今年読んだ本のなかから九冊。これはツイッターの140字に収まる字数で選んだので冊数に意味はないけどこれくらいがちょうど良いかと思った。
西成彦『外地巡礼』 後藤明生論を含む文学論集で、
後藤明生のみならず
鶴田知也、
島尾敏雄、
目取真俊のほか台湾文学や
リービ英雄といった外地、移民などの境界にまつわる文学を博捜する一冊。
原佑介『禁じられた郷愁 小林勝の戦後文学と朝鮮』朝鮮で生まれた小林勝の日本の
植民地主義との戦いの
ありさまを読み込む評論。今もなおアクチュアルな日本における朝鮮蔑視の有様をえぐりだす文学を通じた峻厳な闘争。
陣野俊史『テロルの伝説
桐山襲烈伝』 『
パルチザン伝説』で知られる作家
桐山襲についてその闘争の有り様をたどり読み込み、作家の戦いを自ら引き継ぐような気迫のある本で、
天皇、
テロリズム、そして沖縄が重要なテーマになる点で、これもきわめて
ポストコロニアルな問題意識がある。植民地近代・日本のその根底。
田中里尚『リクルートスーツの社会史』リクルートスーツから見える戦後日本社会の一断面。凡庸なつまらないとされたものに踏みこんでみることで画一的と見えたものが持っている重要さを発見すること。
ケン・リュウ『母の記憶に』文庫版二分冊で読んだけれども、移民、植民地といった異質なものとの共存のテーマや、権力によって事実が葬られることへの抵抗などを描き出す中国ものの出来がやはり出色。
文字渦
- 作者:円城塔
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2018/07/31
- メディア: 単行本
円城塔『文字渦』文字をめぐる連作短篇集。科学的、数学的ロジックを屈曲させたSF的アプローチで書かれた東洋、漢字幻想
SF小説、だろうか。
山尾悠子『飛ぶ孔雀』初期のまだわかりやすい
幻想小説からずっと深化した不可思議な小説で、私ではまだ作品に理解が追いつかない。
オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』2018年の
ノーベル文学賞を受賞した
ポーランドのトカルチュクが評価を確立した一作で、
ポーランドの架空の小村の二〇世紀を描きながら、
キリスト教とは異なるすべての変化するものに神を見いだす。
ギョルゲ・ササルマン『方形の円』カルヴィーノ『見えない都市』を相互に知らないまま同時期に書かれた
ルーマニアの作家による架空都市連作集。建築の素養を持つ著者によるSFにも近い奇想小説集。
今年は他にも雑誌掲載作では笙野頼子の藤枝静男を題材にした『会いに行って――藤流静娘紀行』連作や、アンソロジーをまとめて読んだのが印象に残っている。アンソロジーのアンソロジー。
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ついでに今年のライター仕事。
『向井豊昭小説選 骨踊り』幻戯書房(解説鼎談に参加)
岡和田晃編『現代北海道文学論』藤田印刷エクセレントブックス(道新連載から笠井清論、
山下澄人論の
採録)
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の書籍二つと、
図書新聞での
6.15
陣野俊史さんとの
後藤明生『笑いの方法』をめぐる対談
9.7 はちこ『中華
オタク用語辞典』書評
岡和田晃『掠れた曙光』幻視社(のちに書苑新社から一般流通)の
DTP制作
でした。