「図書新聞」2019年9月7日号にはちこ著『中華オタク用語辞典』の書評が掲載

表題通りの原稿を書きました。おそらく昨日から書店などで入手できると思います。電子版もコンビニで買えます。


中華オタク用語辞典

中華オタク用語辞典

はちこ『中華オタク用語辞典』(文学通信) - 文学通信
版元のサイトには詳細な目次や索引が載ってて、どんな内容かざっくりわかります。

Twitterに書いたとおりですけど、オタクのSNSでの投稿を模した会話文などを通して、中国語のオタク用語を解説した一冊で、元々は同人誌だったらしいです。私は今回初めて読んだのですけど、オタク用語集という読み物とともに、中国ネット文化小史の趣もあります。台湾での使われ方も一応カバーされていますけど、基本的には中国を中心にしてあります。

個人的には「霊剣山」の名前をねじ込めたので満足してます。私が中華アニメに注目するきっかけになった一作。中国アニメとしては去年の「TO BE HEROINE」や「軒轅剣 蒼き曜」も傑作だったし、香港の漫画家が台湾のサイトに連載していた作品を中国でアニメ化し、日本語に翻訳した「実験品家族」なんかもありますけれども。

主な参考文献は天児慧中華人民共和国史 新版』岩波新書、遠藤誉『ネット大国中国』岩波新書、藤野彰編『現代中国を知るための52章 第六版』明石書店です。本書と密接に関係する点では『ネット大国中国』がいちばん面白く読めるかと思います。

中国共産党のスローガン「和諧社会」という言葉を建前に政治的、性的なコンテンツの規制が行なわれていて、「和諧」、日本語で言う「調和」がウェブページが削除されたことを示す隠語になっているというのは書評にも書きましたけど、この「調和社会」、伊藤計劃の『ハーモニー』をどうしても思い出しますね。グーグルがファーウェイとの取引を一部停止したという事件があって、そこでファーウェイが独自OSを開発してそれが「Harmony OS」だというのはもちろんこの「和諧社会」を元にしたものだ、というのは本書を読んでいたのですぐわかりました。

ネット大国中国――言論をめぐる攻防 (岩波新書)

ネット大国中国――言論をめぐる攻防 (岩波新書)

遠藤誉『ネット大国中国』岩波新書、2011年刊。習近平政権以前の刊行で古さはあるけど、グーグルの中国撤退事件から説き起こした中国のネット事情が詳しく描かれておりなかなか面白い。言論の自由がないというと簡単だけれど、ネットの人々――網民と政府の関係がいかなるものかを具体的に紹介してあり、参考になる。なかでも、炎上によって網民が行政や警察の不正を告発したりして解決に導いた事例がさまざまに挙げられており、一党独裁中共といえどもネットの民意を無視することができないけれども、それは党是に基づいた地方行政批判どまりで、中央批判はやはり危うかったりする。言論が逮捕にいたるかどうかという時にさまざまな条件があるけれども、特に重要なのは、外国勢力がその背後にあるかどうかというのは面白い。つまり党は西洋式民主主義をもっとも敵視しており、たとえば共産主義や革命精神にもとづいた批判ならば、削除はされても逮捕されない事例がある。
現代中国を知るための52章【第6版】 (エリア・スタディーズ8)

現代中国を知るための52章【第6版】 (エリア・スタディーズ8)

最近の中国事情としては『現代中国を知るための52章 第六版』が去年の版で習近平政権の雰囲気がつかめる。特に、習政権になってからの抑圧的姿勢の強化が国際政治の面からも解説されていて、南沙諸島での強行的な基地建設や金にものを言わせた台湾国交国を断交へと転ばせる外交政策ありさまなど。ただでさえ独裁的な検閲体制が、二〇〇〇年代の年二桁での経済成長によって世界第二位の経済大国となったことによる影響力の増大と、六四天安門事件の再来がいわれる今、中国の強権的なあり方はなかなか暗い見通しを与えてくれるものがある。