図書新聞に荻原魚雷『中年の本棚』の書評が掲載

中年の本棚

中年の本棚

既に入手できるはずの図書新聞2020年11月7日号に、荻原魚雷『中年の本棚』の書評「四〇代を生きるヒントを探し尋ねる記録」を寄せました。

古書店通いを日課とするライターが、四〇代から五〇になる頃、中年としての生き方を多彩なジャンルの本に探し求める読書エッセイでなかなか面白いです。そして著者オススメの星野博美は確かに良かった。あまり馴染みのない書き手だったので、とりあえず全ての単著を読んで著者のスタイルを調べた上でなんとか形にしました。著者の本としては本書は一回の分量が長い、という特徴は文中に盛り込めなかったのが惜しい。普通書評に自分のことは書かないんですけど、今回は読書エッセイが対象なのでちょっとエッセイ風に書いてみました。一応中身と絡めたオチにしたつもりですけど、面白いかどうかはまたちょっとどうでしょうね。あんまり面白いことは書けないなと思いました。

なお、著者はつかだま書房版後藤明生『四十歳のオブローモフ』に解説を寄せていて、そこでたぶん初めて読んだので、よく知らなかったんですけれど、読んでみて、なぜその解説を書いているのかがわかったのも面白かった。つながりがありつつ絶妙に私の守備範囲外に投げてきた編集さんの依頼も上手いなあと。作家のエッセイとかではない読書エッセイってそういえばほとんど読まないので。

著者は過去は玉川信明の大正思想史研究会に所属して、アナーキズムについて研究していたらしいのがなかなか面白くて、糾弾する側もされる側も経験があるらしく、それで政治的なものから距離を取った、ということが書かれていて、この経験は非常に後藤明生的なんですけど、しかし著書のなかで後藤明生への言及って数カ所しかなくて、メインで取りあげたことがないんですね。読んでる形跡はあるんですけど。

高円寺在住で古書店に日参するという著者の生活圏もそのスタイルも、かなり自分とは違っていてその点が面白くもあるんですけど、一番違うな、と思ったのは、小説家を読むにもまずはエッセイ集から読むっていうところですね。その発想はなかった。「軽エッセイ」とかそんな表現があったと思いますけど、そういうものを好む著者にとって、本や文章というのはまずその人の人となりとしてあって、文章を介して他人と触れあうこと、という印象があります。本、古書店、酒の席、というコミュニケーションとしての読書がある、というか。

そういえば『中年の本棚』は鈴木千佳子が装幀なんですけど、その前に読んでたのが新版『水晶内制度』でこれも鈴木千佳子が装幀。無関係だと思ってた本同士が同じ装幀家で繋がっていて驚いたし『中年の本棚』で知って読んだ星野博美の二冊が両方ミルキィ・イソベでさらに驚きましたね。

戸越銀座でつかまえて (朝日文庫)

戸越銀座でつかまえて (朝日文庫)

  • 作者:星野博美
  • 発売日: 2017/01/06
  • メディア: 文庫
星野博美は『戸越銀座でつかまえて』をまず読んで、なかなか面白いなと思って『島へ免許を取りに行く』も買っておいたんだけど、ちょうど戸越銀座のラストが免許、へのブリッジになってて、良い偶然だった。
島へ免許を取りに行く (集英社文庫)

島へ免許を取りに行く (集英社文庫)

『島へ免許を取りに行く』は、書評でも荻野魚雷が引用したところを引用したけれど、中年になって初めて免許を取る、しかも長崎県五島列島にある自動車学校で、という旅行の面白さと免許というできなかったことができるようになっていく学習記録の両方のノンフィクションになってて、非常に面白い一冊です。教習所に馬がいて乗ったりできる、非常に不思議な場所で、これはとりわけオススメの一冊ですね。