連載第二回の掲載された季刊「未来」2017冬号が出たようです。
今回は前回を継いで植民地朝鮮をはじめて正面から描いた「異邦人」、「笑い地獄」そしてさしあたり70年連作と呼んでいるうちの最初の2作、「誰?」と「何?」を扱っています。
また、後藤明生論連載二回目が載った季刊「未来」の2017年冬号も届きました。年末年始をはさむので、一般に入手できるのはいつかちょっとわかりません。年明けでしょうか。年始に補遺記事を投稿するつもりです。 pic.twitter.com/edD1iSzAkh
— 東條慎生 (@inthewall81) 2016年12月28日
前回に続き、紙幅の関係で削った出典注等を補足しておきます。
引用出典
●30頁
「わたしは、生まれは朝鮮人ですが、今はもう立派な日本人です。ですから、お国のために喜んで息子を兵隊にやります」
「異邦人」、『関係』皆美社、一九七一年、一二八〜一二九頁。
「逃げない」と少年はこちらをにらんだまま答えた。「お前たちが帰れ!」
前掲『関係』、一三九頁。
●31頁
「〈朝鮮〉および〈朝鮮人〉とわたし自身との関係が、運命の問題としてふたたび、北朝鮮で生まれて戦後引揚げてきたわたしの現在と、いろいろなかかわりあいを持ちはじめているためである。」
前掲『関係』、二一六頁。
●34頁
「すでに男からは、彼自身であることさえ失われている。男は存在しなくなった。ゴーストライターの男はいまや、彼自身の手によって書かれた週刊誌の記事の中に、消滅する。」
『何?』新潮社、一九七〇年、七五頁。
「記憶には場所が必要です。(中略)ところがわたしには何もありません。記憶というものに必要な場所がどこにも見当らないのです。お母さん! わたしがいま住んでいる団地は、お母さんも何度か見たでしょう。わたしはこんな見も知らぬところへ流れ着いているのです。ここでは毎日毎日、記憶が失われてゆきます。それも他ならぬわたし自身の、飢えに関するものなんですからね。まさしくここは、記憶を抹殺する流刑地のような場所です。」
『何?』新潮社、一九七〇年、三〇頁。
補足など
落選作を集めた本というのは、『読売短篇小説集』文苑社、一九五九年。これは現物未確認。
注5の補足として、近代文学館の「新早稲田文学」第二号には「高見順氏寄贈 日本近代文学館 39.6.8」の印がある(昭和39=1964年)。そのほかは紅野敏郎文庫のもの。『壁の中』を読んだ人は、この高見順との奇縁に驚くのでは。
「犀」に参加。実際に誌面を見てみると、「犀」同人として名前が載るのは、一九六五年春季号(3号)から。
「笑い地獄」。「現点」におけるインタビューによると、これは「人間の病気」が芥川賞候補になったさい、受賞第一作として「文學界」の要請によって書かれ、「無名中尉の息子」と同時に提出して、採用されなかった方だとのことで、執筆時期自体は六七年中ということになる。
平凡出版を退職。「国文学 解釈と鑑賞」一九七三年、五月、一二二頁の池内輝雄の記事によれば、退職後も「現在は小説執筆のかたわら週刊誌の無署名執筆者(ゴーストライター)のようなこともしているらしい」とある。週刊誌時代も無署名記事を書いてたはずだけれど、退職後もしていたということで、『誰?』あたりの記述はかなり事実に近いのかもしれない。またこの池内記事、前年の「國文學 解釈と教材の研究」七二年六月の記事とほとんど同じ原稿だった気がするので、あとで再確認する。
「誰?」において「ゴーストライター」が消えたことと、「何?」において職安通いを続けていること、また母親等の描写は、この二作が連続している印象を与える。しかし、作品集に採られる際、この二作はつねに発表と逆順で収められている。『後藤明生コレクション2』でおそらく初めて発表順で収録されるはず。
1/6Twitterポストを追記。
「星夜物語」は、後藤が年譜などで書いたことがある「新早稲田文学」創刊号の掲載。この作品については旺文社文庫『関係他四編』の自筆年譜329頁に、浅見淵に時評で言及されたと書いてあり、存在自体を知っている人は結構いるかと思われる。 pic.twitter.com/oGTKjpANO9
— 東條慎生 (@inthewall81) 2017年1月6日
「新早稲田文学」については、6号まであるのが確認できるものの、近代文学館で実見できたのは1.2.5.6のみ。また、この書影、乾口さん編の『日本近代文学との戦い』の年譜に似たものが載っていたのを見た人は多いはず。それは5号の書影。
「最後に笑う」は「江古田文学」掲載作品。これについては国書刊行会の清水範之様からご教示いただきました。ありがとうございます。これは「笑い」に着目しており、わりと興味深い作品。これらは日本近代文学館とかでないと読めないので注意。国会図書館にはないようです。 pic.twitter.com/5XmaysgzrO
— 東條慎生 (@inthewall81) 2017年1月6日
連結したTwitterポストをブログに引用すると、勝手に繋がれた状態で表示されるみたいだ。