図書新聞にトカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』の書評が掲載

今日あたり発売の図書新聞2020年3月7日号にオルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』の書評「繰り返されないすべてのものたちの時間」が掲載されました。ここに参考文献の一覧を載せておきます。
昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

逃亡派 (EXLIBRIS)

逃亡派 (EXLIBRIS)

参考文献

●邦訳三冊以外のトカルチュクの著作
オルガ・トカルチュク「文学にあらわれた《中欧》という名の幽霊(ファントム) : 中欧文学は存在するか(抄録)」、久山宏一訳、「早稲田文学」2013年9月
オルガ・トカルチュク「番号」つかだみちこ訳、飯島周、小原雅俊編『ポケットのなかの東欧文学』成文社、2006年
オルガ・トカルチュク「冬空の郵便馬車」つかだみちこ訳、「月刊ショパン」2011年2月(『逃亡派』312ページ「ショパンの心臓」の別訳)
●トカルチュクへの言及
小椋彩「土地の記憶と確定されない境界線――オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』を読む」、「スラヴィアーナ」19号、2004年(誌名は本来「Славиана」の表記)
小椋彩「トカルチュクの「東洋的側面」について」、「西スラヴ学論集」12号、2009年
小椋彩「オルガ・トカルチュク」、奥彩子、西成彦沼野充義編『東欧の想像力』松籟社、2016年
つかだみちこ『シンボルスカの引き出し』港の人、2017年
●その他の文献
坂倉千鶴「ポーランドユダヤ人とユダヤ人文学」、宮島直機編『もっと知りたいポーランド』弘文堂、1992年
井上暁子「想起される地域――現代ポーランド語文学における国境地帯の表象」、柴宜弘、木村真、奥彩子編『東欧地域研究の現在』山川出版社、2012年
西成彦「複数の胸騒ぎ」2019年10月14日の投稿(こちらで井上論文を知った)

ポーランド戦後の反ユダヤ主義の煽動については木村元彦の記事がネットで読める。
ポーランドがいま直視する加害の歴史~「3月事件」とユダヤ排斥という過去 | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス

余談

オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』 - Close To The Wall
オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』とその目次 - Close To The Wall
本稿の内容は上掲ブログ記事ともいくらか重なるところもありますけれど、トカルチュクの邦訳著書と周辺の研究を参照して改めて書いたものです。ブログでもダニロ・キシュを引きましたけれど、ここを起点にして少しばかりユダヤ人に注目したところは他の書評にはないポイントかと思います。

ポーランドユダヤ人については本文ではかなり圧縮してしまいましたけれど、元々は「第二次大戦後、生き残ったポーランドユダヤ人は戦前の一割という惨禍に見舞われており、さらに戦後も反ユダヤの潮流は続き、六八年にも政府主導の反ユダヤキャンペーンが展開され、ポーランドユダヤ人はそのほとんどが国外に逃れ、国内に残ったのは二万人ほどだという」と書いていたのでここに置いておきます。さらに言うと、中近世のポーランドは例外的にユダヤ人に融和的で、戦前にはその数は三百万人を越えていたといいます。

トカルチュクの2014年の作『ヤクブの書』が18世紀のユダヤ人宗教指導者を扱ったものらしいことを知って、やはりユダヤ人のテーマがトカルチュクにはあるな、と思いましたけれど、つかだみちこの本によれば原書千ページの大著らしく、これはちょっと翻訳が出るかは怪しい気配がしますね。
18年ノーベル文学賞、オルガ・トカルチュクさんとは 絶え間ない越境、自由な想像力 沼野充義・東京大教授寄稿|好書好日

作中にしばしば描かれる終末論やルタが指摘するプラヴィエクの外にはなにもない、というような閉鎖性との関係なども気になったものの掘り下げられなかったところです。この点については小川洋子の書評がいくらか書いています。
死があり、レイプがあり、成功と失敗がある。ポーランド激動の歴史の揺らぎ | 文春オンライン

また、井上暁子「想起される地域」では、グダンスクを舞台にした作品としてパヴェウ・ヒューレ『ヴァイゼル・ダヴィデク』が論じられていて、これは東欧の想像力の続刊予定として名が上がってずいぶん経ってますね。非常に魅力的な作品に見えるんですけれども、さて。井上氏はプラヴィエクの書評を日経新聞に寄せてもいます。
プラヴィエクとそのほかの時代 オルガ・トカルチュク著 小さな村に流れる時間の物語 :日本経済新聞