以前の予告達成第一弾。次は続かないかも。

- 作者: N.ゴーゴリ,平井肇,横田瑞穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1977/03/16
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- 作者: N.ゴーゴリ,平井肇,横田瑞穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1990/02/01
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- 作者: N.ゴーゴリ,平井肇,横田瑞穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1977/07/18
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話はシンプルだ。チチコフなる詐欺師が一部冒頭で颯爽と街に現れ、おべっかと慇懃な立ち振る舞いであっという間に街の有力者たちと懇意になると、彼ら地主階級の人間たちから死んだ農奴を買い取ろうと走り回る。死んだ農奴は、死んでいる間も、数年の間がある次の戸籍調整のときまでは年間の税を政府に納めねばならず、それを負担に思う地主は喜んで農奴を手放すだろうというのがチチコフの見込みだ。しかし、突拍子もない申し入れに地主連中は訝しんだり、疑ったり、そう簡単に事は運ばない。
そこでチチコフが画策する手練手管で、いかに相手をだまくらかせるか、というのを描いていく。
一読、シンプルでいてなかなか楽しい話だ。俗世にまみれた人間たちを皮肉と笑いの内に描き出す、という感じだろうか。特に面白いのは一部の後半、中巻に当たる部分だ。ここでは、チチコフの策略と、それに対する疑いがどっと吹き出し、根拠もない噂が街中を駆け回る。ここらへんの感覚はいかにもゴーゴリというか、あるいは後藤明生的だ。都会でこそ発生する虚実入り交じったあやしい噂。
下巻になると話の調子ががらっと変わる。チチコフの更正に話が進みそうな気配を強く打ち出してくる。非常に高潔で肯定的に描かれる地主が現れ、彼にチチコフが感化されていく。ゴーゴリはここから、ロシアの肯定的人間像を描き出そうと試みたようだけれど、紆余曲折あって、挫折する。それが死につながるわけだけれども、それを考えずとも、この第二部は小説としての完成度が微妙だ。説教になり始めている。つまらなくはないのだけれど。

- 作者: ウラジーミルナボコフ,Vladimir Nabokov,青山太郎
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1996/02/01
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「検察官」や「死せる魂」がそうだけれど、これらの作品はロシアの現実を諷刺したリアリズムに基づいた作品だとして評価されることがあるが、むしろゴーゴリはそのような国家、体制批判の作として読まれることに困惑していた。ゴーゴリは文字通りの意味で小説家であり、虚構の芸術家であり、それが社会的事実に対しての意見表明のように見られることを想定していなかったようだ。プーシキンに言ったらしい、何か素材をくれればただちにそれを喜劇にしてみせる、というような台詞は、そうした資質をよく表しているように思う。

- 作者: 後藤明生
- 出版社/メーカー: 福武書店
- 発売日: 1990/11
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ナボコフと後藤明生のゴーゴリ観の違いは、両作家の小説観の違いにもつながっていて面白い。両人の本質的なものを露わにしている。この違いは、ドストエフスキーに対する態度において衝突する。ナボコフがドストエフスキーを批判するのに対して、後藤明生はドストエフスキーを非常に高く評価していて、ナボコフのドストエフスキー批判について何度か反批判を加えている。
この関係がちょっと面白い。
「死せる魂」あんま関係なくなったな。
なお、本書の訳者平井肇は戦後満州で亡くなり、戦中の朝鮮永興出身の後藤明生がゴーゴリについて論じた卒論を提出した横田瑞穂が、仮名遣いや言葉遣いの訂正、改訳を行っている。その分、同訳者の時代がかかった言葉遣いが多かったディカーニカよりもかなり読みやすくなっているのが良い。