文学フリマ東京36のメモ

2023年5月21日、文学フリマ東京に行ってきた。行く途中の電車で和装の男性を複数見かけて、これは文学だろう、文学に違いない、と思っていたら浜松町でモノレールに乗り換えていたのでやはり文学だった。

文学が来た

かなり長い行列
アーリーバード・ブックスさんのブース
私が書いた文学講義CDのリスニングガイド、折り畳むととてもちょうど良いのが発見でした

前回『後藤明生の夢』刊行後で自著を後藤の著作権継承者松崎元子さんのアーリーバード・ブックスさんのブースに置いて頂き、同時に売り子として参加したけれど、それとだいたい同じ感じでブースにお邪魔させてもらっていた。アーリーバードさんは今回は新しく自筆原稿のレプリカを実際の本になったページとセットで販売していて、面白い試みで笑えるおまけもついてたり、幾つか売り切れていた。拙著をお買い上げ頂いた方々、挨拶させて頂いた方々、あるいはそれ以外の方もありがとうございました。

今回の行列では目の前に後藤明生オリエンテーリング企画で会ったフォロワーさんが並んでいた。列の長さに驚いた上記ツイートの写真の一番下に後頭部が写ってる人が知り合いだったわけだ。ツイッターに投稿したらリプライがついて、それが目の前の人だったのは笑った。前回の行列では折り返しですれ違う行列に私の本を読んでる人がいて、奇遇が続いていてビビる。

今回は出店者・来場者あわせて11279人という過去最高の数字で、混雑も頷ける。五類移行後ということでなのか来場者数がかなり増えたようで、前回と同じ時間帯に来たはずなのに会場の外の行列に並ぶことになった。会場でも通路の狭いところではもう前に進むのも難儀するありさま。活況はともかく、マスク率も下がっていてこれはこれで怖いところ。

当日は色々な方と会って、なかには広島から来られた方もいて、なかなか素敵な差し入れを頂いたのでした。

こんな綺麗なジャムがあるんだ

この広島に要人が集まっている最中、広島からこられた方がブースに来られ、友田とんさんのフリーペーパーではサミットとサミット(スーパー)の話が語られ、松崎さんは会場に来られた某編集の人をサミット(スーパー)で見たという話をしていた。サミット、広島、文フリ。5/21はそれですべてが語れそうだった。

アホなのでこれを買って資金が尽きた

ヴェルヌ研究会のブースでこれが二割ほど安い値段だったので、これは、と買うことにしたので幾つか買うつもりだったものが買えませんでしたね。

以下、当日買ったものとそのなかでさっと読めるものだった本についての簡単な感想。

オルタナ旧市街『ハーフ・フィクション』

ネットプリントのうち表題通りの日常と空想のあわいに浮遊する作を集めた一冊。「パブリック・シアター」の勢いがやはり良い。「スパゲティ闘争」は「ふうわり」という言葉であ、これは読んだことある!と思い出せたのが面白かった。闘争・逃走。ここでのフィクションは形容にこそあるのではと思わせるものがあり、形容つまり見る人の見方次第で現実はフィクションにもなる。エッセイのアプローチでもあるよな、と思う。ハーフなだけに。短い文章を小さい本にしてきらきら光る加工の表紙に包むトータルなつくりがやはり良い。

沖鳥灯、瀬希瑞世季子『平成文学全集』

平成文学全集の目次案を列挙し解説を付したり付さなかったりした素描的な小冊子。作品名には概ね覚えがあるけど自分も読んでないのが多くて、へーとなってしまうところが多い。選者も読んでないのが入っているというのにはオイ!と思った。解説も半分ほどしかついておらずいかにも叩き台だ。倉数茂『名もなき王国』が挙がっていて、当日倉数さんも会場に来られてて挨拶したけどその時はこれ買ってなかったのであとで見た時教えたかったなと思った。

奥山さと『きらきら大切商店街』

概ね10ページ内外の短篇を収めた100ページほどの短篇集。著者は2014年文學界新人賞を受賞した板垣真任の別名義。「特別でない」の共感性の欠けた行動はちょっとしたホラーで、他の作品も短いなかに独特の距離感、ひねりがあって面白い。喪失感と焦燥感を感じるなと思っていたら最終作がまさにその集成の感があった。通底する喪失感と焦燥感が「霊歌」の小説への志向とまとめてしまうとあまりに簡単だけれど、積極的で肯定的な友人と何かをしばしば憎んでいる語り手の交流を通じて生の肯定への「祈り」のようなものを書いていて良かった。いずれも簡単にこうだとは言い難い短篇という感じ。作中、文学と大衆文芸をわけるのは「きらきら」というような擬音があるかどうかだ、というくだりがあり、そして最初に大切なものなど何もないところから始めろというはしがきから始まる本書が「きらきら大切商店街」と名付けられている捻くれ方にはおかしみがある。

グスタフ・マイリンク『マイリンク綺譚集2』

垂野創一郎訳の短篇二篇。ある結社のなかでアリオストという男が不倫の子をなし、相手の父は息子と不倫相手の子で扱いを変えて憎しみを育て、という恐怖譚の「アルビノ」は不倫相手と息子の婚約者の名前が同じなところも不気味だ。執筆から20年先が舞台になっている「思い邪なるものに災いあれ」は不思議な雰囲気でギブソンという人物は未来世界へ紛れ込んだようなことを言ったりする。「アルビノ」、「ナイトランド・クォータリー」26号に採録されてるのに気づいた。表紙には「綺談集」とあるけど、扉や奥付の「綺譚」が正しそう。

『文章講座 植物園』より松本寛大「舎利の花」

津原泰水文章講座の受講生作品集で、とりあえず松本寛大「舎利の花」だけ読む。亡くなった友人から託された竹筒に入った樒の謎を追う話で、その抹香の香りが充満する気配のなかで次第に語りの現実が揺らいでくる。超常的なことは起こらない鋭利な幻想譚。松本さんが受講生だったとは、と驚いたけど作風に納得感もある。



わかしょ文庫さんのフリーペーパーはこの表紙が一番インパクトがある。二つのエッセイを通じて、空でチキンを食べ、川や海では魚がたくさん死んでいる、何かしら不穏な気配のある食が描かれていて、機内食や焼き魚を食べる話がなんでこんなに不穏なのか。

あとは『カモガワGブックスvol2』のクリストファー・プリースト特集や柴田元幸アンソロジーレビューなどをパラパラと読む。やっぱりアファーメイションは訳出て欲しいな。

そしてemitonさんからこちらの本を頂いたのでした。追分で『笑坂』『吉野大夫』を踏まえた後藤明生ツアーをされていた方がツイートを自家製の本にまとめたもので、カラー印刷して手作業で本にしたもので、手間がかかっています。場所と著作の頁とを丁寧に照合されていて資料価値が高い一冊。

emitonさんの手作り本


行く前にグーグルに東京流通センターと入れてルート検索したら、30分かからないくらい近くてそんなわけないだろ、とよく見たら最寄りの東京靴流通センターへのルートが表示されていた。駅名は「流通センター駅」で東京がつかないためか、グーグル的には「東京靴流通センター」のほうが適切と判断したらしい。青梅と青海みたいな。