Steve Hackett - Out Of The Tunnel's Mouth

Out of the Tunnel's Mouth

Out of the Tunnel's Mouth

もはや元Genesisという肩書きも必要ないギタリストスティーヴ・ハケットの新作。去年のクラシックギターアルバムを挾んで、やっと彼のエレクトリック系ソロ作が出たと言うことで早速聴く。

Yesのクリス・スクワイアや元Genesisギタリスト同士のアンソニー・フィリップス、弟のフルート吹きジョン、元Kajagoogoo、Ionaのニック・ベッグス等を交え、長年共同作業をしてきたキーボードのロジャー・キングもいるけど、声の良いドラムの人の名前が見えないのはどうしてか。そもそもクレジットにドラムがないのだけれど。

一曲目「Fire on the Moon」はオルゴールの音を導入に、ハケットの渋いヴォーカルが静かに入ってくる。そこから突然ゴリゴリのベースが炸裂してコーラスが被せられる。ダークかつゴシックな雰囲気だけれども何かしら爽やかな印象があるハケットらしさ全開の一曲。
クワイアのベースが唸る一曲目から雰囲気たっぷりのらしい曲でうれしくなる。映像にはスクワイアはいないけれど。

二曲目の「Nomads」はフラメンコ調の流麗なギター一本でのイントロから、ヴォーカルパートに入り、間奏でまたもフラメンコギターが盛り上がってくると、そこへエレクトリックギターが鋭く切り込む怒濤の展開。ハケットの多彩なギターレパートリーを堪能できる。

三「Emeralds and Ash」ハケットらしい、暗いんだけど穏やかで優しげなメロディのヴォーカルパートが良い(この路線だと「Darktown」の「Man Overboard」が出色)。が、それは九分あるうちの前半にすぎなくて、後半からギターが唸るCrimson風な曲調に。

四「Tubehead」ベースを導入にギターがわりと自由に弾きまくるインスト。プログレ系では珍しいタッピングなんかも交えてハケットらしいギタープレイを楽しめる。

九分の「Sleepers」の序盤はストリングスとギターによるクラシカルな導入。オーケストラを従えたクラシックギターアルバムを出してもいるハケット得意のパート。そしてハケットのヴォーカルパート。この部分の雰囲気はさすが。いつしかドラムが入りヘヴィなサウンドに展開していく。ギターがひとしきりテクニカルに暴れ回るとそのままハードなヴォーカルパートへ。静かにフェードアウト。これもまたハケットのクラシックとロックギターとが融合したプログレ楽曲。

六曲目「Ghost in the Glass」は小鳥のさえずりが聞こえるアコギの演奏からブルージーなエレクトリックギターソロへと展開していく。

七「Still Waters」はわりとスタンダードなロックサウンドだろうか。女性コーラスも交えた歌の部分はでもそんなにスタンダードでもないか。ここではヘヴィなギターソロが聴ける。

ラスト「Last Train to Istanbul」はタイトル通り中東の雰囲気香るオリエンタルな一曲。ヴァイオリンのオリエンタルな演奏とシタールなどなど、かなり面白い。一つ前のエレクトリックアルバム「Wild Orchids」でも「Transylvanian Express」という曲があったように、どうも連作的に中東、東欧あたりの音楽を取り込んでみているようだ。


最近のエレクトリックアルバムはずっと70分を超える収録時間だったのだけれど、今作は8曲45分程度とかなりコンパクト。その分個々の曲の個性が埋もれず、アルバムとして良い感じにまとまっていると思う。

初期は頼りなかったヴォーカルも、最近は楽曲にふさわしい陰影をもたらしていて良い。ゴシックプログレ、と呼ばれるような暗く沈んだ雰囲気はまさにUKロック。暗いながらも美しいところがあるのがゴシックか。

クラシックギター、フラメンコ、ハードロック、プログレ、とアコースティックからエレクトリックまで多彩なレパートリーを存分に押し込んだバラエティの豊かさをハケット独特の雰囲気でまとめあげ、多彩ながらもまとまりのあるアルバムになっている。プログレ黄金期のプレイヤーのなかでもここまでの多彩さと現役っぷりは随一だろうと思う。