、特殊技能を必要とする場に限られるという指摘がなされているのだけれど、水鏡子氏がこのポイントをどういう意味で評価しているのかよくわからなかった。
神林長平「狐と踊れ」
- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1981/10
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光瀬龍 宇宙年代記
- 作者: 光瀬龍
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1999/06
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- 作者: 光瀬龍
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1999/09
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光瀬龍の短篇連作宇宙年代記シリーズを文庫二冊でまとめたもの。以前読んだ「たそがれに還る」はかなり面白かったので買っていたもの。何年本棚で眠っていたのやら。
各短篇に年号が付されていて、最初から最後までで数千年のスパンがあるんだけれど、五千年たっても技術レベルとかがあんまり変わっているようには思えないし、じつはけっこうSFでなくともできる話っぽいところがあって、本格的なSFとしてはたぶんかなり物足りない。けれども、その行為が誰にも知られず、歴史の闇に消えていくほかない人物の絶望や無念を、クローズアップするスタイルは好きだ。
まあ、似た話が二冊分続くのでやや飽きが来るんだけれども。
小松左京「時の顔」
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1998/12
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しかし、時間ものとはいえ、旅先で自分に出会うパターンが多すぎる。実は自分だったパターンは時間もので面白いものを書こうとするとこうなるのか、小松左京の作家性なのか、編者(おなじみ日下三蔵氏)の選定ゆえなのかはこれだけではわからないけれども。それと、時間ものという括りがあるせいで、始まる前から時間ものという落ちが割れてしまうところがあるのはいろいろ難しいなと思った。
いろいろ興味深かったのは「ホムンよ故郷を見よ」。これ、少数民族問題、たぶんアイヌ同化政策を念頭に置いて書かれた作品じゃないかな。日本の差別問題というと、感情的になってしまって反発してしまう人も多いけど、一回抽象化したこうした作品から少数民族問題がどういう問題かを知るのにはわりと良いかも知れない。けれども、この作品の解決の仕方はダメだと思う。どの民族が優れているか、という構図をひっくり返しただけで、少数民族側こそじつは優れている、とやったのでは。その点含めていろいろ面白い短篇ではある。
藤崎慎吾「レフト・アローン」
- 作者: 藤崎慎吾
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/02/01
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作家としてはハードな科学ネタと超自然的なスピリチュアルな部分が同居しているところが特徴か。表題作がそうだけど、幾つかの作品でジャズの曲をタイトルにしていて、デビュー長篇はチック・コリアの「Return to Forever」にある「Crystal Silence」が元ネタだろう。
ゲイリー・バートンとのコンビによる演奏。
小川一水「老ヴォールの惑星」
老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/08/09
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小林泰三「目を擦る女」
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/09
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上田早夕里「魚舟・獣舟」
- 作者: 上田早夕里
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/01/08
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円城塔「Boy's Surface」
- 作者: 円城塔
- 出版社/メーカー: 早川書房
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円城塔はさっぱりわからない作品も多いんだけれど、わかる時のはまり方はかなりのものがあるし、わからなくても面白い部分があるので、やっぱり面白い。他の作品でも、土ハンミョウとか槍型吸虫、ゼブラガニといったおもしろ生物の紹介は、マジなのかネタなのか検索するまでわからない。
飛浩隆「ラギッド・ガール」
ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
- 作者: 飛浩隆
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/10
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「グラン・ヴァカンス」ではずっと数値海岸内での事件が扱われていたけれど今作では外部と内部、あるいはその両方にまたがった話が収められていて、数値海岸がいかにしてできたのか、そして大途絶はどうして起こったのかという謎が明かされる。
というわけで話や設定的にも「グラン・ヴァカンス」読者には必読の一冊。以前何度か飛浩隆はSFのようで何か違うことをしている感じがあると書いたような覚えがあるけれど、ひとつ自分のなかではっきりしたのは、それが「官能」だというのがわかったことだ。SF設定や仮想世界、AI等の道具立てを使いつつ、現実ではあり得ない形での恐れや愉楽を濃密に描き出す。たとえば、「ラギッド・ガール」で安奈自身が編み目をほどくように解されていく印象的なシーンがそれだ。普通はこういう設定だとアイデンティティの問題に焦点が当たりがちだけれど、飛はここに色濃い官能的な描写をぶちこむ。サブタイトルが「Unweaving the Humanbeing」というのはきわめて示唆的。シリーズ全体に対しても。この意味で、特に「ラギッド・ガール」と「クローゼット」がインパクト大だった。後半の派手なアクション中篇等どれも面白い。
やはり飛浩隆は図抜けているなあと思う。自分の読んだなかでは、2000年代は伊藤計劃、円城塔、飛浩隆の三人は格が違うという印象だ。
追記
大事なこと書き忘れてたけど、読んでいる間にずっと頭に浮かんでいたのが松浦理英子の「ナチュラル・ウーマン」だった。もう随分前に読んだきりなので、ちょっと具体的に思い出せないのだけれど、レズビアンを描くこの作品では、皮膚同士の触れ合いの瞬間が非常にエロチックだったのを覚えている。「官能」というと、私はその部分を思い出す。仮想人格、ヴァーチャルリアリティ等、非身体性を強調するような舞台のなかで、きわめて身体的な「官能」の様態を描き出そうとする矛盾は、かなり意図的に選択されたものだろう。
- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/05/01
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森奈津子「西城秀樹のおかげです」
- 作者: 森奈津子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/11/09
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筒井康隆「幻想の未来」
- 作者: 筒井康隆
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 1971
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で、読んだのがこれで、初期のSF作品になるだろうか。全体の半分を占める表題作は、超未来の異形と化した人間だったらしき生物の進化の様を描く密度の高い作品。まあ確かに面白くはあって、他のも読んでおくべき何だろうなとは思った。
大森望・日下三蔵編「量子回廊 年刊日本SF傑作選2009」
- 作者: 田中哲弥,大森望,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/07/27
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その次にある田中哲弥「夜なのに」はすばらしい。いやこれほんと良い作品だ。ライトノベル作品の頃の青春、コメディ風味のやりとりが巧みな語りで繋がっていく気持ちよさ。最近はシリアスな作品が多いみたいだけれど、こういうラノベ時代の頃のような話も読みたいなー。三崎亜記は結構面白い。倉田タカシの断片的な作品は、機械ネタが良い。2chで投稿されてそう。もうひとつの漫画作品八木ナガハル「無限登山」はラッカーと二瓶勉を掛け合わせて日本SFの伝統(?)ロリコン風味でまとめた感じの作品。無限プラスワンの部屋のホテルとか、大森望が解説でラッカーに言及していないのが不思議。新人賞作品は、ディティールが丁寧で読ませるんだけど、ネタに対して作品が長すぎると思う。まあ、いかにも王道(?)のアイデアストーリーではあるんだけど。
大森望編「ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉」
ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成<S> (創元SF文庫)
- 作者: 大森望
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/10/28
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大森望編「逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成〈F〉」
逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F> (創元SF文庫)
- 作者: 大森望
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/10/28
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好評なら年代ごとに遡って刊行する可能性もある、ということだけれど、そうすると日下三蔵編の「日本SF全集」と被ってしまうような。文庫サイズのほうが良いとは言えるけど。日下編と大森編で、二種類の年代別SF傑作集が平行するのも悪くはないか。
海外版の年代別傑作選には、河出文庫の20世紀SFと、ハヤカワの80年代、90年代SF傑作選がすでにある。これらも読んでみようかなー。