スティーヴン・ジェイ・グールド「ダーウィン以来」

ダーウィン以来―進化論への招待 (ハヤカワ文庫NF)

ダーウィン以来―進化論への招待 (ハヤカワ文庫NF)

グールドの第一エッセイ集。何かの科学雑誌に長期連載していたものをまとめたもので、このシリーズは以下結構な数の続巻が出ている。もう全部読むかな、とか思うくらい面白い。

一章十数ページ程度で読みやすく、巧みにいろいろな学説の明快な解説や科学史のエピソードを語り、また章を八つのパートに再配置してそれぞれのテーマ性を印象づける編集がなされており、面白くてタメになる、を地で行っている。

はじめは突然変異と自然淘汰というダーウィン進化論の基礎の基礎からはじめて、ダーウィンの進化論が着想されたときの興味深いエピソードを紹介したり、変わった動物の具体例から進化の理論を例証してみたりと、タイトル通り進化論についての様々な知見が得られ、格好の入門書になっている。

進化論だけではなく、以前も紹介した、恐竜絶滅が隕石の衝突によるという説が猛批判を受ける元ともなった地質学における中心的ドグマたるライエルの斉一説は、ご都合主義的な天変地異説を否定して近代地質学の理念となった、という皮相な見方に対し、当時の天変地異説はそれほど迷信的ではなかったし、天変地異説の支持者であるアガシもライエルの著作にはかなりの程度までは合意を示していた、という興味深い事実を提示している。このことは、隕石衝突説が定説化したいま読んでみてもなかなか含蓄のある考察だ。

他にも、昆虫の大きさの限界から惑星の性質に至までを論じる大きさと形について論じた第六部や、最後の人種差別や知能について科学がいかなる振る舞いをし、科学がその時代のイデオロギーに強く影響されるかという科学の政治性を論じた部分なども、非常に面白い。科学は事実と解釈を扱うが、解釈はいつだって中立なわけではない、ということだ。

そのことは本書のなかで、いまでは大陸移動説を証明するとされる事実が、当時はさして重要でなく、大陸移動説を用いなくても説明できるとされていたことなどを紹介して、幾度も強調されている。本書はそうして、科学が必ずしも中立でいるとは限らないと、読者に注意を喚起しようとしている。

刊行が70年代ということもあって、私がみても内容が古びている箇所がいくらもあるが、それにしたところで面白い。学者によるエッセイの手本のような本。